2話目 金 筋肉 逃げ足
名前
男(一応主人公)は、ヨーデルワンド=インゴール
女(人によっては主人公)は、フィーネ=アトラクタ(フィン)
です。
「ツッコミばかりしてたら疲れたわ。明日も早いしもう帰りましょ」
女が飲みかけの酒を飲み干す。グラスではなくジョッキなのが人間性を伺わせる。
「行きたくねえなあ。なんで大の男が森の花摘みなんか……」
「あんたが女の子の前で格好つけたからでしょ! しかも自分一人で行くならともかく私まで付き合わせて!」
「子供が『銅一枚しか払えないけど……』って泣きそうになりながら頼んできたらそりゃ仕方ないだろ。他の奴らも忙しそうだったし」
「普段はそんなことないんだけどね。子供好きの子達もいるし」
「もはやボランティアだよなあいつら。いつもよくやってるわ」
「うちの方針にむしろ合ってるわよ」
この世界は『法に反しない限り』様々なギルドを作る自由が認められている。武闘派を集めて魔物退治、つまりは危険な依頼を大金と引き換えに請け負うギルドや、身近な、たとえば猫探しや引っ越し作業等を請け負うギルド、なんでもやる、ただし精度は保証しない適当なギルドまで様々だ。配置は好みの分かれるところである。
「そもそもさ、あんたそんな文句言える立場なわけ? 有名ギルドに片っ端から落ちた結果がこれなのに」
「街の人達に笑顔になってほしい……。今日俺がこの店に来たのも、売上が上がって喜ぶ店主の喜ぶ顔が見たかったから……」
「その裏であんたが来なかった店の店主は泣いてるわよ。その理屈で言うなら」
女が呆れた顔をしながら言う。このようなくだりに慣れてるからこその表情だろう。
「人生は男女にたとえられる。惹かれ合う運命であれば何もしなくてもいつの間にか一緒になっている……」
「つまり、安い店としか惹かれ合わないということよね。男の器……財布的な意味で」
「つうわけで今回の報酬の銅一枚は俺の全取りでいいかな」
「あんた……言ってて恥ずかしくないの……?」
「そういうところが好きなんだろ?」
「もういいわ……。子どものためにも頑張りましょ……」
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翌日、二人は森の入口にいた。『お花ほしいけど高くて買えないの……』という、なかなか家庭環境を感じさせる理由で依頼してきた女の子のために森へ向かう。報酬は少ないが所詮花。指定はなかったので適当にふらふらしてればそれっぽいのが見つかるだろう。ちょっとしたピクニック(見た目は良い女の子つき)だと思えばまあ……。
「森はいいなあ。街より空気も澄んでるし、木漏れ日が気持ちいい」
「ほら、あんたの大好きな大きい木あるわよ。ぶら下がっても折れなさそうな枝もあるし早く登りなさいよ」
「だから猿じゃねえんだよ! ……ん?」
いつもこのような感じの会話をしてるのだろう。しかし急に空気が変わる。
男が急に木に登り……と言うより駆け上がり、枝の上にしゃがみながら遠くを見る。女の言うとおり猿なのか。
「おい、前方に見慣れない魔物がいる」
女に聞こえる程度の小声で言う。
「どのあたり?」
男の声にいつもの冗談が混じっていないのがわかったのだろう。女もいつでも弓矢を出せるように手のひらを広げながら聞く。
「わからん。小粒にしか見えん」
「そんな遠いなら見慣れてないかわからないでしょ!」
「わからないということは見慣れてない魔物の可能性も……」
「あんたもしかして昨日の王の生まれ変わりなんじゃないの?」
「え?俺金持ってないぞ」
「金も経験も引き継がれるわけないでしょ! あんた金袋持って生まれてきた赤ちゃん見たことあんの?!」
「出産を見た事がないからなんとも……」
「『この子生まれた時からお母さん孝行で、生まれた時に一緒に金が入った袋持ってたのよ』って聞いたことある?!」
「そんな話しないだろ。誰に金を狙われるかわからんぞ。普通は黙っておく」
「普段くだらないことばっかり言ってるのに急に冷静になるな!」
「でかい声を出すな。見つかったらどうする」
「小粒にしか見えない奴に聞こえるわけないでしょ!」
「あー……ほらー……」
男が『言わんこっちゃない』とでも言いたげな顔で女の後ろを見る。
「筋骨隆々の奴がこっちに近づいてきてるぞ。お前ああいうの好きだろ」
「まあね」
女が手のひらを広げたままの左手を前に伸ばすと弓が現れる。もう片方の手で弦を引き、離す。いつの間にか現れていた矢が『自分、筋肉だけで生きてきました』と主張しているかのような魔物の頭を射抜く。
「男だったらの話だけどね」
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「いやあさすがですフィンさん。頼もしいなあ」
いつまでも弓を消さずに弓をもった腕をだらんと下げ、もう片方の手で風で揺れる髪の毛を抑えるような、つまりは『ごめんね、でも私も死ぬわけにはいかないの』みたいな決めポーズをしている、フィンと呼ばれた女に男が話しかける。
「そもそも、小粒にしか見えない魔物の気配を察知できて、なんで今の魔物に気づかなかったのよ」
「なんだろうな。お前がいるからかな」
「あんた定期的に私に気があるアピールして……」
「いや、そういう意味じゃない。お前なら簡単に倒せるような相手には反応しなくなってるんだと思う。安心感で」
「自分が簡単に倒せる相手にその能力は活かしなさいよ……」
「俺一人でどうにかできる奴いねーもん」
「開き直るな!」
眼前にあった危機を乗り越え(そこまで大げさな話ではなかったが)二人の間に軽口が戻る。
「でも、ということは……」
「何?よわいさん」
「悪意のある略し方で呼ぶな! いやさ、俺の仮説がそのとおりなら……」
「あんたがさっき反応した魔物は相当ってこと?」
「フィンさん、仮説を証明するためにちょっと行ってきてください。おむすび用意しておきましたから」
「自分の思いつきは自分で責任とれ!」




