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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第三十一話(志摩女護島編)
219/404

219部:青芋(あおそ)

伊勢浜郷

内宮と結ぶ五十鈴川、外宮と結ぶ勢田川の合流付近一帯を浜郷と呼んでいる。大湊付近の沿岸部の村も含めた七か村で浜七郷とも呼ばれる。


伊勢神宮の門前町である宇治山田を、海や川の漁労活動だけでなく、各地から運ばれる兵糧物資の受け入れ口の湊として経済的に支えるている為、織田家の地元・津島湊の五ケ村よりも、大きな湊町だ。山田から、勢田川を船で下り浜郷にやって来た奇妙丸一行。

「ここも素晴らしい湊町だな!」

奇妙丸に於勝、虎松と与平次は船から乗り出して町の様子を眺める。

「伊勢湾各地からの物資が運ばれて来ています」

政友が答える。

「坊丸もゆっくりと見たかっただろうな」

「そうですね、奇妙丸様には特別に信長様が機会を設けて頂けたのでしょう」

「坊丸の分まで学んで帰ろうか」

素直な奇妙丸を、温かい目で見る政友に楽呂左衛門。


「兄上~」浜郷の波止場に着くと、先に茶筅丸と雪姫の一行が湊まで来ていて、奇妙丸の到着を見て傍までやって来た。

「茶筅丸に雪姫?」

「雪姫に勧められて着物の生地を見に参りました」

「おお、そうか」

「御師・蔵田紀伊守殿の所に、沢山の服の生地があるのです」

「岐阜に、京の三条西殿がなんとかしてくれと言って来た、蔵田家の?」

「蔵田殿は、上杉殿の青苧代官も兼ねておられますからね。元々は伊勢の御師をされていたのですよ。雪姫から教わりました」

雪姫を見る奇妙丸。

「雪姫殿、宜しくな」

「義兄上様、よろしくお願いいたします」

慇懃に礼をする雪姫。


「若様~」

そこへ、船に乗った織田の侍衆がやって来て、一行に加わる。

「奇妙丸様、私も参りました」

「おお、藤吉郎! いや、秀吉殿。すまぬ思わず名を呼んでしまった」

「奇妙丸様だけは、いつまでも藤吉郎でよろしいですぞ」

「いやいや、もう立派な侍大将殿ではないか。秀吉殿!」

照れて頭をかく秀吉。

「私達の間柄はいつまでも変わりませぬ」

「そうだな。生駒屋敷の日々のままか。ところで、秀吉殿は何の用事で?」

「橋を架けるときに使う、綱を求めに参りました。魚網作りが盛んで、良い縄があるそうです」

「なるほど」

陸に上がって、蔵田家まで出向く一行。


「ここが、蔵田殿の商い場か」

「たのもう!」

秀吉が代表して門をたたく。

「これは、これは、織田様、北畠様」

茶筅丸が、あらかじめ使者を派遣していたので、蔵田紀伊守が出迎える。

「蔵田殿、世話になる」

礼をする一行。

「我があるじ上杉入道謙信様から、お越しになられた時は、くれぐれも宜しくとのことでしたから」

商売人らしく笑顔で迎える蔵田紀伊守。

「私は京都奉行も務めました木下秀吉です。京都では蔵田五郎左衛門尉殿から、色々と助言を頂きました」

「おお、木下殿か。いろいろと噂は聞いていますよ」

「それは、嬉しいですね」

はっはっはっは

ハッハッハッハ

両者の空笑いが続く。

「早速ですが、雪姫殿に似合う生地をみせていただけますか」

奇妙丸が切り出した。

「はっはっ、そうですな。それではこちらの倉の方へと」

「わくわくします」と商屋を探検することに興奮する雪姫。

北畠の御所から、外の世界を見る事は余り無かったのだろう。

「そうですね、雪姫」

茶筅丸が雪姫の手を取り門を通る際に段差を越えられるように手を貸している。


蔵田が、広大な屋敷内を丁寧に案内して歩く。一族の惣領である蔵田五郎左衛門が、上杉家の家臣となる前は伊勢御師をしている事もあったので、宿屋としての機能も兼ね備えているらしい。


「これは青芋(あおそ:イラクサ)で作った生地であります」

青芋は越後の特産品で、京都に運ばれて庶民の着る衣服の素材として重用されている。謙信から頼まれて蔵田五郎左衛門が越後の青苧を管理し、京都では上杉家の武将・神余親綱の保護の下、蔵田家により青苧が売買されている。

「この材料は甲斐国で最近生産されたものであります」

「なるほど、甲斐の物も駿河から運ばれるようになったのか」

「それから、皆さまにはもっと凄いものを見せましょう」

「なんですか?」

「愛洲殿が中国から持ち帰った苗木から、挿し木したり種を残したりして地道に増やした物から、繊維をとって作った布です。木綿と呼んでいます」

「木の綿ですか?」

「浜郷で、細々と作り始めて四十年になりますかな。この国では冬にすぐに枯れてしまう難しい木です。毎年、種を蒔いて育てています。軌道に乗って衣服が作れる程に沢山出来るようになったのは、ほんの五年程前ですかな」

「どれでしょうか?」

「あそこの棚にあります」

「おお」

「素晴らしい」

「触れても宜しいかな?」

うん。と頷く蔵田紀伊守。

「これは!」と肌触りに驚く。

「肌に優しい感じがしますね」と茶筅丸。

「柔らかい」雪姫も肌触りを楽しんでいる。


「蔵田殿、これを京都まで運ぶ任、この藤吉郎秀吉に任せては頂けませぬか」

「これはまだ、謙信殿にも生産できるようになったとはお伝えしていないのだ」

「私は若い頃は針を売り歩いていたこともあるので、糸の良さが分かります。これは素晴らしい」

「青苧は公家殿の介入が厳しくて独占販売できぬ。なら、我々で別の収入を切り開きませぬか?新規事業で御座る」

「う~む、そうじゃのう」

「木綿を流行らせましょう。私が木綿藤吉と名前を変えても良いですぞ。京都での分け前はこのような感じではどうですかの?」

秀吉の頭の中では、木綿を利用した新しい商売が、計画されて行っている様子だ。


「秀吉殿、そのような話は雪姫の前では」

と迷惑そうな茶筅丸。

「では茶筅丸と雪姫は、こちらでゆっくりと布を選んで、その話、別の場所でいたさないか? 私もその話しを聞いてみたい」

奇妙丸が秀吉の考えを聞こうと、蔵田を誘導する。

「そうですな、あちらの居館で茶でも飲みながら」

蔵田紀伊守も奇妙丸が乗って来たので商談を続ける気になったようだ。

「では、ご案内致しますぞ」

蔵を出る一行。

はっはっはっは!

ハッハッハッハ!

今度はいつまでも二人の笑いが庭先まで続いていた。


*****

新年あけましておめでとうございます。


「道中記」は連載を始めてからの時間経過が、まだ永禄12年のままですが、もう少しお付き合い下さい。

時の経過が、ほぼ一年がかりですね(笑)

毎年が奇妙丸様の貴重な一年ですから、じっくり書き上げたいと思います。


本年もどうぞよろしくお付き合いお願いいたします。


・・・・・

秀吉さんは、136部以来ちょくちょく登場。

これから本編に、北天の聖将・上杉謙信公が、ちらちら影をみせてきます。

名前があがるだけで、ときめくのは自分だけでしょうか(笑)。

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