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スライムがあらわれた

異世界で生活するために必要なものは何か?

RPGなんかで考えれば武器や防具、薬草の類が必須だろう。少なくとも今自分が準備している鍋やフライパン、包丁や食材は違うような気がする。だが、リーヤの食欲を甘く見てはいけない…さっき朝食を済ませ、一度戻る事を告げた際彼女は「昼ゴハン、楽シミ!」と満面の笑みで言った。俺はその食欲に恐れを抱きつつもあの笑顔を裏切ることなんてできなかった。

「まぁ、必要なものがあったらその都度戻って来れるのは大きいよな」

祠を持って移動できるので、初めての異世界生活とはいえそこまで深刻なものではない。

一通り使えそうなモノを鞄に詰めるが、旅支度というよりもキャンプの準備といったほうが近いかもしれない。ひとまず長く歩く事を考え軽い装備となった。

「じゃあ、行ってきます」

改めて冷蔵庫の扉を開けた時、俺の異世界『イクリス』での旅生活が始まろうとしていた。



ーあの時のちょっと浮かれていた自分を殴りたい…。

異世界を歩き始めて5日が経とうとしていた。東西南北どこを見渡せど灰色の大地が続き、容赦ない日の光が体力と精神を削っていく。後ろを歩く少女からも疲労の色が窺える。

5日、といっても俺にもまだ学校生活が残っている為、朝食はリーヤと済ませると昼食と非常食を彼女に待たせ俺は一度家に帰る。学校から戻るとすぐに異世界へ行きリーヤと合流、成果を聞きながら早めの夕食。それからまた歩く繰り返しだった。

今日は休日の為、1日一緒に歩いているが成果は無い。だがリーヤは5日もこれを繰り返しているんだ、あの小さな体で弱音も吐かず。

「リーヤ、少し休もう。腹減っただろ?」

「…うん、わかった」

最初はカタコトだったリーヤも俺との会話で少しづつ言葉を覚えていった。


「ほれ、『あんパン』食うか。近所のパン屋で買ってきたのだから美味いぞ」

「…あんパン…はむっ、甘い!」

「それにしても、本当に何も無いな。人どころかモンスターにも遭遇しないとは」

「あむ、ふぇも…ほーふぇい…」

「食いながら話すな、行儀悪いぞ」

「んぐ。ごめんコーヘイ、だけど…あれ」

リーヤの視線の先を追うと、まるで萎んだ風船のような黒い物体が地面に落ちていた。傍まで近づいてみるが何なのかわからない。

「コーヘイ、それ多分スライムだと思う」

スライムってあれか、よく序盤に出てくるモンスターだよな。よく見るとかなり干からびているものの僅かに表面にはプルプル感が残っている。

「乾いたのか?」

鞄の中から水を取り出し、スライム?にかけてみる。暫くするとピクピク動き出し乾いた身体も膨張を始めた。大きくなったその姿は液体の塊、まさにスライムだった。

『…ププルププル』

とはいえスライムの言葉なんてわからない。仕方ないよね、人間だもの。

「ありがとう、青年…だって」

「リーヤお前このスライムの言葉分かるのか?」

リーヤの意外な才能を知った。以降リーヤ訳

『まさか人から恩を受けるとは、長い時を生きていると珍しいこともあるものだね。とはいえ、命を救われたのは本当だ助かったよ。私の名はス、ミ…ス、そうスミス。君は…』

スライムとは思えない名前と口調。ギャップに戸惑ってしまう。それにモンスターながら敵意は無いように感じられる。

「お、おれは孝平。それからこいつがリーヤ」

『孝平君とリーヤ君か…よろしく。しかし人とエルフの組み合わせとは、何かあったのかい?おっと、すまない詮索し過ぎかな。ははは』

コミュニケーション能力高いなこのスライムもといスミスさんか。

「じつは…」

これまでの経緯、旅の目的を説明した。話の最中もスミスさんはうんうんと頷くように話を聞いてくれた。スライムだから表情とかはよくわからないけれど。

『…まさか別の世界から来たとはね驚いた。それに君はリーヤ君の為にこの世界を旅しているのだろう?簡単にできることではないよ。孝平君、君は良い人物のようだ。君達には恩もある、私にできることがあれば是非言って欲しい。協力は惜しまないよ』

「スミスさん、ありがとうございます。でしたらこの辺りに人が住めそうな場所があったら教えて頂きたいのですが」

見た目はスライムなのにその内側から溢れる紳士オーラ。俺もいつの間にか敬語になっていた。

『いやいやお礼を言うのはこちらだよ。ふむ、住める土地か…少し長い話になるかもしれないが構わないかね?』

気づくと日がだいぶ沈んでいた。重要な手掛かりだからしっかり聞いておきたい。

「じゃあ一緒に夕食はいかがです?俺作りますから、よければ食事しながら話を聞かせてもらえませんか?」

『良いのかい?私みたいのがご一緒しても』

「そんな大したものは作れませんが是非召し上がって下さい」

「コーヘイの作るご飯はとってもおいしいから、スミスも食べるべき!」

俺とリーヤの勧めにスミスさんが笑った、ような気がした。

『…二人ともありがとう』






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