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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第三十二話(志摩鳥羽編)
230/404

230部:小浜湊

九鬼・吉川連合艦隊の帰路は、天候が良く波も穏やかで、潮流に乗って順調に伊勢湾に向かう。

奇妙丸達は、九鬼澄隆の故郷である泊蒲にやって来た。現在は澄隆を追い出した鳥羽宗忠の支配地となっていたが、今回の遠征で叔父・九鬼嘉隆が宗忠の妹婿となって和議が結ばれ、澄隆も帰還する事が出来るのである。


・・・鳥羽氏は、もと橘姓で源平藤橘の四姓のひとつの系譜にある古代豪族である。先祖は武家化して鎌倉幕府を開いた頼朝に協力し、東北の由利の地に地頭として赴任している。遠江水軍がその時期に日本海沿岸に拡散したのだろう。尾張では、岩室氏が橘を祖としている。


泊浦を航行していると、澄隆帰還の連絡を受けた九鬼光隆の船が奇妙丸の出迎えに現れた。

「澄隆殿―!」

「叔父上―!」

手を振り返事する澄隆。

さっそく船が安宅船に並走し、光隆が跳び乗って来た。

「我らは織田奇妙丸様もお連れしています」

澄隆が、光隆に奇妙丸を紹介する。

「これは、奇妙丸様。お知らせすることがあります。小浜湊に武田家の船団が来たそうです」

「武田の?!」

「武田家の御家老衆と共に、瀧川水軍に追われた小浜景隆も戻ってきたとか」

「そうか、難しい状況になって来たな。

澄隆殿、鳥羽湊に向かう前に私達も小浜に向っても良いか? 私が出向いた方が早いようだ。私は信玄入道の義息子むすこになるのだからな」

「そうですね、武田家と事を構える訳には行きませんから」と澄隆。

「うん。天下静謐の為に織田家と武田家は一つにならなければならない」

「では、急ぎましょう!」

安宅船が小浜湊へと進路を変えた。


*****

武田水軍の出現を見て、答志湊からも織田家の軍船が出張し、その行き先を追っていた。

現在は、小浜湊に入港した武田水軍の様子を遠巻きに監視している。


織田家の木瓜紋と永楽銭の旗印を立て、奇妙丸の乗る船であることを示し小浜湊に入港する。

小浜湊に入った武田水軍も、遠征先という緊張下にあり、武田家に出仕して日も浅いが、地元の小浜景隆の軍船が湊を守備していた。

「手を出すな、松姫様の婚約者・織田奇妙丸様が乗船している旗艦だ」

九鬼澄隆が、大声で小浜の船に声をかける。小浜の船からは、小浜海賊の小浜民部左衛門景隆とともに頭巾を被り商人姿の老人が出て来た。

「これは、これは、織田殿。私は駿河商人・友野二郎兵衛尉に御座います。信玄公の命で商売にやって参りました」

と商売上の理由での入港であることを強調する友野。

・・・・友野家は駿河の大商人。今川義元から特権を与えられ保護されて来た。武田家にも上手く取り入り、引き続き市場、関所に関わる権利を保護されている。武田家支配下でも海路の商売を取り付ける為、志摩に来国したのだった。


「判った友野殿、ならば織田家で、武田家の皆様共々歓迎いたしましょう。我らも小浜湊に向かうが良いかな?」

友野をまっすぐに見て、出方を伺う。

「もちろんでございます。それでは、一緒に小浜湊に参りましょう」

こうして、船を並べて湊に入港する奇妙丸一行。


*****


湊に上陸すると、友野が早速武将達を連れて挨拶にやって来た。

「彼らは、私と共に参りました。武田の者達です」

上陸した奇妙丸達に、友野が武田家の大将達を紹介する。

「こちらのお武家は、武田家駿河先方衆の水軍大将・伊丹秀虎様に御座います、こちらは向井政重殿、それに小浜景隆殿に御座います」


「伊丹権大夫秀虎に御座います」

秀虎は、初老(40代)に差し掛かった、よく日焼けして顔の皺が奥深い。高い声の武将だ。

・・・・伊丹氏は摂津国の豪族。今川時代に駿河に来ていた処、信玄の父・信虎が武田家に仕えよと引き抜き、「虎」の字まで与えていた。今回は友野氏の御目付として従軍している。


「向井伊兵衛政重」

政重は秀虎と同じ位の年齢に見え、精悍な顔つきをしている。しかしどこか緊張した表情で奇妙丸を見ている。

・・・・向井氏は玉丸城の愛洲氏の重臣だったが、愛洲氏が北畠に吸収される際に北畠家の陪臣となった。しかし、北畠の家風に馴染めず、出奔し駿河の今川家に出仕していた。今回は武田家の後援で志摩国に帰還している。


無言で、奇妙丸の前に進み出た小浜民部左衛門景隆。

「小坂殿は武田家の家臣となられたか?」

小浜は、志摩の海賊衆・浦豊後と共に九鬼水軍と戦い、敗れて浦豊後守は戦死、景隆は逃亡していた。

「はい」

「ならば、我らは仲間となった。争い合う事もあるまい」

「小浜殿の帰還を認めるということで、宜しいですね」伊丹秀虎が奇妙丸の言葉を聞いて、確認する。

「ああ、それで構わぬ」

「良かったな、小浜殿」

小浜の配下の海賊衆に、湊の住人達は、感動して泣きだすものもいた。九鬼家に反抗した事で、小浜の民衆は圧政下にあった様だ。


*****


「設定集」の方に志摩国の水軍衆を追加しました。よければご参照下さい。

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