5話 コミュ力強い系魔族
花畑への道中をなんだかんだ楽しく進んだヨーデル一行が目的地へ到着する。これからどうなるカルナバル。
「すごくきれい……」
クーリエが花畑の中に入りながら言う。ヨーデル達のことを忘れてるんじゃないかと思うほど、眼前の花畑に夢中になっている。
「フィンさん、この子、俺達と似たような感想言ってますぜ」
「そうね。この子の審美眼年齢はもう大人なのかもしれないわね」
フィンが横髪を手ぐしで直すポーズを取りながら言う。目には優しさを浮かべている。
「あなたたちが低すぎるのよぉ」
「「えっ」」
フレナの最もなツッコミに本気で驚いたかのように、二人が同時にフレナの方を向く。冗談じゃなかったのか。
「もっと大人らしく『謙虚に小さめな花を咲かせているところが、主張しすぎない薄紫色の花びらによく現れてるわ』とか『茎が鮮やかな緑なのはきっと土の栄養がいいのね』とか言えないのぉ?」
「花はともかく、茎なんか見ねえよ!」
「そうよそうよ! 私たちは花を見に来てるのよ!」
珍しく意見が合う二人。いや、過程が違うだけでいつも合ってはいるのか。
「ほら、クーちゃんの鑑賞の邪魔になるから静かにお弁当の準備しましょ」
「花よりおむすびだよな大人は」
「そうね。フレナのおにぎりだものね」
フレナが出したシートを広げながら二人が口々に言う。
「女の子がいるからパンのほうが良いかなと思ってサンドイッチなんだけどぉ……」
「「えっ」」
「嘘よぉ。どっちもあるわよぉ」
フレナが楽しそうに笑いながら言う。穏やかなランチタイムが始まろうとしている。
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「やっぱりフレナのおむすびはめっちゃおいしいな」
「ね、何が入ってるかわかりやすく、てっぺんにちょっと具がついてるのもプロの技よね」
「わからないならわからないでいいんだけどな。フレナのおむすびにははずれないし」
「ギルド抜けておにぎり屋始めればいいのよ。ギルドの中に店出しても誰も何も言わないわよ」
「褒められてるのは嬉しいけどぉ……本人が目の前にいるのに私不在で話進んでない? ギルドやめさせようとしてるし……」
「あ、ごめんフレナ。めっちゃおいしいわよほんと」
「フーちゃん、ヨーくんと同じ感想だって気づいてる……?」
「ハッ……ヨーデルが伝染してる」
口元に手を当てながら言う。でももぐもぐもしている。
「じゃあお前も猿になれよ。俺と同じくらいのスピードで森を支配してみろ」
ヨーデルが自分から自分を猿扱いしながらツッコミに入る。
言われすぎて本人も若干『猿でもいいかな』って思ってるのかも知れない。
「クーちゃんもおいしい?」
フレナが、サンドイッチを黙々ともぐもぐしているクーリエに話しかける。事前に『小さい女の子』がいると知っていただけあって、子供でも食べやすいように薄切り食パンを使っている。おむすびだけでなく気遣いもプロの技。
「うん、おいしい」
クーリエが小さい口を一生懸命動かしながらサンドイッチを食べている。啄むのほうが正しいかも知れない。
「いっぱいあるから遠慮しないで……って言ってもそんなに食べられないだろうけど、もし良かったら持って帰っていいからねえ」
フレナがクーリエに優しく話しかける。
「そうだぞ。おむすびも持って帰れ」
「おにぎりだけじゃなくおかずも持って帰るといいわよ」
ヨーデルとフィンも持ち帰りを勧める。自分たちが作ったわけでもないのにこれである。
「そんなに持てないよぉ……」
クーリエが困惑しながら言う。
「なあに、こういう時のための男手でしょ」
フィンがヨーデル(オス)を見ながら言う。
「普段散々動物扱いしておいて、こういう時だけ人間扱いか……。まあそれくらいなら……やっぱなしだ」
ヨーデルの顔から穏やかさが消える。立ち上がり、腰に提げていたナイフを片手に持つ。
「どれくらいの強さ?」
即座に状況を察したフィンが立ち上がり、臨戦態勢を取る。今までも同じ様な状況が何度もあったのだろう。
「この空気感は2種だな。フレナ、お前はクーリエを連れて逃げろ。花はまた今度だ」
