表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第三十話(伊勢編)『奇妙丸道中記』第三部 織田冬姫
211/404

211部:傾奇者

伊勢四日 市庭いちば湊。かつては市庭浦とも呼ばれている。

・・・・桑名湊に比べ小規模ながら、代替湊として荷揚げに利用され、周辺の二日市や三日市へと陸揚げした物品が搬出された。室町期に伊勢守護の拠点となる守護所(本警護)の分署として新警護が置かれ、整備された湊町へと育っていた。


市庭湊には、瀧川家の家老・犬飼助三が警護の任についている。

「奇妙丸様の使い伴ノ三郎左衛門と申す。こちらに熱田から伊勢御師・福島の船は来ておりませぬか?」

伴兄弟の三男、三郎はあまり人とは接しないが、黙々と任務をこなす堅実派だ。剣術が得意で、どのような潜入困難な城でも、潜り込んでの任務達成力は高く、兄・一郎も信頼を置いて単独行動を任せる事が多い。忍術・剣術ともに兄弟の中でも随一といえる存在だ。


証拠に織田木瓜の家紋入りの刀鍔つばを見せる。

「確かに奇妙丸様のご身内に間違いない。伊勢御師の船は来ていませんが、沿岸を通行する船をみましたな」役人的な態度で接する犬飼。

「どこへ向かって居ましたか?」

「南に向かっていましたな」

「情報、かたじけない」話は盛り上がらないが、互いに真剣なやり取りで、言葉に嘘は無いと思う。

三郎は、御師船がこの湊に立ち寄っていないことを悟る。

活況のある市場には立ち寄らず、海に突き出た岬に向かう。

「鳩よ、桜の所まで頼んだぞ!」

パタパタパタッ! 伝書鳩が磯風にも負けずに勇ましく飛んでゆく。


・・・・・

「鳩が来ました」

「おお」

「三郎兄からです」

「なんと書かれている?」

「四日市庭湊も、御師船は来ていないそうです、しかし沿岸を南に向かう船があったと」

「そうか、このまま行くぞ」


****


楠湊

神戸家の湊は、伊勢方面の番頭、瀧川一益が管理し、その与力である大野佐治水軍が駐留している。

この湊には、先に桑名を訪問し終えた二郎が訪れる。

伊勢御師の船が立ち寄っていた情報を掴む。上陸して湊町に立ち寄った形跡はない。どうやら物資を補給するために立ち寄っただけのようだ。

「既に出航したか」

ただ、長島の浪人衆が御師船に乗り込んだという気になる情報があった。

「鳩よ頼むぞ!」


白子湊

・・・・白子湊も神戸家の擁する湊町である。禅宗の古刹があるが、伊勢参宮の参拝客が泊まる宿場としても栄えた。

この湊には知多半島の荒尾氏の水軍が駐留していた。

此処には、三郎が訪れた。

「立ち寄った気配はないな」


両湊を有する神戸家は、関家の分家ながら経済的に本家を凌駕し、戦国大名化していたが信長の勢力が進出するに及んで、養子に信長の三男・三七を迎え、織田家に従っている。一見平穏に見える城下だが、潜在的に織田家に対する警戒心を神戸侍、領民は持っている様子だった。

二郎、三郎の聞き取り調査も、住民の口は重く成果は得られない。


****


伊勢安濃津湊。

・・・伊勢守護となった土岐氏が、安濃津湊と隣接する安乃津市を保護し、伊勢国随一の湊町に育て上げた。東海道の物産が多く荷揚げされ、伊賀・大和国方面に搬出される。また、伊勢参宮途中の参拝客の宿場としても栄えた。


安濃津は織田家一族の津田一安が湊の軍司令官を務めている。一安は武田家に一時出仕しており、信玄の命を受けて尾張に帰国していた。甲州武田家との窓口も務めている。津田一安の下では、地元の海商の吉川氏、長谷川氏が警護についている。


湊の実質的な管理は、与力として佐久間信盛配下の鳴海・山崎衆と、林秀貞配下の荒子水軍が警護を請け負っている。

伴ノ四郎が駆け込んだ陣所は、荒子城から派遣された前田家の陣所だ。前田家の面々は、隣接する蟹江城や、尾張大野城の瀧川水軍とも、尾張沿岸の警護衆として旧知の中で縁戚関係も結び、絆が深い。

「奇妙丸様の使い伴ノ四郎左衛門という者です。こちらに熱田から伊勢御師・福島の船は来ていませんか?」

伴兄弟の四男、四郎は動物を良く使う。今回の伝書鳩は四郎が飼育してきたものだ。それに、岐阜城や清州城でも薬草を栽培し医術にも通じている。山越えや川下りにも通じ、一番野生児に近い生活を送ることが出来る能力がある。


証拠に織田木瓜の家紋入りの刀鍔つばを見せる。

「確かに、奇妙丸様のご身内に間違いないですな」四郎に応えるのは、警護の責任者・前田利久だ。

「伊勢御師の船ですか? あいにくですがここ数日はみていませぬ」

そこへ、傾奇者の好む華奢かしゃな直垂を着る体格の良い若者が現れた。

「お主、奇妙丸様の傍に仕える者か?」

逆に質問する若者。

「はい」

「奇妙丸様はどのようなお方だ?」

「大きな器をお持ちです。生涯仕える君主と決めております」

「ほ~う(生涯仕えるに足る君主か、そのような主の為に命を懸けてみたいものだな)」

「これ、利益! 息子が失礼なことを」利久が慶次を叱る。

「いえ、構いませぬ」

「十日ほど前に、沖を大湊方面から北へ向かう船を見ましたよ、帆に記された紋は、あれは福島大夫の紋だった」

「お主、沖を通る船の紋が見えたのか?」驚く利久。

「暇だったので」と見当ちがいの返答をする慶次。

「有難うございます。有力情報です」

「奇妙丸様の処で何か事件でも?」

ニヤリと不敵に笑う慶次。

「急ぎますので利久殿、利益殿、それでは」

質問には答えず深くお辞儀をして、その場を風のように去る四郎。

四郎を見送る前田親子。

「いい面構えをしているやつだったな・・」と呟く慶次を、優しい目で見る利久だった。


(面白そうな男だったな)

男の人相を思い出しながら、近くの岬まで走る四郎。

「鳩よ、桜の所まで頼んだぞ!」

パタパタパタッ 鳩が磯風にも負けず飛んでゆく。


・・・・・


「鳩が来ました」

「おお」

「四郎兄からです」

「なんと書かれている?」

「安濃津湊は織田方に味方しているので、御師船は来ていないそうです。ただ、十日ほど前に福島大夫の船が北上したとの事」

そこへ、鳩が次々と舞い降りる。

「二郎、三郎兄からの続報も来ました」

「なんと」

「二郎兄の寄った楠湊に、長島の信者の船と福島大夫の船の出入りがあったようです。そして伊勢御師船が南に向かったと」

「総合すると南から来たようだな。よし、更に南に向おう!」


*****


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