7話 礼儀力高い系魔族
フィンの攻撃が華麗に決まり、あとはヨーデルを病院に運んで終わり。と思いきや、おやおや。
「オレマダシンデナイ」
ルドモンドが座りながら言う。
「じゃあ今死んだってことで」
「korosanaide」
「あんた、どういう基準で喋り方が変わるのよ……」
先ほどまで死闘を繰り広げていた間柄とは思えない会話がフィンとルドモンドの間で始まる。ヨーデル死にかけてる。
「まあ、あんたがこのまま帰るってんなら止めないけど……」
倒れているヨーデルが微妙に体を動かしている。この裁定に異議があるのかもしれない。これだけやられりゃな。
「悪いけど、これ以上あんたの相手してる暇ないの。私たちが帰るまでおとなしく……」
「フーちゃぁん」
フレナが今回は『ドスドス』と言っても許されるほど大きな音を出しながら走ってくる。背中には先ほどとは違うリュックを背負っている。
「あ、フレナ。援軍は?」
「それがぁ……A級の子たちは皆出払ってていなくて軍に要請したんだけどぉ……『2種』に対応できる人って軍でも限られてて、部隊を編成してるみたい」
「軍を入れてもA級レベルって10人くらいしかいないものね。ランクだけで言うなら私も対応できるけど、Aだから2種に勝てるとも限らないのよね。大体の基準だし」
「それでぇ……時間稼ぎなら私でもできるからぁ……お弁当作る余裕はなかったからお家にあった食べ物をそのままかたっぱしから……怪我してるだろうしってぇ……」
「けが人はいないわよ安心して」
「え?そういえばフーちゃんも怪我してないわねぇ」
「ええ。死にかけが一人いるだけ」
「それはけが人だと思うわぁ」
この状況でも呑気な会話を繰り広げるフィンとフレナ。ヨーデル苦しんでる。
「一応出血の進行や組織の壊死は冷やして遅くしてるけど、内臓がどうなってるかわからないのよ。吐血したってことは傷ついてるのかも」
「生きてるなら大丈夫よぉ。場合によっては時間はかかるけどぉ」
かなりアバウト……いや、こんな状況だと逆にこの対応は頼もしいのかもしれない。
「じゃあお願いするわね。私は何すればいい?」
「リュックから食材出してほしいなぁ。私がヨーくんを見るからぁ」
「わかったわ。種類ごとに分けておけばいいわね」
「うん、お願いねぇ……ただ、シートを忘れちゃったのよねぇ」
「いいわよ食べるのはヨーデルだし。犬は地べたに落ちた食べ物食べるし」
「そうねぇ。死なないほうが大事だものねぇ」
先ほどの緊迫シーンが嘘のように、適当な言動ばっかりである。しかも敵味方問わず。
「じゃあいくわよぉ。頑張って食べてねぇ」
食べやすいように、フレナがヨーデルの首を少し持ち上げるとヨーデルが反応する。この態勢だと背中が痛いからなのか、衛生観念皆無の食べ物を食べさせられることへの抵抗なのかはわからない。
「よいしょ」
フレナがヨーデルの体を抱きかかえる。フレナの全身から柔らかな光が広がり、ヨーデルを包む。
フレナ(肉)に巻かれた作りたてほかほか肉おにぎり状態にヨーデルがなる。
「じゃあまずはお肉からぁ」
「はいヨーデル、あーん」
フィンがヨーデルに恋人に食べさせるように優しく語りかけながら食材を口に運ぶ。
生肉を。
「ほら、ヨーデルくん、いやいやしないで?」
ヨーデルには普段見せない優しげな顔と声でフィンが生肉をヨーデルの口に運ぶ。
しかし顔には邪悪な笑みが浮かんでいる。
「色々な感情があるとは思うんだけどぉ……たぶん本当に食べられないんだわぁ……」
「しかたないわね」
フィンがヨーデルの口に生肉を無理やり突っ込み、ヨーデルの顎を持ち無理やり動かし肉を噛ませ嚥下を促す。ヨーデル吐きそう。
「あんた、今頑張らないとほんとに死ぬわよ」
『食べ物を喉につまらせ窒息死』という、新たな選択肢がヨーデルを襲う。
様々な死因から好きなのを選べるというのはある意味幸せなのかもしれない。
現在の選択死因はどれも苦しそうだけど。
「フーちゃん、とりあえず今は無理やりでも食べさせてぇ……。私の能力で栄養素がすぐ怪我に効くからぁ……」
「なんで回復魔法だけ進歩しないのかしらね。攻撃魔法なんてどんどん高威力の構成が発見されていくのに、いまだに擦り傷一つ即座に治せないなんて」
無理やり食べさせる→顎を持って執拗に嚥下を促す→口を開かせる
の動作を繰り返しながらフィンが呟く。慣れすぎて一連の動作が雑になっている。ヨーデル顎外れかけてる。
「これは噂だけどぉ……回復魔法の行き着く先が蘇生魔法だから、あえて研究させないようにしてるらしいわよぉ……。私だってこの構成を見つけたのはたまたまだものぉ……」
ヨーデルを抱きかかえながらフレナが言う。
「まあ死人が蘇ったら困るわよね。お墓屋さんとか」
「フーちゃんはいつも視点が独特ねぇ。そういう話じゃないと思うわぁ」
「こいつはつっこみセンスも独特だからな」
「そうよねぇ……だから話してて飽きないわぁ」
「俺に『やればできる子』なんて言える人間はこいつくらいだ」
「フーちゃんは物怖じしないのよぉ。この前もローくんにぃ……あ、私たちのギルドの責任者なんだけどぉ……」
「ほうほう、どんな奴なんだそいつは」
「なんであんたが会話に入ってきてんのよ!」
フレナとルドモンドがあまりにも自然に会話を始めたせいでフィンのツッコミが遅れる。
「ふむ。お前の言うことも一理ある」
ルドモンドがフレナのほうを見る。
「お初にお目にかかる。我はルドモンドと言う。そこの男を倒した魔族だ」
どこに一理を感じれば自己紹介に至るのか。
「あらこれはご丁寧にぃ……フレナですぅ」
暗に『ヨーデルを死にかけにしたのは自分です』と言ってるのに、フレナは気にしていない。ヨーデル放置されてる。
「フレナ殿はこいつらと違ってまともな会話ができそうだ」
ルドモンドが満足そうに言う。
「オハツニオメニカカルはどうした!あと『美少女弓使いに倒された』こともちゃんと言いなさいよ!」
響き渡るフィンの声。ヨーデルどうなる。




