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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第三十一話(志摩女護島編)
220/404

220部:木綿藤吉

「どうして、このような素晴らしい物が今まで流通しなかったのだろうか?」

奇妙丸の素朴な疑問を聞いて、蔵田が木綿について説明する。

「似たような製法で作った糸は、今までにもあったのです。

それは、紙の材料にもなるこうぞの木皮から繊維を取り出したもので、駿河での生産が盛んで、今川義元の保護の下、駿河の豪商・友野氏の主導で行われた木綿作りが行われていました」

「義元公が?」

「今川家でも友野氏の木綿を重宝していましたが、流通が軌道に乗る前に義元公が信長様に討たれたので、駿河の木綿が全国に拡大することはありませんでした」

「そうだったのか」

「政情が不安定になると生産力も落ちますから」

腕組して深く頷く秀吉。

「我らの育てる綿花が、大陸から入って来たのは最近の事ですが、楮よりも綿の量が多く、いずれは綿花栽培が主流となるでしょう」

「木綿と言っても材料に種類があるのだな」

「そうです」


倉庫の外で足音が聞こえる。

「兄上、私は雪姫殿にこの布を買うことにしました!」

茶筅丸が、選んだ反物たんもの抱えて持ってきた。

「秀吉殿は、綱は買わなくて良いのか?」

反物を蔵田に見せる茶筅丸を見て、気付く奇妙丸。

「あっ、忘れておりました」

商談に夢中になって浜郷に来た目的を忘れていた秀吉。

「兄上、小一郎が既に買っております」

そこへ、秀長が太い綱を持って現れる。

「おお、流石わが弟」

秀長は、そそっかしい兄の良い補佐役を務めている様子だ。


「買い物は以上でしょうか?」

蔵田が、本来の奇妙丸達の買い物の目的を聞く。

「蔵田殿、他に何かお勧めの品はあるのか?」

まだまだ掘り出し物があるのではないかと、確かめる秀吉。

「お勧めがあります、どうぞこちらへ」

ひと際頑丈そうな土倉がある。

「おおっ、凄いな」倉に入ると見た事もないような珍品貴品が棚に並べられている。

「この紅色の装飾品は?」

「海亀の甲羅と、赤珊瑚から作ったかんざしと帯飾りです」

次に持ってきた物は、箱に収められた小さな玉だ。

「これは?」

「志摩の海でとれるアコヤ貝の真珠です」

「美しい・・」

簪を雪姫の髪に付けてみるように勧める茶筅丸。

「雪姫にとても良くお似合いですよ」

蔵田が雪姫の姿を褒める。

「有難うございます」

「まるで竜宮城に居る、乙姫様だ」と茶筅丸。

雪姫も目を見開いて、棚に置かれた珍しい品物を見ている。


二人を見て、ある考えが思いつく奇妙丸。

「めでたい紅白の飾り物、冬姫の祝物に良いかもしれぬ」

妙案に手を打つ。

「蔵田殿、これで首飾りを作るとどれくらい必要だろう?」

「紅白で糸を通して回すなら、二百から三百玉は必要ではないでしょうか」

「そうか、とても貴重な物なのであろう?」

「ええ、現状、戦乱の続く志摩では、数を揃える事はなかなかに難しいです」

「今は無理かもしれぬ」

他の物で考えるか、と諦める気持ちになる奇妙丸。


「これは、どこで手に入るものなのですか?」

於八が興味を持って蔵田に聞く。

「志摩国の英虞湾周辺ですね」

「志摩? 九鬼殿の本拠の近くかな?」

於勝が少ない知識で志摩の地名を思い出している。

「澄隆殿はこれらの特産品を知っているのだろうか?」

同じ水軍上がりなので、九鬼の事情を政友に聞く奇妙丸。

「幼い頃に故郷を追われたそうですからね」

政友が知っている範囲では、九鬼氏は長く故郷を追われ苦労をしている身の上のはずだ。


「今は大湊で出航の準備をされています」

桜が、澄隆が今頃は何をしているか把握していた。

「まだ、間に合いそうだな。よし、澄隆に掛け合って、入手できる所へ連れて行ってくれないか聞いてみよう」

「「承知しました。若様」」

奇妙丸一行は、大湊に行くことになる。


「それでは、秀吉殿に蔵田殿、先に失礼するぞ」

「はい。奇妙丸様。木綿の件、蔵田殿と詰めても宜しいでしょうか」

「ああ。検地のついでに、農家の方々に木綿の生産を依頼してみるのも良いかもしれぬな」

「はい。やってみます」

こうして、奇妙丸の一言を忠実に実行する秀吉が、行く先々の農村で農家を説得し木綿の栽培が始まるのである。木綿が評判を呼び、織田家の検地を喜んで農民たちが受け入れるのは、まだ先の話だ。

農家に副業の「福」をもたらした木下秀吉は、この後に「木綿藤吉*」として畿内で織田家臣随一の有名人となり、農家の支持を得るのだった。


*****


*由来はフィクションです。

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