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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第三十一話(志摩女護島編)
229/404

229部:相差の伊藤

ようやく空が白み始め、夜が明けようとしている。

女御島の玉色姫は、未来を見通す能力があったので、海女達は事前に異変があることを聞いて、島の高台にある社殿に避難していたので全員無事だった。


一方、九鬼・吉川水軍は、的矢湾の入り口になる相差の沿岸でまた高波が来ることは無いか、海の様子を見て待機していた。


数え切れない銛先が船体に突き刺さっている。

「英虞衆の新武器は、危なかったな」奇妙丸が屋形の壁に刺さる1本を引き抜く。

「唐ノ国の石火槍に似ている武器です」

床に転がる銛先の一つを取り上げ、じっくりと表裏を見る政友。

「柄が短い分、飛距離が伸びるのでしょうか?」

火槍との違いを考える。

楽呂左衛門も興味深げに見る。

「面白いものが日本にはありますね」

呂左衛門の言葉に奇妙丸が答える。

「漁師が使う、離頭銛が進化したみたいだ」

於勝は引き抜いた銛を、陣盾に向けて投げ、銛の刺さり具合を楽しんでいる。

「魚は捕れなさそうな銛ですけど。火薬で飛ばすとは。いやぁ、よく考えますね」

「生産性から言えば、鉄砲の玉の方が大量生産できるでしょう」

於八が銛先の作成過程を想像し、その工程の面倒さを考える。

「発射した者は海賊だから、戦後に誰の獲物か判る武器を選んだのだろう」

奇妙丸が海賊の立場に立って考えた。

「志摩の海賊が銛を持っていたら、気をつけないといけませんね。火を噴いて飛んでくる」

政友が皆に教えるように言う。

「「うむ」」全員の意見が一致した。


翌朝、相差湊から、伊藤兵夫の船団が出撃し、九鬼吉川連合水軍を見つけて傍にやって来た。

「おーーーーい!」

帆の綱を持って船の先端に立ち、手を振る武将。鉢巻きに胴丸、籠手脛当ての最低限の軽装姿をしている日に焼けた青年武将だ。

「伊藤兵夫です、奇妙丸様でしたか」

「相差は大丈夫だったのか?」

「我ら、怪しい船団が安乗崎沖に居ると聞いて、相差から出航し湾外に出たところ、引き潮に続けて高波が来たのですが、外洋に出ていたので被害はありませんでしたよ。運が良かった」

織田家にとっては、まるで大丈夫な時を見測らったような瞬間に高波が来ていたのだ。


相差伊藤と九鬼の両旗艦が併走し、歩み板が渡される。

伊藤兵夫が九鬼の船に渡ってきた。

「昨夜の異変は、いったい何だったんでしょうね?」

相差の者達も、突然の天変地異に肝を冷やして、船内はその話題でもちきりだ。

「高波の原因は、わからぬ」

ダイダラボッチの様な巨人を見たとは、九鬼・吉川の船員は誰も言わなかった。


海賊船団の中で無事だった艦船は、出撃時の三分の一以下だ。

第五陣の和具船団が、反転していた為一番損害が少なかった。遅れて反転しようとした第四陣の艦船は、側面に高波を受けて横転し船員達は船外に投げ出された。

第一陣から第三陣までの船と、的屋水軍は渦に飲み込まれてほぼ壊滅した。

耐えた船は、もう織田方と事を構えている場合ではなく、生き残った仲間の船員達を回収して、早々に的矢湾を脱出していた。


「奇妙丸様たちは、これからどちらに?」

奇妙丸一行にひと通り挨拶を済ませた兵夫が奇妙丸に尋ねる。

「目的の物が手に入ったので、これから澄隆殿の故郷に一緒に帰還します」

奇妙丸と澄隆を見て微笑む。

「そうでしたか、それでは的矢湾の様子は我々が、確認しに行って参ります」

「うむ、宜しく頼んだぞ。女御島は御神領ごしんりょう故に無礼の無い様に気を付けて見守ってくれ。もし、女御島の海女達に困った事があれば、相差で保護してあげて欲しい。それから、英虞七人衆は侮れない兵器を持っている、油断なきよう頑張ってくれ」

「はっ、有難きお言葉。女御島の件も、ご期待に添えるよう努力致しまする」

「うん、頼んだぞ」

こうして、伊藤兵夫に後を託し、九鬼・吉川船団は、澄隆の故郷を目指し北上する。


*****


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