6話 時々戦闘、ドキドキ銭湯
残念ながらお色気銭湯シーンはありません
自分たちの力量では戦えば命の危険がある2種と、思いがけず対峙することになった二人。だがしかし。
「大体、人間らしくと言うのならちゃんと鼓膜で聞けるような声で喋れ!」
「発音もしっかりしなさいよ! やればできる子でしょあんたは!」
フィンお母さん……。
「そうだそうだ! さっきまでいた小さい子はお前よりしっかり喋ってたぞ!」
「ヒト、モンク、カンケイナイオレ」
「さっきより喋り方がへたくそになってるぞ!」
「都合の悪いところでバカのふりするネタはありふれてるけど、今そんな状況じゃないでしょ!」
もはやどっちが強者なのかわからない会話のラリー……もとい、言葉の投げ合いが続く。もし言葉が物質なら全員今頃病院。
全員の特徴を考えると動物病院かもしれない。
「それに、自己紹介するんじゃなかったの?! 楽しみにしてるんだからね!」
「い、いや、そこはもういいだろ……。大事なのはこいつが本当に2種なのかどうかで……」
変なところに引っかかっているフィンをヨーデルが静止する。
先ほどの緊張感どこへやら。もはや聞いているだけなら4人で弁当を食べていた時と何も変わらない雰囲気。
「しかたないな……」
トカゲがそう呟き、背中の翼を『ギシギシ』と形容するのが一番近い、不快な音を立てながら一気に大きく広げると場の雰囲気が一変する。風が起きたわけでもないのに、ヨーデルが風圧に負けたかのように後方へじりじりと下がっていく。
「自己紹介がまだだったな。俺の名前はルドモンド。お前らの作ったランク分けは知らないが、そこそこやれるタイプだぞ」
「これだけ雰囲気出しといて『俺は強い』って言わないあたり相当よね」
「でも今までの喋りを考えると (2種+4種)÷2で3種っぽいぞ」
「あんたは自分の肌でわかるでしょ……現実逃避で急にキャラと違うこと言うのやめてよ……」
「まあ、実際にやればわかるか」
ナイフを持つヨーデルの手に力が入る。
「怯えてかわいく逃げるタイプなら許してやっても良かったんだが……」
「えっ、まじで?」
案の定ヨーデルが食いつく。
「あんたこの状況で逃げたら……」
「街の平和が……っだろ!」
先ほど森で嫌というほど皆に披露したスピードを活かし、ヨーデルがルドモンドのほうへ走る。
「(もらったっ)」
逆手に握ったナイフをルドモンドの顎からアッパーのように押し上げる。
キィンッ。
ヨーデルの狙いは正確だった。ルドモンドもヨーデルのスピードには明らかについていけていない。ここで勝負が決まっていてもおかしくなかった。
……ヨーデルじゃなければの話だが。
「……惜しいな。まともな武器なら俺でも少しは冷や汗をかく一撃だったぞ」
「……まともな武器で勝ってもつまらないだろ」
折れたナイフの柄を放り出しながら、ヨーデルが言う。
「クワシクキテヤロ」
なぜかルドモンドが興味を持ち始める。
「興味あんなら普通に喋れや!」
「そうよ! さっきからあんた、キャラの作り方へたくそよ!」
「言わせておけば小童どもがっ!!」
ルドモンドが先ほど広げた翼と同じ幅の熱波が二人を襲う。
熱波に吹き飛ばされたヨーデルが、木の幹に背中から叩きつけられる。
――バキッ。
木がブレーキの如く、吹き飛ばされたヨーデルの体を止める。が、その衝撃でヨーデルの体より太い木の幹が、横に真っ二つに折れる。
「ぐぅっ……!」
背中を強く打った衝撃で起き上がることができない。フィンの心配をしている余裕もない。
「コノテイドヨケラレノカ」
下位魔族レベルの言葉力に戻ったルドモンドが、呻きながら体を小刻みに震わせているヨーデルの方へ向かいながらゆっくり歩いてくる。この動作も含め、明らかにヨーデルを馬鹿にしている。
「先ほど見せたスピードはどうした? 避けられると思ったんだが」
「い……はよ……るさ……ゴフッ」
背中を打ったせいでヨーデルの呼吸がおかしい。4種の魔物にすら劣る、何を言っているかわからない声が血と空気と一緒にヨーデルの口から洩れる。
「見た目よりやれるかと思ったが、見込み違い……いや、経験だな。スピードを逃亡にだけ活かしてきたのだろう」
ルドモンドが倒れているヨーデルを見下ろしながら言う。勝負がついているからかトドメを刺そうとせずに、動けないヨーデルを観察している。
「そんな誰でも言えることしか言えないからあんたは4種って言われるのよ!」
いつの間にかルドモンドの背後に回り込んだフィンが、ルドモンドに向けて矢を放つ。前日にヨーデルや筋肉に射った無機質な矢と違い、矢羽に水色の雪の結晶のようなものがついている。
不意を突かれたからか、はたまたもともと鈍足なのかわからないが、フィンの矢があっさりとルドモンドの片羽根に突き刺さる。
「男を囮とは考えたな小娘!」
フィンの放った矢はいつの間にか消え、翼に少し穴が開いただけのルドモンドが何事もなかったかのようにフィンに叫ぶ。
「あんたがこんな良い女放っておいて猿にかまけてるからでしょ! 今からでも飼育員になりなさいよ!」
フィンが悪態をつきながら放った二撃目の矢がルドモンドに向かう。
「不意打ち以外で当たると思うな!」
背後からの攻撃と違い、ルドモンドがあっさり避ける。
「あんた、メスでしょ」
フィンが唐突に性別当てゲームを始める。
「我々に性別はない」
「ほんとにぃ?」
「何が言いたい?」
「だってヨーデルの能力は見抜いたのに私の能力は見抜けないんだもの」
「様々な矢を放てる属性付与型だと思っていたが……」
「そこじゃないわよ。まあいいわ、見せてあげる」
フィンが弓を引き絞り、またしても矢羽に水色の水晶がついた矢を上空へと射る。
ルドモンドがそれを見上げそうになるが、はっとしたような表情ですぐフィンを見る。
「そういうことか!」
「遅い!」
ルドモンドが上空の矢に意識を一瞬向けた間にフィンが別の矢を射る。
「遅いのはお前の矢のそくど……ぐっ……」
先ほどと同じようにルドモンドが矢を避けようとするが失敗する。
「属性付与は正解。でもね、氷や火みたいなわかりやすいのだけじゃないの」
「速度を付与したのか……」
いい感じに膨らんでいるぽんぽんに空いた穴を手で塞ぎながらルドモンドが言う。
「そういうこと。もちろん遅らせることもできるわよ。いろんな意味で」
フィンが得意げに説明を続ける。まだ勝敗が決したわけじゃないのにめっちゃ気持ちよさそう。
「患部を凍らせて出血速度を遅らせたりね」
息も絶え絶えのヨーデルの周りがいつの間にか氷で覆われている。
「さっき外した矢はわざとかっ……!」
「さっきっていつ?」
「何を惚けている?! 男を助けるための氷の矢……まさかっ……」
ルドモンドが気づく。しかし。
「あんたの敗因は優先順位を間違えたことよ。もう少し遊んであげても良かったけど……」
筋肉を倒した時と違い、本当に悲しそうな顔をしながらフィンが言う。先ほど上空に放たれた矢が、ルドモンドの巨体の向こうへ消える。
「あいにく、女の子は男と違って忙しいの。死にかけてる男の救護とかでね」




