18話 そして現在へ
「あれ?今日は早い帰りだね。怪我もちょっと擦りむいたくらい?」
ソーニャちゃんが少しびっくりしながらヨーデルに話しかける。
「ソーニャちゃん!」
全力疾走ならぬ全力逃走をしてきたヨーデルが、息が切れた様子もなく元気にソーニャちゃんを呼ぶ。
「え?あ、なにかな?」
ちゃんと呼ばれてソーニャちゃん更にびっくり。ちゃんとちゃんと。
「勝った!ゴレックに勝った!」
「えっ?!」
更に思いがけない報告に、ソーニャちゃんショック死しちゃうくらいの驚き3連発。
「あいつ今頃落とし穴でもがいてる!」
「え?あ、ああ……君の武器ってそういう意味で言ったんじゃないんだけどなぁ……」
想像だにしない出来事を聞かされ、ソーニャが呆れたように言う。
「これで俺もなんとかってランクだ!」
「い、いやさすがにそれは……」
ソーニャちゃん困惑。
「教養のない奴なんてこの程度!俺すごい!」
ヨーデルが飛び跳ねながらはしゃいでいる。
この動きは紛うことなき猿ですね間違いない。
「引き分けっつっただろ!」
盛り上がってるところにゴレックが帰って来る。
「え?君そこまで追い詰められたの……?」
ソーニャちゃんが『信じられない』って表情を浮かべながらゴレックに尋ねる。
「そういうことってやつだ。あんま深く聞くな。わかるだろ」
「そうだね。ヨーデル頑張った。これだけでいいよね今日は」
「ああ、後は任せたぞ」
「おいゴレック。お前これから何すんだよ。まだ勝負はついてないぞ」
「お前『勝った』って言ったじゃねえか……」
「ほー。じゃあ俺の勝ちってことでいいんだな?これから『ヨーデルさん』って呼べよ」
「俺の授業は今日で終わりだ。これからはソーニャとレイドに学べ」
ヨーデルの話に答えず、ゴレックが言う。
「会話になってねえよ!」
「なんだよ、俺にぼろくそにされる毎日がそんなに楽しかったのか?」
「そんなわけねえだろ!」
「ソーニャ、特種の話は知ってるな?近いうちに軍と一緒に俺も向かうかもしれん」
「うん。気をつけてね」
「ここで手柄を立てれば俺もS級だ。ロームウェルさんも喜ぶ」
真面目な顔で話すゴレックとソーニャちゃん。
「なんだよお前どっか行くのか。土産買ってこいよな」
いつも通りのテンションなのはヨーデルだけ。
「ヨーデル」
ゴレックがいつも通りの厳しい表情を浮かべながら言う。ただ、いつもと違い怖さは感じない。
「な、なんだよ」
いつもと違う空気をゴレックから感じたのか、少し後ずさりながらヨーデルが反応する。
「よく学ぶんだぞ。俺みたいになるなよ」
「当たり前だろ!お前なんかさくっと超えてやるわ!」
「ああ、そうだな。じゃあなヨーデル」
ゴレックが保護者のような顔をヨーデルに向けた後、ギルドを出ていく。
「……なんだよあいつ、急におとなしく……うん?」
ヨーデルがここで気づく。
「あいつ、俺の名前呼んだの初めてじゃないか?」
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「……夢か」
ヨーデルがベッドの上 (自室)で目を覚ます。
「軍に行くとどうしてもなー、思い出しちゃうんだよなあ」
カーテンを開けつつ一人呟く。朝日が眩しい。
「ふっ。今となっちゃいい思い出って、フィン達の前ならかっこつけるところだが……」
ヨーデルが暗い顔になる。
「こんな話するわけにはいかないよな。絶対」
洗面所に向かい鏡を見る。大していけめんでもないツラが映る。
もっとも、目に関してはもう誰にも野良犬の目には見えないだろうが。
「考えても仕方ねえ。今日も一日がんばりますか」
決意を固めるように一人呟き顔を洗う。
一日が始まろうとしている。
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「よう、今日も早いなフィン」
「あんたが遅すぎるのよ毎日」
ギルドに着くといつも通り先にフィンがいる。
「女の子を待たせちゃだめだよ。昔教えたでしょ?」
