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定食屋はじめましたが、お客様はモンスターです  作者: 田井雫
魔王のもとで定食屋はじめました?
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魔王のもとで定食屋はじめます?4

 食材と鉄板をオーウィンの背に積みこみ再び城へと向かう。

外の一画を借りて調理を開始、食材の下準備は事前に済ませてある。

熱せられた鉄板。適当な大きさにカットされたキャベツ、人参、玉ねぎを広げると高温となった油と野菜の水分とが弾け合い小気味よい音を醸し出していた。

同時にその横で豚肉を焼き、それぞれ火の通りを確認するといよいよ麺の投入。

それぞれの具材を一つにまとめ加熱。仕上げにソースを上から掛ける、と零れたソースが鉄板に触れた瞬間に僅かに焦げる匂いと音が嗅覚と聴覚を刺激し食欲をそそる。

この光景を目の当たりにしているラルも唾液を呑み込む喉の動きが止まらない。

最後に塩コショウで味を調節して青のりを振りかけて、焼きそばの完成。

あとは事前に作っておいた溶き卵を浮かべた中華スープ。

「出来ましたよ。これが『焼きそば』です、じゃんじゃん食べて魔力を溜めましょう」

焼きそばを小皿に取り分けラルに差し出す。

「…本当に良いのか?私だけが食べてしまっても」

「もちろんですよ、おかわりは沢山ありますから」

「では、頂こう」

使い方を教えた箸に苦戦しながらも焼きそばを口に運ぶラル、一口噛みしめたと思ったらあとは勢いよく残りをかきこんだ。皿を置き今度はスープを飲み干す。

「コウヘイ、おかわりを頼みたい」

「はい、残さず食べてくださいね」

「いらぬ心配だ、むしろ足りないのではないか?」

「ははは、言いましたね?」

そんな談笑を交えながらの食事風景。


…30分後


「…コウヘイ、すまぬ…もう、私は…」

「まだです、あと3分の1ほど残っています。さぁ頑張ってください」

さすがにオーウィン基準のデカ盛りサイズは酷だっただろうか。

「う…うぷ」

「吐いたら許しません。食べ物を粗末にしたら怒られますよ」

ラルの目尻には涙が浮んでいた。仕方ないこれ以上食べさせたら本当に吐いてしまいそうだ。

「はぁ、分かりました。とりあえず残りは持ち帰ります」

「…コウヘイ!」

解放された。口では厳しい事を言いつつも理解を示してくれる友人の優しさに魔王ラルフェスは心打たれた。

「じゃあ明日も3食作りに来ますから、今度は残さず食べてくださいね」

「…コウヘイ」

今何と言った?3食?手を緩めることの無く、しかもそれを笑顔で言い放つ友人の厳しさに魔王ラルフェスは心底恐怖した。

うな垂れるラルをあとにしてオークの村へと帰る。

余った焼きそばはオーウィンの腹の中へと収まった。


 ラルが3日と言った魔力が溜まるまでの期間はその壮絶な食事量の結果、2日で溜まりました。

今日はいよいよ大規模な転移魔法が見られるとのことで俺以外にもリーヤ、スィア、スミスさんが同行。オーウィンは「寝てる」と言って留守番をしている。

「…よく来たな」

ラルが出迎える。たった2日であの引き締まった彫刻のような肉体も今は…その、ふくよかな体型と変わっていた。仕方ない、必要な犠牲だったのだ。

誰もラルの事に触れることもなく沈黙が包む。そうしてラルに案内されたのは魔王城から徒歩10分程歩いた所にある広い場所だった。

周りを見渡すが何も無い。誇張でもなく本当に何も無いのだ。

「…さて、この辺りか」

ラルが立ち止まった瞬間、その足元に魔法陣…だが今まで見たモノとは比べようも無い巨大な魔法陣が展開された。

『皆この魔法陣の外に出たほうが良い』

スミスさんの言葉に従い離れた場所で事の成り行きを見守る。

やがて魔法陣から石造りの床が浮かび上がる…いや、良く見ると床では無い。徐々にせり上がるように魔法陣から姿を現す建物、床だと思っていたのは屋根だったようだ。

