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定食屋はじめましたが、お客様はモンスターです  作者: 田井雫
魔王のもとで定食屋はじめました?
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魔王3

「…てっきり牢屋にでも入れられると思ったんだけど」

通されたのは立派な装飾の施された客室、天蓋付きのベッドなんて初めて見たよ。

ひととおり見て歩いてみた。窓はあるけど…開かない、スイスさんが言うには特殊な仕掛けで逃げられないようにだろう、とのことだった。そのことを聞いて入って来た扉へ駆け寄る。

「やっぱり開かないか」

がちゃがちゃとドアノブを回す…押しても引いても扉は動く気配が無い。

これは…監禁というものだろうか。

「…壊す?」

「任せて!」

『やめなさい』

スィアが氷の塊をぶつけようとしたのをスミスさんが止めた。

『騒ぎになるのは避けたほうが良いと思う。二人とも、まずは話を聞きなさい』

スミスさんに叱られて俺とスィアがしゅんと気を落とす…何故俺まで。


 『さて、話の続きだが…孝平、先程の件断った理由を聞いてもいいかな?』

「色々ありますが、一番の理由はリーヤの件です。次に俺の財力不足ですね…毎食200以上のを3食、それを毎日ですから。そんなペースの出費おそらく数ヶ月も持ちませんよ。オーク達の場合は畑を作ってますから、いずれ自給自足を考えてますが…他の魔物達も同じようになんてことは難しいと思いました」

正直お金のことを言うのは悩んだが、この際はっきり言ってしまうと案外スッキリした。

無い袖は振れない、俺が悩んだ所でお金は増えないからね。

『ふむ、そういうことなら資金提供の話もあったのではないかね』

その考えはあったけども、そもそも貨幣価値なんて俺達とは違うだろうし…。

「だーかーらー!そもそもこうなった原因だって魔物が人と戦争なんてものやったせいでしょ!今更その戦争起こした張本人が困りました助けて下さい、なんて勝手過ぎるじゃない」

「スィア、お前なぁ」

『その事だが、あの戦争を先導していたのはラルフェス様では無い、あの方の御父君…先代の魔王様だ

よ。もっとも先代はあの戦争でお亡くなりになっているが…すまない、言い訳のようになってしまうね』

戦争の話を聞きつつも、以前より気になっていた疑問がより増していく。

「あの、スミスさん。前から思ってたんですが…何か詳しいですよね、もしかして魔王の関係者ですか?」

実際、魔物のトップである魔王のことだから情報として知っていてもおかしくないのかもしれないが、それだけで片付けられないというか…。

『…そうだったね、実は私は』

スミスさんが何か言おうとした時だった、扉がノックされ開いた先にいたのは魔王だった。

入室と同時に緊張が走る、その俺の様子を察したのか笑顔を向けてくる魔王。

「閉じ込めるようですまない、だがどうしても話をしておきたかったのだ。ついて来たまえ…食事をしよう」

歩き始めた魔王の後ろに続くように部屋を出た俺達。そういえばこの世界の食事ってどうなってるんだろうか?どんなものが出るのか興味がありつつも、今も飢えに苦しむ魔物達がいる中で魔王は食事をとれるということに僅かな苛立ちを覚えた。


 案内されたのは先程までいた客室よりも少し大きい部屋、ベッドやクローゼットのような物がある様子だと此処はもしかして、

「ここは私の部屋だ。そう警戒するな、危険なものなどは無い」

部屋の中央には装飾された机、椅子が向かい合うような形で2つ。

片方の椅子に魔王が先に腰をかける、それから俺にも座るよう目で伝えてきた。

俺の着席を確認すると魔王が口を開く。

「…さて、まずはコウヘイ…このような手に出たことを謝りたい」

頭を下げる魔王。

「本来であれば会談の席を用意し議論を交わすべきなのだろう…だが、もう時間が無いのだ」

そういえばさっきも時間が無いって言ってたな、その事を尋ねてみた。

「その、時間が無いってどういうことですか?」

「…遣いに出た者より報告があった。ここより少し離れた崖に住むハ―ピーが間もなく全滅するそうだと。もとより繁殖の難しい種族だったが…残すところ5羽、だそうだ」

そう語る魔王の手は少し震えていた。

「ハ―ピーだけの問題ではない、こういったことはいずれ…いやすぐにでも各地で出てくるだろう。私ではもう止める術はない」

己の無力さを悔しがる魔王の姿に同情してしまう。

「皆はさぞかし私を怨んでいることだろう…飢えに苦しみながら死んでいく者達の気持ちを考えると私は…」

『そんな事はございません。皆、ラルフェス様がされてきた事を知っています。憎む者など誰一人いませんよ』

スミスさん!?急にプルプル言い出したスミスさんの言葉をスィアがすぐに伝えてくれた。

なるほど良い事言っているが、それよりも喋って大丈夫なのだろうか。

「…その声は」

ほらやっぱりばれてるよ!一人で来いって言われてるのに…これは怒るんじゃないか?

