氷精霊との遭遇
頬に降った雪はすぐに溶け、その雫が頬を伝う
どうやら気を失っていたらしい、体を起こそうとするが言うことをきかない。背負った鞄と亀裂の隙間に降り積もった雪がクッションとなり落下の衝撃を和らげたみたいだが随分高い所からの落下だったようで体の傷みが治まらない。
このまま誰にも知られずに異世界で一人寂しく死んでいくのだろうか?同時に自分の帰りを待っている二人の事が心残りだ…。徐々に目が開く、と覗き込む青い瞳と目が合った。
「…誰だ?」
話かけると驚いたのかその人物は飛び上がるように俺から離れた。
相手の姿を確認しようとするが体は…起きられない。仕方なく寝返りをうつようにうつぶせになると相手を捉える事ができた。子供?いやもっと小さい、手のひらに乗るくらいの大きさしかない。白い衣を纏い、肌も雪のように白い。まさかこいつがスミスさんの言っていた氷精霊だろうか?
「何よ!生きてるんじゃない!びっくりさせるんじゃないわよ人間!バーカ!バーカ!」
綺麗な外見とは裏腹に口はかなり悪い…初対面、しかも死にそうな相手に対して言うことか。
「…何だよ、生きてちゃ悪いか…」
こちらも反抗的な態度になる。それがまた気に入らないのか精霊の表情が険しくなった。
「アンタねぇ!せっかく心配してあげたのに何よその態度!やっぱり人間は駄目ね!ヴァーカ!」
「心配?お前のはただの罵倒…聞いてて不快だ」
「なっ!?…このバカバカバカバカバカー!ボケー!死ねー!」
「うるせー!…っ!ぐぅっ」
売り言葉に買い言葉、だが怒鳴ったのがいけなかった。再びぶり返した傷みに言葉が詰まる。
「くそっ…」
「…ちょっと、大丈夫なの?ホントに死ぬの?」
先ほどと違い心配するような口調、返事をできないでいると暫くおろおろしてしていたがやがてどこかへ去って行った。…やれやれ、面倒事だと見放されたか。
目を瞑り今度こそ己の最後だと諦めかけた時である。
「…口開けなさいよ、ばか」
視界の先にはあの精霊が、
「何だよ、見捨てたんじゃないのか?」
精霊の手にはよくわからない葉っぱが握られていた。
「…毒草か?俺に早く死ねと?」
「薬草よ!バカ!これで傷みくらいは治まるはずよ」
言われた通り口に含み、噛み、咀嚼。…苦い…不味い。
数分くらい経っただろうか、不思議な事に先ほどまで襲ってきた傷みも嘘のように無くなっていた。
「…マジかよ、さすが異世界か」
「薬草も知らないなんて、よく生きてこれたわね」
呆れた口調の精霊。だが彼女は悪態ついた自分を助けてくれたのだ。
「ありがとう、さっきは悪いことをした…すまない」
「べ、別に…お礼とか…」
感謝に慣れていないのか恥ずかしそうにする視線を逸らす。
「ところでアンタさ、何しに此処へ来たワケ?ここは本来人間が来るような場所じゃないわ」
「…「氷結石」を探しにきた。お前知らないか?」
その単語に精霊がピクンと反応した。
「人間が「氷結石」なんて、何が目的?何に使うの?」
「それは…」
「どうせ下らない理由でしょ?宝石的価値とか、人間なんていつもそうやって」
「食材の冷蔵に使おうかと」
「・・・・・・・・は?」
「いや、旅をしているといつの間にか食材が傷んでしまうからさ、溶けない氷なら便利かなって」
「…ぷ、あははははは!アンタやっぱりバカね!あの「氷結石」を食材の保存に使うだなんて、今まで誰も考えた事無いわよ。あー可笑しー!バーカ!バーカ!」
腹を抱え笑い続ける精霊、ようやく落ち着いたのか。
「はぁ、良いわ。その馬鹿さ加減を信じて見せてあげるわ…氷結石。付いて来なさい人間」