「わかったわぁ。ギルドにも伝えとくわねぇ」
この状況でも間延びした喋り方のフレナが言う。とはいえ、緊迫した面持ちでクーリエを抱きかかえる。
「すまん、弁当箱の保証はできない。冗談言う余裕もはっきり言ってない。早く逃げろ。ギルドにA級がいなかったら軍に伝えてくれ」
「わかったわぁ。気をつけてねぇ」
フレナがクーリエを抱きかかえながら街へ走っていくのを見守る……こともできないくらい余裕がないのか、二人ともずっと敵の気配がする方へ顔を向けている。
「ねえ、本当に2種なの?ここらへんでは見たことないのに」
前日の筋肉と対峙した時とは全く別の、余裕のない表情を浮かべながらフィンがヨーデルに尋ねる。
「わからん。が、間違いなく雑魚ではない。
俺の勘が『全員で逃げたら追いつかれる』と告げているからこそ、こうなったわけだしな」
「あんたって行動だけは頼りになるわよね。実力はさておいて」
かっこつけてるのが事実を述べているだけなのかわからないヨーデルに、フィンが軽口を叩く。
「ところで、あんた一人だったら?」
「2種程度なら余裕で撒ける。ここに留まる理由がない」
「つまりさくっと逃げるってことよね」
「適材適所というやつだ。強い奴は強い奴同士で戦えばいい。弱い奴はどんぐり遊びでもしてろ」
「あんた、それは強者のセリフ……」
緊張に間が持たないのだろう。先ほどと違って、両者の口が軽くなる。現実逃避をしたいだけかもしれないが。
「あとどのくらいで来そう?」
フィンがいつでも矢を射られるように準備動作をしながらヨーデルに尋ねる。手には弓だけではなく汗も持っている。
「もうすぐだ。俺の勘違いで3種くらいならいいんだけどなあ」
「3種なら私一人でどうにかなるしね」
「お前が戦ってる間に俺は弁当箱担いで逃げられる」
「あんた……あんだけかっこつけといて弁当箱担いで一人逃げたら噂になるわよ……」
「うちに一人でもS級くらいがいてくれればなあ」
「ないものねだりしても仕方ないでしょ……Sになれる人はよそのギルド行くわよ」
フィンは既に弓を構えている。ヨーデルはいつでも逃げられるように片足を一歩下げている。それでいいのか。
相手が近づくにつれて嫌な空気の濃度が増す。ヨーデル一人なら既に逃げている、というより、空気に押し出されるように体が結果的に反対方向へ向かうだろう。
「ああだめだ。最低でも2種だこれ」
観念したようにヨーデルが言う。
「あんた、一人で逃げたら私と2種が一緒に追いかけるからね」
「それはそれでおもしろい絵が見られるな。当事者じゃなければ」
「オマエラサッキカラナニイッテル」
鼓膜ではなく精神に響くような声を発しながら、木の間から魔物……ではなく魔族が出てくる。
実際に現れるまでに少し解けていた緊張感が利息つきで返ってくる。
背丈は3メートル程、トカゲを二足歩行にして太らせて顔色を悪くしたような造形だ。この喋りも頷ける……が。
「あれ? 喋り方は4種レベルっぽいな」
「2種ってもっとスマートよね」
「1種までいくと喋り方は最早人間だしな」
「でもなんで魔族って強くなるにつれてちゃんと喋れるようになるのかしら」
「それは俺も気になってる」
ヨーデルとフィンが場にそぐわない呑気な会話をしていると、2種と見せかけて4種っぽい魔族が自然と会話に加わってくる。なぜかちゃんとしたしゃべり方で。
「急に会話に入ってくるな!」
「だ、だって楽しそうにしてたから……」
「じゃあ最初の『オマエラナニイッテル』はなんだったんだよ!」
「ワカラナイ」
「なんでまた戻ってんだよ!」
「そうよ! 統一しなさいよ! あんたの喋り方によって私たちの緊張感も変わるんだからね!」
ヨーデルだけではなくフィンまで魔族をまくしたてる。話だけ聞いたら人間3人のちょっとした口論である。
「オハツニオメニカカル」
「なんでちゃんとした言葉使えんのに発音はおかしいんだよ! 統一しろ!」
「はじめましてって返したあと私たちは何すればいいのよ!」
「その次は自己紹介だろう。人間はその程度もわからないのか」
「魔族が人間らしく語るな!」
普通の戦いではなく謎の言葉の応酬が始まる。勝つのはどっちだ。




