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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第三十話(伊勢編)『奇妙丸道中記』第三部 織田冬姫
216/404

216部:愛洲八幡斎

「腹は切らぬぞ! その前にお主の首が飛ぶ!」

大夫の合図で、息子の勘右衛門尉が邸宅の中から食客らしき男を連れて来た。

「「先生、お願いします!!」」

長身で、贅肉は無く、目つきが座った侍だ。

「愛洲八幡斎と申す」


・・・・愛洲家は、国司・北畠氏の伊勢守護代を勤めた豪族だった。愛洲忠行は伊勢神宮に干渉し内宮と外宮の争いを仲裁している。忠行は養子をとり(北畠)政勝を迎えている。愛洲家は幕府に直仕し、幕府管領・細川家にも見込まれ、伊勢水軍を率いて、瀬戸内海の細川家お抱えの水軍・安富氏とともに八幡船からなる「八幡水軍」を結成し琉球や半島、唐国まで出向していた。

次の久忠(移香斎)は剣聖と呼ばれる達人で「陰流」を創始した。実子である小七郎宗通(元香斎)は、関東の佐竹氏に仕官し「陰流」を関東に広めた。その庶兄・愛洲八幡斎は剣客として諸国を放浪していた。


「行くぞ!」

呟くとともに一閃、信長をめがけて愛洲の居合が空気を裂く。

キイーーーーーーーン!

「御免!」

久太郎が持っていた刀で、太刀先をいなす。

「堀久太郎秀政、参る」

秀政は、小姓衆きっての剣術の使い手だ。

「矢部善七郎、参る!」

善七郎も秀政に引けを取らぬ腕前である。

「菅屋於長、参る!」

於長は、七本槍の造酒丞信房の息子なだけあり、武術に通じている。槍が小姓の中では随一で、剣は二人に準ずる腕前だ。

剣術に自信のある三人が次々と斬りかかるが、愛洲は三人を相手に余裕で受けて立っている。

先程より表情は嬉々としており、真剣の戦いを楽しんでいる様子だ。

少しずつ、愛洲の剣先が鋭くなり、堀、矢部、菅屋の服が切り刻まれてゆく。

「わざと紙一重で服を斬っているのか?」

感心する信長の言葉に、ニヤリと反応する愛洲。

信長の小姓衆が苦戦する。

(こ奴、奇妙丸の剣の師匠に良いかもしれぬ・・)

「お主! 一万石で余に仕えぬか?」

暗殺者の調略を始める信長。

「ハッハッハッ、信長の首を取り、陰流を天下に示す好機。一万石では安い!」

会話をしながら、瞬足で信長の傍に迫る。

小姓達が囲んでいる信長の額目掛けて、必殺の斬撃が振り下ろされる。

「殿、危ない!」

カッシーーーン!

宣教師から貰った南蛮兜を盾にして受け止めた信長。

兜に食い込む刀。

「ふむぅ、惜しいな」

何に向けて発した言葉か分からないが、冷静な信長。

愛洲が刀を引き抜くとともに続けて、引き面が繰り出される。

キィイイイン!!

愛洲の必殺のニノ太刀が弾かれた。

「ここは私が引き受けます!」

「おう!」と答える信長。


「奇妙丸様家臣、伴一郎左参る!」

キュイーーンと、今までとは違う、刀身が擦れ合い尾をひく様に火花が飛び散る剣戟。

「お主、忍びか?!」

普通の剣術ではない太刀筋に戸惑う愛洲。

「兄上、私も!」

三郎も戦闘に加わる。

キュン!

カシャーン!と金属音とともに火花が散る。

焦げた空気が香る。

伴兄弟が、甲賀流の剣術で斬りかかっても、一重でかわし、急所に向けて剣を繰り出す愛洲。

必殺剣をかわす伴ノ一郎と三郎。

打ち合うほどに、ますます研ぎ澄まされてゆく愛洲の剣技。

伴兄弟も次々と技を繰り出し、他の者が加勢に加わる余地はない。余計な助太刀はかえって伴兄弟の剣を鈍らせるかもしれない。

三人の乱戦は、まるで名人の剣舞を見ているようだ。

「陰流・・、面白いな。が、私の物にならぬなら不用だ」


バァーーーーーーン!

一発の銃声がこだまする。

「信長?」

愛洲八幡斎が信長を見る。

信長が構える愛用の南蛮銃。銃口から煙があがっている。

「剣技を極めても、一丁の鉄砲には敵わぬ」


いつまでも続くかと思われた愛洲の舞が突然幕を閉じる。

動きの止まった愛洲に、伴兄弟の刀が突き刺さった。

「お主達の剣技、見事である」

信長は伴兄弟の働きに満足そうだ。


倒れた愛洲を見て、驚く福井大夫親子。

「「信長様、お許しを!」」

「余が斬ってやろう、そこへなおれ」

「「ひぃいいいいい!」」

逃げ回る二人を捕える小姓衆。

堀秀政から太刀を受け取る信長。

「何をする!神に仕える神聖な私を斬ると神罰が下りますぞ!!」

必死に抗議する福井大夫が、小姓達により信長の前に引き出される。

「御助けを!」

「ならん」


福井大夫の真っ二つになった姿を見て、手を振り払って逃げ出す。

玄関の奥の間にある箱の中に隠れる息子の福井勘左衛門尉。

信長が、漆で塗り固められた強固そうな長持(和櫃)に近づく。

「長谷部、圧死斬へしきる!!!」

愛刀の名を呼び気合を入れる信長。

「「ひいいいいい・・・・・」」

漆塗りの分厚い箱を突き抜けて床まで切り裂く。

箱からは声が聞こえなくなった。


((凄い))

ブルっと身を震わす伴兄弟。鳥肌が立っている。

御師福島・福井大夫の関係者たちは、一斉に丹羽長秀の部下達に取り押さえられた。

信長に歩み寄る、包囲軍の司令官・丹羽五郎左衛門長秀。

懐から和紙を取り出す。

「お見事に御座います」

差し出す和紙に刀身を挟み引き抜く信長。

「後は任せた、五郎左」

「承知!」


*****


*人物、愛洲八幡斎さんはフィクションです。

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