「まさか、お前なのか…スオン・ミストルディス」

え、知ってるの?というかスオン・ミストルディスって?

急展開に頭が追いつかない俺にスミスさんが変身を解き床に降りた。胸元にいたスィアはすぐに俺の頭の上に移動してきた。

『私の名だよ、今はスミスのほうが気に入っているがね』

「おぉ、やはりお前か!久しいな。父の死後姿を消した時は心配したのだぞ」

嬉しそうな魔王、スミスさんは触手を伸ばし魔王と握手を交わした。

『お久しぶりにございますラルフェス様』

「あの、スミスさん?やっぱり関係者なんですか?」

俺が尋ねると、スミスさんの代わりに魔王が答えた。

「彼はもともと父の側近でね、私を幼少の頃より支えてくれたひとりだよ。それより何故スオンが人間、コウヘイと行動を共にしているのだ?」

『ラルフェス様、今はスミスと名乗っています。孝平には道中命を救われ…以降、ある目的の為にその手伝いをしております」

「目的…コウヘイよ、それが申し出を断る理由か?」

頷く、

「俺の仲間にエルフがいます、彼女の住める土地を探すのが目的です。あともう一つが…」

スミスさん達と先程話した内容を再び魔王に説明した。話し終えると魔王は考えるように顎に手を添える、数分くらい経ったころ何か決意するように再び口を開いた。

「資金面のことだがそちらの世界と共通して価値のある物は無いだろうか?例えばだが、金貨を溶かし金として渡すことはできる」

それは…いける、のだろうか?だが上手くいけば確かに金銭面に関しては解決かもしれない。

「でも、良いんですか?」

「財で空腹は満たせんよ、あれで他の者達を救うことができるのなら私に迷いは無い。それとコウヘイが言っていたエルフのことだが私も全面的に協力させてはくれないだろうか、それにこの件が上手くいけば他の魔物達の協力も得られるだろう」

何やら悪い話でも無くなってきた。なによりリーヤの件が大きく進むのは喜ばしい。

「…ちょっと考えさせてください」

頭の整理の為にも時間が欲しい。

「構わないよ、あぁそういえば食事がまだだったね。今用意させるよ」

間もなく運ばれて来たのは器に盛られたスープ、だが具が僅かしかない。あと何か練られたモノを焼いたようなパンに似た食べ物。お世辞にも美味しそうとも言えないし魔王の食事としては侘しい。

そこであることに気付く、出された料理は俺の側にしか無かった。

「あの、食べないんですか?」

「あぁすまない…気にするな、魔力を使えば身体機能の維持くらいは問題ない。それに私だけ何もせず食事をとるわけにはいかないのだ」

ふっと笑う魔王。この人はずっとそうしてきたのだろうか?先程の自分の考えを後悔した。

「…ずるいんだよな」

つい言葉に出てしまった。

この目の前にいる若い魔王の言動があまりにも想像と違っていた。

他者の為に自分を犠牲にするなんて、しかもその規模が大き過ぎる…。

「ずるいんだよ!」

出された客人用の侘しい食事、自分は食べずに我慢。同情するなというほうが無理な話じゃないか。

怒りと恥ずかしさで思わず席を立つ。

「…すみません、今日はもう寝ます。逃げるつもりは無いので部屋の仕掛けを解いておいてください」

スープをスミスさんに、パンのようなモノはスィアに渡す。

「それでは、話は明日にしましょう」

魔王の返事を待たず、そう言って部屋を後にした。


 スミスさんは追いかけてこなかった。

客室に戻りすぐにベッドに潜り込んだ。目を閉じると余計な考えが頭を駆け巡り眠気なんてあるはずもない。

「…馬鹿ね」

枕もとのスィアが溜息をつくが、それに対する返事をするは無い。

無駄な時が過ぎ、やがて朝を迎える。









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