4話目 こどもだいじに
ヨーデルワンド(犬)達が花畑を発見した翌日、新しい2人を加え森に再度入ることになった。目的はもちろん、女の子の花摘みに付き合うためだ。
「あんたの気遣いが活きてよかったわね。あの子すごく嬉しそうだったわよ」
「そういやまだ名前聞いてないな。フレナが連れてきたら聞くか」
まだ来てないフレナと、一緒に来る手筈になっている女の子を待ちながら、ヨーデルとフィンが話している。
「でも今日はフレナも暇で良かったわね」
「あいつが引き受けるような依頼って、あんまり金にはならないが時間かかるのが大半だしな」
「ああいう子がいてくれるからうちのギルドの評判も上がるのよ」
「あいつこそボランティア精神の塊だよな。見た目も良い風に言えば癒し系だし、一家に一台ほしい。にしても遅いな……」
「お弁当作るって言ってたし」
「フレナの弁当はおいしいからな。あいつほど見た目に料理の腕が伴ってる女はいない」
「あんたそれ言うのクセになってるわよ。昔似たようなこと言って大怪我させられたのもう忘れたの?」
「だってどっからどう見ても……」
「大体ね、あんたは餌くれる人なら誰にでも懐く犬みたいな性格なんだからもっと……来たわね」
ドスドスと……というのは大げさだが、フレナと呼ばれている女が女の子と手を繋ぎながら歩いてくる。それだけなら普通だが、横に大きな体からはみ出るくらい、更に大きなリュックを背負っている。
「ごめんねえ。お弁当作ってたら遅くなっちゃって」
フレナが、大きな荷物(おそらく弁当が詰まっているのだろう)を抱えているとは思えない、全く疲れのない声で謝ってくる。
「いや、むしろ俺の弁当への期待値はこの待たされた時間とリュックの大きさで上がっている。そしてお前が俺の期待を更に超える物を出してくれる女だと既にわかっている」
「そう言ってくれると嬉しいわぁ。でもフーちゃんも見た目以上によく食べるし、足りなかったらどうしよう」
「お前が一番……」
「ところでフレナ。私たちまだその子の名前も知らないのよ。仲良くなるためにも教えてくれるかな?」
ヨーデルがこれ以上言って、ヨーデル惨劇~再~ になりかけたところを、フィンが女の子に尋ねることで防ぐ。
「クーリエ……クーリ……え、えす、すうぇんず……」
「うんうん。緊張してるのかな。大丈夫だよ。ほら動物もいるし、怖い人いないからねー」
フィンが優しく、たどたどしく自己紹介した女の子に話しかける。
「え?動物どこどこ」
ヨーデルがあたりを見回しながら言う。
「あんたが興味示してどうすんのよ!だから猿なのよ!」
「犬か猿かどっちかにしろ」
『人』という候補が出ないあたり、犬猿扱いされることは特に異論はないらしい。
「言われ慣れてるんだから、自分で判断しなさい」
「お猿さんなの……?」
クーリエが会話に入ってくる。
「(ほら、クーリエが期待してるわよ)」
「(くっそ、わかったよ)」
この場は猿でいくことに決まる。丸く収まったように見えるがそれでいいのか。
「俺はな、ほんとは猿なんだけど街でばれると皆から捕獲……捕まえられる。だから森の中に入ったら猿らしいところを見せてやろう」
「楽しみだなあ。火の輪くぐり」
楽しませる対象外のフィンが無茶なことを言う。
「森はサーカスステージでもねえし、そもそも虎じゃねえから!」
「当たり前でしょ、猿なんだから。小さい子の前だからってかっこつけないで」
「キー!!」
「ねえ、そろそろ出かけましょうよぉ」
ヨーデルとフィンの会話を『いつものこと』とばかりに聞いていたフレナが『もういいでしょ』とばかりに声をかけてくる。
「そうだな。帰り遅くなったら教育に悪いもんな」
「猿も早く見たいしね」
「だからっ……いや、そうだな」
期待に満ちた目で見ているクーリエをちらっと見ながらヨーデルが言う。
「じゃあたまにはがんばりますかね」
・
・
・
「わっ……すごい……もうあんなに遠く……」
ヨーデルが高速で木から木へ飛び移ったり、ぶら下がった枝から別の木の枝へ体の反動だけで移動していく。早すぎて全てを追えているわけではないが、クーリエがまさにサーカスを見ている時のようなハラハラした目で見つめている。
「ねー。ヨーくんはすごいわよねえ」
来た時と同じようにクーリエと手を繋ぎながら歩いているフレナがクーリエの意見に同調する。二人とも楽しそうだ。ヨーデル頑張ってる。
「動きだけならすごいんだけど、あいつの場合逃げ足を鍛えた結果ああなっただけだからね……すごいけど」
フィンが冷静なんだか感嘆してるんだかわからないトーンで言う。ヨーデルバカにされてる。
「キー!」
猿になりきっているフリなのか本能が目覚めたからなのかわからないが、好き勝手に木と木を乗り移っていたヨーデルがその勢いのままクーリエの前に着地する。いつの間に摘んだのか、手に花を持っている。それをクーリエに差し出す。
「あ、ありがとう……」
「ほら、クーちゃん。名前呼んであげて」
フレナがクーリエに促す。
「う、うん……ありがとう、ヨーくん」
「ちゃんと呼ばないとペットの自覚を持たないからね」
「キー!」
これまたいつの間にかもいで隠し持っていたこぶし大の木の実を、ヨーデル(猿)がフィンに投げつける。
「あんた絶対理性まだ残ってるでしょ!」
当たり前である。
見事命中したおでこをさすりながら怒気を孕んだ声でフィンが言う。またもや弓を出そうとしている。
「おい、バイオレンスは女子供のいない時にしろ」
「急に喋るな!しかもどうせ当たらないし!そもそも私も女だし!」
言いがかりのようにフィンが言う。大人げない。
「もう十分楽しんだろ。そろそろ花畑も見えてきたし休戦しよう」
「あんたも久々にたくさん動いてストレス解消できたもんね。またしばらく檻の中よ」
「ヨーくん捕まっちゃうの……?」
先ほどまで楽しそうな目をしていたクーリエの目に悲しみが宿る。
「フィン、お前もう少し『場』を考えて発言したほうがいいぞ」
「くっ……森に入る前と立場が逆になってる……」
「あれも実質俺が謂れのない文句言われてただけだろ!」




