201部:戦車
作戦を実行する前に政友や勝盛も戦車を操縦してみたが乗馬とは勝手が違って、誰も戦車を上手く乗りこなす事は出来なかった。
結局、当初予定の通り楽呂左衛門が運転し岩崎城へ接近する事になった。
「振り落とされないように!」
「「おう!」」
「では、いくぞ!」
楽呂左衛門が、馬に鞭をいれる。
荷台に於勝と於八を載せて、戦車が走り出した。徐々に速度を上げて岩崎城の東大手門へと向かう。
一人の白武者が、今まで見たことのない不思議な乗り物で城門傍まで近寄ってきた。
岩崎城の物見櫓の監視兵は、見たこともない荷馬車がやって来たので、急いで警戒の鐘を鳴らし、城主・氏織へ連絡をする。城壁に集まった警備兵達も何をするものかと様子をうかがっている。
戦車が反転し城門に対して背を向ける。
荷台に隠れていた於勝が鉄盾を立ち上げ、於八に声をかける。
「いいぞ!」
「おう!」
於八が鉄盾の上部に逆三角形に抉られた窪みに、大筒を設置する。
城壁の警備兵、大手門櫓二階欄干の物見兵が、隠れていた二人が持ち出した物騒な武器に驚く。
「“蟹江甲羅割零号改”、撃ち壊すぜ!!」
城門内側の兵達に向かって、物見兵が絶叫する。「ふせろー!」
「「ドゴォーーーン!!!」」
城門内の人間が、爆風で後ろに吹き飛ぶ。岩崎城の大手門に大穴が開いている。門の支え金具が壊れて、分厚い板戸は傾いてぶら下がっている状況だ。
「やったな!」
「うむ」頷く於八。
於八が、破壊力を確認してから楽呂左衛門に合図する。
「ハイッ!」
再び来た道を疾走する荷馬車。
於勝が振り落とされないように必死に楯を抱えたままの姿勢で耐える。
「おのれぇえええ!」
丹羽氏織が、立ち上がって、城門傍の欄干から三人を見る。
「あやつらを撃て!撃て!」
城壁の狭間から、三人に向かって銃口が火を噴く。
岩崎勢の鉄砲衆は、18年前に当時最新鋭の鉄砲30丁で織田信長の軍を敗退させた実績を持つ。
その技は熟成され、現在では“岩崎流鉄砲術”として城兵達に行き渡っているので、反撃の速さも尋常ではなく、連射する技術もすさまじかった。
キュイン!
カン! カン! カン!
狙いすまされて、戦車に鉄砲玉が降り注ぐが、鉄板に跳ね返されて金属音が鳴り響く。
「うおおおおおお!」
絶叫しながら於勝が耐える。
射撃が性格なので、戦車の後部に弾が集中する。
ようやく、鉄砲の射程距離から離脱した戦車。
「鉄盾がなければ危なかったな」
「ああ、だけど面白かった」
「岩崎方が、最初から撃って来なくて良かった」
「反撃は流石だったぞ」
「うむ。生きた心地がしなかった」
前方で戦車を操る楽呂左衛門の大きな背中を見る二人。
「楽呂左衛門、有難う!」
無事に脱出できたのは、楽呂左衛門の戦車操縦技術があってこそだ。
声に反応し、振り返る呂左衛門。
「二人とも、良い仕事をした!」
といいながら、左手の親指を立てて、片手で手綱を操り戦車を走らせる。
城門の壊れた扉が邪魔をして岩崎方からの追撃は無い。
攻撃の成果に満足して、奇妙丸の陣へと戻る三人衆だった。
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「くそっ、逃げられたか。何なのだ、あの大筒は?」
丹羽氏織が欄干の棒を叩く。
「織田家で密かに製造されたものでしょうか?」
「蟹江なんとかと撃った者が叫んでいましたな」
「蟹江と言えば、瀧川の処のものか?」
本郷と上田も、その威力に驚いていた。
「恐ろしい火力ですな。いつのまにあのような物が」
「この衝撃は、信長様が斎藤道三と会見した時の鉄砲500丁の一斉射撃の話を聞いた時にも匹敵する」
氏織が、大筒を見た驚きを素直に吐露する。
「あんな物が実装されているとなると、城門など何の役にも立ちませぬ」
「藤島方面の爆発音に、あれが関連するやもしれませんな」
心配する二人。
「クソッ、あの大筒はいったい何丁あるのだ。火力で完全に負けているのか」
藤島包囲軍が全滅したのではないか?
最悪の事態を想像し焦る氏織。その想像は大筒とは別の意味で当たっていた。
城内でも、かしこで大筒のことが噂される。
「あれが実装されているとなると、この先は怖ろしい事になるやもしれぬ」
不安に苛まれる岩崎丹羽軍だった。
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