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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第三十話(伊勢編)『奇妙丸道中記』第三部 織田冬姫
213/404

213部:伊勢大湊

伊勢大湊。

・・・・伊勢神宮の門前湊として栄える。大湊から太平洋側に抜けて五カ所湊に出る交通路があり、志摩の海賊を避けて通る安全な道として重宝された。陸の熊野道、海の紀州水道との重要な交差路として、かつては伊勢守護代・愛洲家が要所を抑えていた。道の付け根に当たる大湊は西と東の海を結ぶ要衝である。


湊には、津島湊から来た織田家の艦船が警護に当たっている。海上を守備するのは服部兄弟の指揮する軍船だ。

津島衆には、伴ノ兄弟が最近見知った武将も居る。

「奇妙丸様の使い、伴ノ一郎左衛門です。こちらに熱田から伊勢御師・福島の船は来ていませんか?」

身元の証拠に織田木瓜の家紋入りの刀鍔つばを見せる。

「確かに、奇妙丸様のご身内に間違いない」

一郎を対応したのは服部一忠の弟、小藤太忠次だ。

「伊勢御師の船、あれで間違いあるまい」

忠次の示す船は、帆はたたんであるが、舳に取り付けられた大黒天の金属製の飾りに彫り込まれた家紋は福島家のもので間違いない。

「鳩よ、桜の所まで頼んだぞ!」

パタパタパタッ 鳩が磯風にも負けずに飛んでゆく。


・・・・・

「鳩が来ました」

「おお」

「一郎兄からです」

「陸路なのに、我らより先に着いたのか? 流石は一郎左だ、なんと書かれている?」

「大湊に、御師船が停泊しているそうです」

「やはり大湊だな!」


*****


大湊。

伴ノ一郎左衛門と合流した奇妙丸。

「よく調べてくれたな一郎左。あの船なのだな。

一郎左は、父上に御師達の謀反を伝えてくれないか、船江の本田党の動きも怪しいらしいのだ。細汲湊も危ないかもしれぬ。一刻を争う」

「判りました」

「私は早く冬姫を助けたい。あの船を確認してみる」

「はっ、それではお気をつけて」

「一郎左もな」

一郎左は桜と視線を交わし、闇に消えた。


伴兄弟の長男、一郎左は短期間に熱田から大湊を走破した。兄弟の中でもすべてに格上の能力を有し、潜在能力は甲賀衆でも忍び筆頭を狙える優れた忍者だ。甲賀の若手の中でも将来が期待されていたが、六角家滅亡の際に兄弟を引き連れて尾張に帰還し、織田奇妙丸に仕官して「御庭番」を任されたのだ。奇妙丸は伴一郎左衛門と、彼の率いる伴ノ衆に信頼を置いている。


*****


奇妙丸が大湊に向かって居た頃、信長は北畠一族の坂内への退去と、大河内城の接収を見届けた後、瀧川一益に大河内城の当番を任せる。

そして、細汲の湊町は福富秀勝に任せて、伊勢神宮の門前町である宇治山田に向けて南下していた。

瀧川一益は大河内城に続けて、北畠氏の家臣の籠城する各支城に接収の兵を向けていたのだ。


*****


大湊に停泊する御師船では、長嶋浪人衆の頭・後藤基成が留守番をしていた。


「あの船だな」

帆をたたんで停泊している御師船に静かに近づいてゆく。

船を取り囲む奇妙丸船団。

船に備え付けの「がんどう提灯サーチライトのようなもの」で照らし出す。

四方から照明の明るさで、異変に気付いた基成がとび出してきた。

「そこの船、検閲させてもらうぞ」

基成と目が合った津田坊丸が声を掛けた。

「これは、伊勢御師の船だ。越権行為ではないか、無礼だぞ! 将軍様に訴えるぞ」

無礼と言われて、九鬼澄隆が怒って答える。

「私は志摩海賊の九鬼澄隆だ! どこへでも訴えてみよ!」

無法の海賊を名乗り、御師船でも関係ないと開き直る九鬼。


「海賊か!」

後藤は迷わず防戦する気になる。海上で海賊との遭遇はよくある事。

「海賊」との声に反応した、浪人衆達が甲板に次々と躍り出てきた。


しかし、四方から船上をがんどう提灯で照らし出され、後藤達は不利を悟る。

「皆、脱出して弾正殿へ知らせよ!」

「「はっ」」

「切り開くぞ!」

「「おう!」」

掛け声とともに覚悟を決めた浪人衆。

次々と浪人衆達が、御師船から各船に跳び移る。

灯りを狙って次々と蹴り倒す。暗い中での乱戦が始まった。


混乱する各船の中で、後藤が奇妙丸の壱番船に跳び込んできた。

至る所で浪人衆後藤家の侍達と、船員の熱田加藤家の侍達が切り結ぶ。

ついには、後藤基成が奇妙丸に斬りかかって来た。

カシーーン!と火花が散る。

眼前で、鞘から少し抜いた刀の峰で受け止めた奇妙丸。

「何故、そこまで織田家を恨むのだ」

刀の向こうの基成の顔をみて問う。

「我一門、後藤千代姫は采女落城の際に、井戸に飛び込み死んだのだ。織田家が伊勢に侵攻しなければ、姫には明るい未来が待っていたはずだった」

「そうか、その件は私が詫びる!

しかし、私は戦争で死ぬ人をこれ以上出さない為に、天下を統一したいのだ。共に戦い、世が静まってから、寺を建てて姫の冥福を末代まで祈ろうではないか!」

「黙れ!! 俺は織田家を生涯許さぬ!」

「冬姫を攫って何になる?!」

「皆、私と同じ思いをするがいい、ここにはもう姫はおらぬ!」

基成が後方に跳び、横から斬りかかった桜の刃をよける。

「その刀、その物言い、お主は織田家の奇妙丸か?!」

「そうだ」

「姫は残念だったな。ハッハッハッハ!」基成はもう作戦が成功したものと思っている。

「おのれ!」桜が立て続けに手裏剣を投げつけ、それをかわす基成は、怒り頂点の桜の激しい攻撃に笑う余裕がなくなる。


弐番船でも奇妙丸軍の反撃が始まる。山田勝盛と於八が先頭に立って浪人衆を切り伏せている。

参番船では服部政友と弥富の元海賊衆が、ここは俺の船とばかりに水を得た魚のように浪人衆を圧倒し、於勝が出る幕がないほどだ。

四番船でも坊丸と楽呂左衛門が力を合わせて浪人を撃退している。坊丸は剣術の腕前も奇妙丸に引けをとらないようだ。

九鬼澄隆の船では、冬姫女中隊が奮闘する。

「薙刀隊前えー!」お久の声が響く。

「「えいっ!やあ!!」」於妙の掛け声で、皆一斉に薙刀を振り下ろす。巨大裁断機のような一糸乱れぬ上下の動きに浪人衆はたじろぐ。


「船尾に追い詰めて、射掛けよ!!!」

加藤次郎左衛門が大音声に、各船の加藤家の者達に聞こえる様に指示する。

加藤家の者達も落ち着きを取り戻し、松明を掲げ明るさを取り戻して、浪人衆を追いこみ始める。

騒ぎを聞きつけ、湊岸からもがんどう提灯が一斉に加藤・九鬼の連合水軍に向けられた。


「飛び込めーーー!」

後藤が叫び、海に飛び込む。

浪人衆が次々と後藤に続く。

海上から矢を射かけるが、灯りの外まで無事に泳ぎ切った浪人衆は闇の中へと消えていった。


服部小藤太忠次さん、105部に登場。

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