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定食屋はじめましたが、お客様はモンスターです  作者: 田井雫
魔王のもとで定食屋はじめました?
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魔王2

 始める?…いったい何を?戦闘?言葉の意図が分からず体が反応しない。

(ちょっと!しっかりしなさい孝平)

胸元のスィアが小声で呼びかけてくれたおかげで何とか言葉を発することが出来た。

「は、始めるって何を?そもそも俺を呼んだ理由は?」

「怯えずともよい、そもそも貴様を呼んだ理由というのも話をする為だ」

ふぅ、とため息を着く魔王ラルフェス、どうやら襲ってくる様子は無いようだ。

「話…ですか?」

「そうだ…まず、名を聞こうか人間」

「…仙場…孝平です」

「ふむ、聞いたことの無い響きだ。コウヘイと呼んでも構わぬか?」

“魔王”という言葉が似合わないフレンドリーな感じだな。

えぇ、と頷く。魔王は「うむ」と何やら僅かに嬉しそうな表情を浮かべたがすぐに真剣な顔に戻る。

「最近、私のもとにオークの村が活気づいたと報告があってな…それだけなら喜ばしいだけなのだが、そこに人間の姿があったとでは事情も変わってくる。コウヘイよ何故モンスターであるオークを助けるような事をした?戦があったこと、知らぬわけではあるまい」

やっぱりその事か、スミスさんの言った通りだったな。

「…ただ頼まれたから、ですよ。戦争の件にしても、そもそも俺はこの世界の人間では無いですし」

「孝平!あんた むぐっ」

胸を押さえつけスィアを黙らせる。スミスさんは何も言ってこない。

「…それは、本当か?」

こくりと頷く。今更隠すような事でもない。

「そうか…であれば村の発達や食事にも納得がいく、か。ひとつ聞きたい、村で出されているという食事は貴様の世界の物なのか」

「はい、俺が、その…持ってきた食材を調理して」

「それは、今此処で行うことは可能か?」

「…無理です。食材も無いですし、器具も無い」

「ふむ…何やらそう簡単にはゆかぬらしいな…」

考えるように沈黙した魔王。もう質問や話は終わりだろうか、どうやら話のわかる魔王のようだができることならもう帰りたい。

「あの、話というのは以上でしょうか?」

「あぁそうか、では本題に移ろう」

残念、まだ終わりではないようだ。とにかくその本題とやらを穏便に済ませて、今日にでも村に帰らせてもらえるよう頼んでみるか。

「…コウヘイよ、貴様の腕を買いたい。オークだけでなく…全ての魔物達の為に食事を作ってはくれないか」

前言撤回。

「全て…ですか?ちなみに具体的な数というのは」

「15種族、計225だ」

単純に考えても今の10倍近い出費と労力が掛かる…む、無理だ。

「…あの」

「ん?」

「すみませんができません」

頭を下げる。魔王の表情を見る事を出来ないが長い沈黙がその答えのような気がした。

どれほど下げ続けていただろうか、耐えきれずゆっくりと頭を上げ魔王の姿を確認…


泣いていた


両方の目の端から流れ頬を伝い落ちる雫、それはまぎれもなく涙だった。

「え?あの、えー」

てっきり怒っているかと思っていたんですが、目の前の光景にかける言葉も見つからない。

「すまぬ…臣下の者達よ…私を慕う者達よ。やはりお前達を救うことなど私にはできなかったのか…許してくれ」

それは俺達にではなく、おそらくモンスター達に向けられた言葉なのだろう。

『…ラルフェス様は魔族の中でも特にお優しい方でね、お父上である先代より魔王を受け継いでからは魔物達の為に尽力されていると聞く』

それまで黙っていたスミスさんが口(?)を開いた。

魔王の嘆きは続いており、こちらの会話には気付いていない。

「尽力って言ったって、オークの村なんて酷い有様だったじゃないですか」

『一人でできることなど限られているものだよ孝平。ましてこの状況で確実な食の提供などありはしないからね、だからこそ君に目を付けたのかもしれない』

(なんでもいいけどこれからどうするのよ。私達帰れるの?)

そうだった。危険が無いのはわかったことだし一度帰って考えるのも良いかもしれない。

「えぇと、すみませんが今日のところは村へ帰っても良いでしょうか?食事の件は協力できなくても何か案くらいは出せるかもしれないので、また後日にでも…」

「…それでは、遅いのだ」

「え?」

呟きだったのだろう、だが俺には何を言っているのかわからなかった。

「すまぬコウヘイよ、私も手段を選んでいる時間が無い」

真剣な表情の魔王、既に涙は止まっていた。

魔王が手を挙げた瞬間一斉に左右の壁が開く。そこから現れたのは6体の甲冑、各々手には剣を持ち俺達に迫ってきた。

「多少荒っぽくなるが客人として貴様を迎え入れたい」

「まじかよ」

(くっ、こいつらまとめて凍らせれば)

『落ち着きたまえ二人とも、抵抗しなければ何もされない』

「…スィア、やめておけ」

胸にいるスィアが氷を作りだそうとしていたのを制止し、無抵抗の意を表すため両手を挙げる。

どうやら今日は村へ帰ることは出来ないらしい…今日だけで済めば良いのだが。

村に残った二人の仲間のことを心配しつつ、これからの事を考えていた。





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