ついには見上げるほど大きな建造物がそびえ立っていた。学校の体育館と遺跡を合わせたようなソレを“食堂”と呼ぶには少々厳かな雰囲気を漂わせ過ぎている気もする。

「…す、すごい」

俺も、リーヤもスィアもすっかり圧倒されてしまった。

ところで転移ということはこの建物は元々何処にあったのだろう、そんな疑問を未だに屋根に乗ったまま立っているラルにぶつけてみる。

「ん?あぁ、城の一部だ」

さも当然のように言い放つラル、言われてみれば確かに壁とか城の造りと似ている。

「って城!?良いんですか?」

「問題無い、今の私には広すぎるくらいだったからな」

そう言って屋根から飛び降りるラル。先程は高い所に居た為かその全容を見る事が出来なかったが改めて確認したラルの姿は以前の整った肉体へと戻っていた。ラル曰く、急激な魔力消費による肉体の変化らしい。

早速建物の中へ入ってみる。幾つか机や椅子が並んでいるものの建物自体が広いためか結構なスペースが余っていた。

『細かいところは後で直していけば良い』というスミスさん。そう、まずは必要な調理スペースを作らないと…。

「あ、これだけ広いなら私部屋が欲しい」

スィアが呟く。

「いや、まずは調理場をだな…」

「わ、わたしも…欲しい」

「リーヤ!?」

何ということだ、スィアならとにかくリーヤまで…反抗期か?

『今は時間が無いのだから二人とも我慢なさい』

「そうだぞ!スミスさんの言うと通りだ。だいたい俺達だけでやるしかないのに部屋なんて作れるはず…」

「リーヤチャ――――――――ン!」

俺の言葉は突如乱入した声にかき消された。というかこの声って…。

「おじいちゃん!来てくれたの?」

「モチロン、リーヤチャンノ為ナラ何処へデモジャ!」

オークの爺さんが両腕をブンブン振って此方へ向かって来た。

「爺さん何でいるんだよ?」

「何ヤラデッカイ事ヲスルト聞イテイタカラノ…ホレ」

爺さんが指す方向を見ると他のオーク達の姿があった。

「旦那ァ!手伝イニ来ヤシタ!」

「ウスッ、任セテクダセェ」

「ブヒィ」

確かに人手が増えるのは助かるが良いのだろうか?

「ナニ、村ノコトハ他ノモンニ任セテマスゼ」

「旦那ヘノ恩返シデサァ」

「ブヒィ!」

「ありがとうございます。すごく助かります」

「皆ありがとう!」

俺とリーヤが頭を下げるとオーク達は気恥かしそうに頭を掻いた。

『さて、さっそく始めようか。孝平指示を頼むよ』

「え?俺がですか?」

『今までとは規模が違うからね、君のやりやすいようにやるのが良いと思うよ』

優しいスミスさんの言葉、じゃあ…。

「できれば釜は大きいのがこの辺りに…」

「ウスッ」

「あとバックヤードが…ここに棚…あ、保管庫も」

「ブヒィ」

大体の見取り図を紙に書きながらみんなに説明していく。

「釜の裏側は壁に穴を開けてオーウィンが顔を出しやすいようにして…あと釜とは離れた所に冷蔵庫…いやスィアの部屋を」

「ちょっと!今部屋の前に何て言ったの!?」

「ヘイッ」

「ここ、部屋が欲しい!」

「ヨシヨシ、ワシニ任センシャイ」

「おい、そこ勝手に決めるな」

俺が率先しつつ皆で案を出し合い、完成のイメージを作り上げて行く。

「………………」

そんな騒がしい俺達を羨ましそうに、寂しそうにラルが見つめているのに…気付かなかった。

「そうだラル、城にある使って無い椅子とかあったら貸して欲し」

「任せたまえ!椅子といわず机だろうと何でも贈ってやろうではないか!そうだベッドは?壷はいらないか?良い調度品があるのだが…」

「い、いや、そんなには必要ないので」

「…そうか」

何故そんな悲しそうな表情を浮かべるのだろうか?

皆と話し合い2日後の夜までに完成させることが決まった。

一通りの説明を済ませた後、全体の指揮をスミスさんにお願いする。

俺はというと、俺にしかできない仕事がまだ残っていた…食材の調達。

でも200を超えるモンスターの食事ってどうすればいいんだろう。







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