オークと生姜焼き
事態を飲み込めずに呆然と立ちすくむオークを余所に調理の支度にとりかかる。
「調理」を見たのが初めてなのだろうか。俺の周りをうろつき時折何をやっているのか訪ねてくる者もいれば、下味を付けようと出した肉を食べようとした者にスィアの氷撃が飛んだり…また別の者はオーウィンの吐く火に腰を抜かしたりと何とも騒がしい。
「待たせたな、ぶt…「生姜焼き」だ。食ってみろよ」
さすがに人数分の皿が無く、落ちていた大きめの葉に料理を乗せる。出来立ての湯気を上げ、生姜と醤油の焼けた匂いが嗅覚を刺激する。先ほどまで落ち着きの無かったオーク達が静かに目の前の料理を眺めていた。
「どうした?」
「…ク、食ッテ、良イノカ?」
「オレ達、何モ持ッテ無イ」
戸惑った態度をとりつつも視線は料理から離れていない。
「良いから食え、これはお前達の為に作ったもんだ。…もし食わないならウチの食欲魔人エルフがお前達の目の前で残さず食らい尽くすぞ。コイツはそりゃあ美味そうに食うからな、お前達はそれを眺めることしかできなくなるが…それでも良いのか?」
「ーッ!食ウ!ソレダケハ勘弁シテクレ!」
「エルフ、恐ロシイ…」
慌てて料理に手を伸ばすオーク達、箸など持たず素手で口に運ぶ。
「…ウ、マイ…美味ェー!」
がつがつと貪るオーク。あっという間に生姜焼きは無くなり、葉や手に付いたソースまで舐め取っていた。
全員が満腹、といかないまでも食事後の満足感に満ちた顔を見る限り俺の選択肢は間違っていないと、と思う。
「まぁ出来る事って言ったらこれくらいだからな…さて、お互い気持の良いところで俺達は森を抜けさせてもらうぜ。お前達も大変なのは分かるが、子供連れて追いはぎみたいな真似やめとけよ」
降ろした荷物を再びオーウィンの背に詰みなおし、オーク達に別れを告げようとした時である、オークが一斉に俺達の前に立ち塞がる。やっぱり相手はモンスター、そうそう都合よくはいかないか…オーウィンが戦闘態勢に入る。
一触即発の緊張感…先に動いたのはオーク。
「旦那ァ!頼ム、俺達ノ村ヲ助ケテクレ!」
土下座、地面に額を擦りつけるかのように頼みこむオーク。とにかく頭を上げるよう言っても誰ひとり言う事を聞こうとしない。
「…とにかく訳を話してくれ、決めるのはそれからだ」
オーク達はこの森の住人で、森の中には彼らの村が存在し20人ほど暮らしているとの事。ただ満足に食事をとることができず、村に残っている連中もかなり衰弱しているらしい。
「オ、俺ノ嫁サン、ズット寝タキリデ…」
「爺サマ、子供、腹空カセテ待ッテル」
それぞれ残してきている者の事を思い出し、涙ながら訴えてくる。
「コーヘイ、オーク可哀そう…」
リーヤが俺の腕を掴んでくる。そうかリーヤも…自分の境遇と重なったのか、オーク達の気持も一番理解できるだけに何とかしてやりたいのだろう。まぁ俺もここまで付き合った以上放っておくこともできないしな。
「…分かった、とりあえず村へ案内してくれ」
「ダ、旦那ァ!」
旦那って俺のことか?オーウィンに乗りオーク達の後ろを付いて行く。
「コーヘイ、ありがとう」
前に乗っているリーヤが俺に振り返る。
「ありがとう…ってまだ何もしてないだろ」
向けられた笑顔に耐えられず遠くに視線を逸らす。
「…ところでコーヘイ、さっきオーク達に私のこと何て言ったの?」
(もし食わないならウチの食欲魔人エルフがお前達の目の前で残さず食らい尽くすぞ。コイツは…)
視線をリーヤに戻すと笑顔のままだった…いや、正確には目が笑っていない。初めて見るリーヤの怒りモードに冷汗が噴き出る。
「あ、あれ?俺何か言ったっけ?…そうだリーヤ!夕飯食べたい物あるか?」
「野菜炒めとご飯…」
「よし任せろ、一杯作って…」
「あと、さっきの生姜焼きとカレーライスとエビフライ…豚カツ、肉じゃが…」
「…勘弁してくれ」
リーヤのリクエストは止まらない…もう二度と変な事は言わない、そう心に誓った。




