魔王
食材を買い込み、戻った俺は早速仕込みを開始した。
今日の献立はハンバーグ。準備をしておけばあとは焼くだけなのでリーヤ達でも大丈夫だろう。
みじん切りにした玉ねぎを軽く炒め水分を飛ばす、炒めた玉ねぎは別の容器に移しスィアに頼んで冷やしておく。次にボウルに入れた挽肉を手で粘り気が出るまでよく捏ね、先程の玉ねぎとパン粉、卵を加えて混ぜ合わせる。あとは小判形に薄く成型して準備は完了、焼くまで寝かせておく。
「…で、焼くときはだな」
試しにひとつリーヤとギドに教えながら焼いてみた。熱された鉄板の上でハンバーグから溢れた肉汁が油と弾けて音をたてる。二人の視線もハンバーグに釘付け…俺の話を聞いているのだろうか?
「…オーウィン」
「ん、何だもういいのか?」
呼びかけに応じて火を止めたオーウィン、その口に向かって焼き上がったハンバーグを放り込む。
「あ」二人の視線と共に放物線を描くようにオーウィンの口の中に吸い込まれたハンバーグ。
ぱくり
「あとのことは頼んだ」
「…うむ、物足りんが楽しみは取っておこう」
俺とオーウィンが笑い合う横でリーヤとギドが泣きそうな顔でこちらを見つめている…さすがに可哀そうなことをしたかもしれない。しょうがないともう一つハンバーグを焼いて二人に食べさせた。
空が茜色に染まる頃。再び制服になったスミスさんを着込み、スィアがその胸ポケットへ入り込んだ。
リーヤとオーウィン、オークの村人たちも見送りに来ている。やがて夕暮れの空に鳥のような影が4つ此方に向かって来るのが見えた。
『…あれはグリフォンだね』
少しづつ大きくなる影、鷲のような翼と頭部に獣の身体…着陸したその姿は3メートルくらいはあるだろうか。各々胴体には縄のようなモノが中央の駕篭と繋がれていた。
そこから降りてきた黒いローブに身を包んだ人物、この人が魔王の遣いだろうか。
「…例の人間というのは、貴様か?」
頷き一歩前に進み出る。黒ローブの人物は俺の姿を一瞥するとすぐに振り返り駕篭へ戻って行く…俺にもついて来いと言っているようだ…どうやらスミスさんとスィアにも気付いていないらしい。
俺達が駕篭に乗りこむとグリフォン達が一斉に上体を起こし翼を広げる…一瞬の浮遊感、周りの景色も高いものへと変わっていく、下を覗くと此方を見上げるリーヤ達の姿が徐々に小さく…少しづつ離れていった。さて、もう戻れなくなったな…無事に帰ることができるだろうか。
時間にすれば30分程経ったくらいだろうか。
「あの、何故俺が呼ばれているんでしょうか?」
「……………」
「帰りも送っていただけるのかなー…なんて」
「……………」
無視ですよ、さっきから俺の質問に答えないどころか何ひとつ言葉を発しない。
退屈というか窮屈な空間、駕篭に揺られながらの最悪な空の旅となった。
外の景色を眺めていると前方に見えてきた大きな古城のような建物。
「…間もなく着く…用意せよ」
ようやく喋ったかと思ったが、やはりあれが目的地…いかにもゲームに出てきそうな魔王の城といったところか。
巨大な門を越えて広い場所に着陸した俺達、同時に城の正面の扉が開いた。
「…此方へ」
駕篭から降りた黒ローブの先導に従い扉の奥へ進んで行くと、後ろの扉が閉まり暗かった廊下に明かりが灯る…随分と長い廊下のようで、途中の部屋や階段には触れずひたすら前へと進んで行く。
やがて辿り着いた大きな扉の前。
「…それでは私はこれで」
そう言って一度お辞儀をした黒ローブは霧のように消えてしまった。
「ちょっと!…って進めってことか?」
『この先に魔王様がいるのは間違いない、孝平気を付けたまえ』
「はい、スィアも大丈夫か?」
「うん、とにかくさっさと帰れるよう変な事だけはしないでよね」
「分かってるって…よし、行くぞ」
ノックをする…が返事は無い。そもそもノックなんて魔王の城ですることではないだろう。仕方なく扉を押す力をこめる。ゆっくりと開く扉の先に一人の人物。
人に近い姿、見た目は若くまだ青年のような感じだった。黒に赤の混じった長髪に両耳の上辺りから生えているのはツノだろうか?黒い鎧に身を包み装飾された椅子に頬をつき座っていた。
「…待っていたぞ人間よ、私は魔王…ラルフェス=サタニウル」
閉じられていた紅い瞳が此方を見据える。向けられる鋭い視線、とてつもないプレエッシャ―…全身に駆け巡る緊張。震える俺に気付いた魔王は口の端を上げ…笑った。
「さぁ始めるとしよう…人間よ」




