10話 ヨーデル入院中
「ヨーデルちゃんと寝てる~?」
病院に不釣り合いな声とテンションでフィンが病室に入ってくる。
「あれ?いない。まさか」
病室の窓が開いている。ヨーデル逃げた可能性ある。
「だからちゃんとした檻に入れとけと言ったのに全く」
フィンが窓から身を乗り出しながら、本気か冗談かわからない口ぶりで呟く。
「ヨーデルさんはトイレですよ」
後ろから声をかけられる。振り向くと衛生員が立っている。
「じゃあすぐ帰ってくるわね。待ってるわ」
「むしろトイレにいる時間のほうが長いですよ」
「え?やっぱり狭いところのほうが落ち着くのかしら。びびりだし」
ヨーデルに猿と犬だけじゃなく小動物扱いまで追加される。ヨーデル属性増えてる。
「というより、怪我はフレナさんのおかげで順調に治ってきてるんですけど、今は食中毒がひどくて……」
「食中毒?病院食食べずに拾い食いでもしてるのかしら」
「本人曰く『生肉を食べさせられた』からだと……」
「あ、あーなるほど?全くヨーデルと来たら食まで犬に似てきて……」
心当たりのあるフィン。傷害容疑まである。
「ふふ、大丈夫ですよ。『しかたなかった』って言ってましたから」
「あらそう。ならいいわ。実際しかたなかったものね」
フィンが悪びれもせず言う。自分に被害が出なさそうな流れになった途端にこれである。
「次来る時にはちゃんと焼いた肉を持ってきてあげましょう」
「肉はもうしばらく見たくないんじゃ……食べてもすぐ出ちゃうし……」
衛生員が苦笑しながら言う。
「ところでコニールさん。どれくらいで退院できそうなの?」
フィンが衛生員に話しかける。
「何もなければフレナさんもいますし2,3日といったところですが、今回は食中毒で食べられないのでもう少しかかるかも……」
「全く、これなら普段からもっと地べたに落としたもの食べさせて耐性つけさせるべきだったわ」
「そもそもヨーデルさんって大怪我しないじゃないですか。これでまだ二回目ですよ」
「一回目はフレナのせいだからね……。
でもあれのおかげでその時壊れた古い椅子とか新調されてちょっとラッキー」
「あの見た目ならフィジカル強いのわかるでしょうに。しかもフレナさんって身体に影響する構成に強いじゃないですか」
「喧嘩したわけじゃないのよ。あいつがちょっと口滑らせただけ」
「見た目だけじゃなく言動も軽いですからね」
「俺のいないところで好き勝手言いやがって……」
息も絶え絶えにヨーデルがトイレから、点滴のついている棒を支えにふらふらしながら戻ってくる。
「あんた更に痩せたわね。これ以上痩せたら内臓とか収納するスペースなくなっちゃうんじゃないの?」
「誰のせいで……いや、それはいい」
ヨーデルがベッドに向かい、ベッドに腰掛けようとするのをフィンが支える。
「悪いな……」
ヨーデルが珍しく素直にフィンに礼を言う。
フィンも珍しく優しそう。
「あんた今めっちゃ年寄りっぽいしね。おじいちゃんには優しくしなきゃ」
「俺が爺ならてめえもばばぁ……」
フィンが唐突に、ヨーデルの背中を支えていた手を離す。ヨーデル転んでる。
「くそぼけ……」
「悪態つく元気があるんなら大丈夫ね」
フィンがベッドに寝転んでいるヨーデルの上体を起こしながら言う。
「じゃあヨーデルさん、何かあったら知らせてくださいね」
よくある挨拶をしながらコニールが部屋を出ていく。
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「で、あの後ルドモンドはどうなったんだ」
ヨーデルが普通に座るのはまだ辛いのか、先ほどと同じように点滴の棒を掴み、支えにしながら聞く。
「満足したみたいで帰ってったわよ。どこに帰るのかは知らないけど」
「やっぱ魔族はこええわ。いつもと同じ感じでツッコむんじゃなかった」
「でもあの後も普通に会話できたわよ」
「それはお前が怪我してないことからわかる」
「あら、もしかして心配してくれてたの?」
「正直、あの時はお前の心配する余裕はなかった」
「あんた正直すぎるからモテないのよ。普段のひねくれをなんで活かせないのかしらね。スピードもそうだけど」
「嘘をつくのには知能が必要なんだ。ついた嘘を覚えておかないとその後の会話に齟齬が出る。
何を言って何を言ってないか……」
「あんた、自分をバカに見せたいのか賢く見せたいのかどっちなのよ……」
「女にモテるほう……間違えた。お前にモテるほう」
「説得力皆無!」
この子たちまた脱線してる。
「で、どんな会話をしたんだ?」
ヨーデルが更に聞く。
「魔族の生態とかの話ね。結果的にはあんまりわからなかったんだけど。
あ、でも気になること言ってたわたよ。『ここに来たのは我と同じ気配を感じた』からとか」
「俺が最初に森に入った時に感じたやつか?」
「それはわからなかったのよね。でもあんたが見た時めっちゃ遠いところにいたんでしょ?」
「でもフレナ達と花畑に行った時には感じなかったからな。わからないな」
「そうね。今はとりあえず早く治しなさい。はい、これロームウェルさんから」
フィンが封筒を差し出す。
「お、金か?助かる」
「金じゃないと思うわよ。今回は街への被害を食い止めたとみなして、入院費はギルドで持つって言ってたし、封筒からジャラジャラ聞こえないでしょ?」
「ああそりゃ助かる。いくらとられるかわからないからな。……じゃあなんだ?」
ヨーデルが訝しげに封筒を開けると一枚の紙が出てくる。なになに。
『※出せる入院費には上限があります。無駄遣い、無駄に長く入院しないこと』
「あのじじいここまで読んでやがったのか!……っつ……」
ヨーデルが少し声を荒げながら言うが、力が入ったせいか背中の傷に響いたようだ。
「長く生きてるから……いや、あんたがわかりやすいのよ……」
フィンがヨーデルの背中をさすりながら言う。
「ローさんにさ『上限いくら?』って聞いてきてくんない?」
「そんなこと言ったらとんでもなく低い額言われるわよ……」
ヨーデルの体調どこへやら、軽い会話が続く。早く治るといいですね、ね。