「いや、待ち合わせをしてたわけじゃ……えっ」
フィンとテーブルを挟んだ向かいに見知った顔が座っている。
白いローブに、ロームウェルとは違う意味で持っている杖。目は少し垂れてて、
見るからに『優しそう感』が出ている。年はヨーデルより一回り以上上だろうか。
「ソーニャちゃん……さん!」
「呼び方だけで君の成長が窺えるのは嬉しいけど、ソーニャちゃんでいいよ」
「おひさしぶりっす!3年ぶりくらいっすかね」
ヨーデルがフィンの横に座りながらソーニャちゃんに聞く。ヨーデル浮ついてる。
「そうだね。だからフィンちゃんとは今日がはじめましてなのよね」
「フィンがギルドに入ってまだ2年っすからね」
「っていうか、今まであんま詳しく聞かなかったけど、あんた成人前からギルドにいたの?」
フィンがヨーデルに尋ねる。
「うん?あ、ああまあそうだな」
ヨーデルの歯切れが悪くなる。無理もない。
「フィンちゃんに最近の話を聞いてたんだけど、私たちがいない間も君たちで頑張ってたんだね」
「そうなんすよ!こないだも2種倒したんすよ!」
久々の再会にヨーデルがはしゃぎながら言う。
「私がね。しかもまだ1種の可能性も残ってるわよ」
フィンが即座に訂正する。誰の前でもぶれないこの態度素敵。
と言いたいところだが、たまには花を持たせてやれ。
「君はまだC級らしいね。ゴレックが聞いたら悲しむよ」
「ふふふ。今なら勝てなくても逃げ切ることはできますよ」
ヨーデルが得意げに言う。
「そこを自慢気に話されても困るんだけどな……」
ソーニャちゃんが困惑する。
「私の知らない話ばっかりしないでよ!ゴレックって誰よ!」
「あ、ああ、ゴレックはね……なんていうか……」
「俺の兄みたいな人……奴だ」
ヨーデル少し意地張ってる。
「えっ」
ソーニャちゃんが当たり障りのないように説明しようとしている途中に、
ヨーデルが思いがけないことを言ったせいでソーニャちゃんが驚く。
「じゃあ猿ってことね」
フィンが身も蓋もないことを言う。
「いや、ゴリラだわゴレックさん……あいつは」
ヨーデルがさすがに少しは怒るかと思いきやフィンに乗ってくる。
「私がいない3年間で成長したみたいだねヨーデル。周りの人が良かったんだろうね」
ソーニャちゃんが嬉しそうに言う。もはやお姉ちゃんじゃなくてお母さん。
「ソーニャちゃん!このギルドの奴こいつをはじめとして皆ひどいんすよ!
ローさんまでいじめてくるから、精神も肉体もやせ細っちゃいますよ。
ほら見てくださいよこのガリガリの腕」
ヨーデルがわざとらしく弱気な表情を浮かべながらソーニャちゃんに腕を見せる。
「それは鍛えてないからじゃないからかなあ」
同情するかと思いきや、至極当然の感想がヨーデルを襲う。
「身内の裏切りが!」
ヨーデルが絶望したように言う。
「ほらヨーデル、私が新しい身内になってあげるわよ」
フィンが優しそうに言う。
「なんだお前、ソーニャちゃんに対抗してるのか。
普段からそうやって優しければ既にお前になびいていたのに」
「あんたなんかいらないわよ!ソーニャさん家の子になりなさい!」
「うちもいらないかなあ」
はじめましてとは思えないフィンとソーニャちゃんの連携プレー。ヨーデル遊ばれてる。
「俺の知ってるソーニャちゃんはそんなこと言わない!」
「なんにしても、楽しくやれてるんだねヨーデル」
ソーニャちゃんが二人の会話を楽しそうに聞きながら言う。この3年間心配はしてたのだろう。
「でね、私が久々に帰ってきたのはロームウェルさんに会うためなんだけど、
いないみたいなのよね」
「じゃあ今暇っすよね。この3年間の話聞きたいっす」
「何言ってんのあんた。森の見回りがあるでしょ」
「そういうのは若い人達に任せて……ゴホッ」
ヨーデルがわざとらしく咳き込む。
「ロームウェルさんみたいなボケしないでよ!」
「おっす。昨日の礼をしにきたぞ」
ギルドにヨーデルと正反対の肉体を持つ筋肉……ではなくエルギが紙袋を提げて入ってくる。
ギルド内の人口密度もイベント密度も大変なことになってるよぉ。




