一章 エルフと野菜炒め 5
祠へ近づく、随分と小さいな…開いている扉の奥は家の冷蔵庫と同じように真っ暗な空間が広がっていた。
「…じゃあな」
リーヤは何も言わない。それ以上俺が喋る事も事も無かった。
後ろを振り向くことなく空間に手を伸ばす。まばたき程の一瞬の暗転…俺は元いた家の台所、冷蔵庫の前に立っていた。
その日はそのまま逃げるように布団に潜り込んだ。
目が覚めると既に日は昇り切っていた。起きて台所へ向かうとテーブルの上には冷めた夕飯が、床にはゴミが散らかったままだった。あれは本当に現実だったのか、冷蔵庫の扉に手をかける。
「…っ!」
思い切って開けた扉、冷蔵庫の中には何もなかった。食材も、あの真っ暗な空間も…。
「馬鹿らしい…何やってんだよ。これで良いんだ」
扉を閉め気持ちを切り替える。せっかくの休日だ、洗濯に掃除とやることはたくさんあるんだ。
忙しさを理由に考えるのをやめた、あの世界の事も…リーヤという少女の事も。
食材が無かったことを思い出し買い物へ。帰ってくる頃には日は沈みかけていた。
「ただいま」
買ってきた食材はテーブルの上へ、そのまま両親の仏壇へ向かう。
「父さん、母さん…俺はどうすれば良かったんだ。あの時関わってしまったことを後悔しているのに、今は関わろうとしなかった事を、リーヤを見捨てた事を後悔しているんだ」
答えは帰ってこない、二人はいつもと変わらない笑顔のまま。
夕飯は昨日残していた野菜炒め、電子レンジで温めなおす。そういえば食材をテーブルに置いたままだった。傷みやすいモノも幾つかあったと急いで冷蔵庫の扉を開けた。
冷蔵庫の中には、またあの黒い空間が広がっていたー。




