3話目 花の褒め方募集
もう一度書いておきますが
男の名前「ヨーデルワンド=インゴール」
女の名前「フィーネ=アトラクタ(フィン)」
です。
お花探しみっしょん~美少女アーチャーを添えて~
「ってのを思いついたんだけどどう? このタイトルだけでなんならもう足元に花が咲いても不思議じゃないわよね」
女が男に明るく言う。先ほどの戦闘を忘れたいのかもしれない。
「しょうもなさすぎるだろ。小学生かよ」
「え? 私まだ小学生やれる?」
「やれるやれる。次は年相応に賢くなってから卒業しような」
「小学校レベルの歴史すら知らなかった奴がなんて?!」
いつの間にか再度現れた矢を男に向かって女が射る。
「ショック死したらどうする!」
男が上半身だけをずらし、矢を簡単に避けた後に言う。
『射殺されたらどうする』
と言わないあたり、回避力には自信があるのかもしれない。
「たまにはショック死以外で死になさい!」
「まだ死んだことねえわ!」
「ほんと憎たらしい……。一度くらい当たりなさいよ」
「お前が本気で射ったら当たるよ。愛だよな」
「むしろあんたにどれだけ当たりそうかで成長を実感するんだけど……」
「俺の命がけを自分のレベルの指標にするな!」
本気かどうかわからない会話をしながら花を探す二人。
「でも案外見つからないもんだな。ちょっとしたのはあるけど、そんなの持ってってもなあ」
男が左右を見渡しながら言う。ここまで見つかったのは花瓶に入れるには背丈は低い、花は幼女の手より小さい、街の中でも見つかりそうな野草だけだ。
「もういっそ花屋で買う? あんたの金で」
「あの子には強く生きてほしい。そのためにも野生で強く生きている花が絶対に必要なんだ」
空のほうに顔を上げながら男が言う。この手のシーンに必要な空と太陽は、枝と葉に遮られてあまり見えない。台無し。
「ちゃんとしたの買ったら、銅一枚じゃ赤字だものね」
「そもそも、もう既に体力的には赤字だろ……」
「実は私ね、フレナから花畑の位置聞いてきたわよ」
「きったねえ。カンニングかよ」
「職場での人付き合いが明暗を分けたわね」
女が得意げに言う。勝負だったのかこれは。
「で、どこらへんにあるんだ?」
男が聞く。普通『なら先に言えよ』というような会話があるはずだが、それがないということは男もこの時間を悪くないと思っていたということだろう。
「ふふふ、私がただ適当に歩いてきただけだと思ってるの?」
「つまりフィンさん……俺を花畑に導くようにさりげなくリードを……」
「あ、首輪忘れてた。ほらヨーデル、おすわり。ワンと言いなさい」
女が人差し指を立てて人差し指の先だけを地面に下げながら言う。
「そのリードじゃねえよ! そしてまた名前をいじるな!」
「あんたの名前っていじりやすくて便利よねえ。友達多いでしょ?」
「ならフレナに俺が聞いてるわ! ……いや、フレナが知ってるって知らなかったからな……」
「フレナに感謝しないとね。こっちよ」
女が先導するのを男がついていく。躾の行き届いた犬を彷彿とさせる。
「ここからどれくらいだ?……あ、開けてるあそこか」
数十メートル先に明らかに木が避けているような場所がある。
「ええ、あそこで元気そうな花を摘んで終わりね」
「俺とお前の仲もな」
男が腰に提げたナイフを一本掴み、女に襲いかかる。
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「あんた一体何がしたかったの?」
きれいに大の字になって寝転がっている男の顔を、しゃがんで眺めながら女が聞く。
「い、いやあ、花摘みにナイフが必要かと思って」
男がバツの悪そうな顔で言う。
「『俺とお前の仲もな』ってのは?」
「俺とお前の仲もナイフで切れたら嫌だなあって」
「じゃあなんで走って襲いかかってきたの?」
女の詰問が続く。いや、この呆れた言い方だとただの質問かもしれない。
「早く女の子の喜ぶ顔が見たくて花畑に走った結果というか……」
「あんたが欲しかったのは本当に女の子の笑顔? それとも銅1枚を本当に全取りしたかったの?」
「もういいだろ。俺が悪かったよ……っていうか本気で勝てると思ってねえよ……グスン」
男がしょんぼりしながら言う。悲しい。
「それは私もわかってるけどね」
「そうだろ。お前の弓が本気で俺を狙ってないのと一緒だ」
「あれは本気だけど」
女が『あんたとは一緒にしないで』みたいな表情で言う。
「えっ」
「ほら、あんまり遊んでると遅くなって女の子寝ちゃうわよ」
何事もなかったかのように女が花畑に向かっていく。
これだけで先ほどの戦闘(じゃれ合いとも言う)がどれだけあっさり終わったかが窺える。
「ほー。これはすごいな」
少し歩いて目的地にたどり着いた男の眼前には、森の中なのにそこだけ池になってるかのように開けた花畑が広がっている。
「すごい以外の感想ないわけ?」
「そこまで花のこと詳しくないしな。お前こそどうなんだよ」
「きれい……」
「お前、いつもそうだが本当に人のこと言えないな」
男が呆れたように言う。美的センスは似たりよったりなのかもしれない。
「何言ってんの。あんたのとは違うのよ。本当に心から感動してる時には言葉なんか出ないのよ」
「じゃあ俺も俺も」
「あんたってほんっとうに、言葉も動きも軽いわよね……」
「フットワークが軽いのは若いうちだけだからな。『重い腰を上げる』が本当の意味になってからでは遅い」
「あんたは死ぬまでそんな感じだと思うけどね……」
「続きは君の目で確かめてほしい」
「あほなこと言ってないで早く摘んで帰るわよ」
女が花を摘もうとしゃがむ。
「ちょっと待て」
「な、何? また魔物……?」
女が即座に立ち上がり身構える。先ほどといい、一連の所作からこの女の戦闘経験値が伺える。
「いや、距離的には街からもそんなに遠くないし、こんな良い花畑なら女の子連れてきて自分で摘ませたほうが楽しいんじゃねえかなって。ついでにフレナも連れてくるか」
「へえ、あんた気が利くじゃない」
女が感心したように言う。
「女3人に男が1人……ついに俺もハーレム……おっと」
女が射った矢を、先ほどと同じように男が軽く避ける。
「さっきの仕返しか? ボロ雑巾のように放り投げるだけじゃ足りないのか……恐ろしいよこの子……」
「たまには良い話で終わらせなさいよ!」




