13話 日常と裏と不穏さと
「久しぶりに帰ってきたな。親の顔より見た建物だが、死闘を乗り越え一回り大きくなった俺にはいつもより小さく見えるぜ」
ヨーデルがナップザックを肩にかけ、仁王立ちになりながらギルドの外観を眺めている。
「戦ったかはさておいて、死にかけになったのは間違いないしね」
フィンが横で水を差す。
「ああ。まさか怪我よりも食中毒で死にかけるとはな。味方の味方は敵とはよく言ったものだ」
「逆よ!それに、恨むなら攻撃を避けられなかった自分を恨みなさいよ!」
「まあいい。入るぞ従者よ」
「倒したのは私!美少女頭脳派アーチャーの私!」
そんな会話をしながらドアを開けると受付のシーラと目が合う。
「よく来たね。ここはロームウェルギルド。依頼ならそこの受付用紙に書いて私に渡してね」
シーラがヨーデルに話しかける。
「なんではじめましての客対応のノリなんだよ!」
「フィン。困るよ動物を連れてきちゃ」
「魔族だと思えば大丈夫よ」
「魔族のほうがもっと困るだろう……」
シーラが困惑しながら言う。
「え?逆に俺がなんか間違えてる……?ギルドが小さく見えたのも俺が建物間違えたから……?」
不安になるヨーデル。しっかりしろ。
「お前は相変わらず自信がないのう」
受付の奥からロームウェルが顔を出す。相変わらず杖をついている。
「あ、ローさん!こいつらがいじめてくるんです!」
ヨーデル泣きついてる。
「どちら様じゃったかのう」
「じじい!見た目通りのネタはやめろ!」
ヨーデルがツッコむ。この前のフィンといい、ギルドの空気がよくわかりますね。
「フォッフォッフォ。元気そうじゃのう」
「あ、これ病院の請求書ですぺこぺこ」
ヨーデルが恭しくロームウェルに渡す。『じじい』と言っておいてこれである。
「ふむふむ。シーラ。この金額をどう思う?」
「半分負担させるべきでしょうね」
「ちょっと高い気がするしのう……」
「なんでだよ!むしろ『あと2日ほど様子を見たほうが良い』って言われたのに今日帰ってきたんだぞ!
素直に金出せよ!」
「フィン、警らを呼べ。強盗じゃ」
「はい」
「逃げないように私が足止めします」
シーラが髪を留めていたかんざしを外し、ダーツのように持つ。かんざしの先は鋭くなっているが、仕込み杖と同様に、普段は普通の髪留めにしか見えない。
「いつまでやんだよこれ!他の奴はともかく、シーラはまた付けるの面倒だろ!」
ヨーデル絶好調。
「そんなに元気で早く帰ってきたということは、仕事がしたくてたまらないということじゃな?」
「単純に暇だったんすよね。病院食まずいし」
「フォッフォッフォ。フレナのおむすびに比べれば大体のものはまずいからのう」
「ほんとすよ。退院祝いで作ってもらおうかと思ってます」
「じゃあ私のも」
「私も」
フィンとシーラも乗っかってくる。
「俺達、フレナに米代くらい出さないといけないかもな……」
~一方その頃~
「森の奥に感じた気配はその後どうなった?」
暗い部屋で女が問いかけると、女以外にいなかった部屋にもう一つの気配が浮かぶ。
「あれ以来感じ取れておりません」
「我々の繁栄の害にならなければよいのだが……」
「もしスウェンズ卿に仇なす存在であれば私が……」
何者かが慇懃に女と話している。
「私だけじゃないのよ」
「……失礼しました」
「かあさまー」
急にドアが開く。
「あれ?誰かいた?」
「いえ、誰もいないわよ。どうしたの?」
かあさまと呼ばれた女が優しくクーリエに話しかける。
「ねえねえ、またヨーくん……お兄ちゃんたちのところ行っていい?」
「もう少しお家にいなさい。今は危ないから」
「はーい」
素直に従うクーリエが部屋を出ていく。
「場面が動くのはいつも一瞬の間。だからこそ目を離せないのよね」
女が一人呟く。聞いてる者は誰もいない。




