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探偵蓮香の事件記録  作者: 宴元蒼井


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9/10

第七件 言の葉の裏

「蓮香さん」

僕はできるだけ凄むように声を低くして声をかける。

「何?急に怖い声出して」

「同じ本が4冊あるのは何でですか?しかも本の形がほとんど正方形。ページ数多すぎるでしょ」

僕が今手に持っている本は、縦は通常の単行本サイズだが、横幅も縦幅と同じデカさがある。それが4冊は棚が壊れても文句は言えない。

こんなのが頭に落ちてきてよく僕は死ななかったな。

「違うんだよ!これには深いわけがあって…」

蓮香さんが必死で近づいてきて弁明しようとする。

「僕も鬼じゃないんで、捨てろとはいいません。けど、家に持って帰りましょうか」

「ちょっと、それだけはやめていただきたく…」

急に威勢がなくなった。動揺が出ている。動揺を引き出すのは探偵技術の基本だ。

動揺から言葉の裏を引き出す。十年前後の努力の結晶だ。

「何でですか?本を買うためにまた家賃を滞納したとか?」

「いや、そういうわけじゃなくて……、私の知識と娯楽の結晶が家の床をぶち抜きそうで、置けないんだよ」

だから職場に置くということか。あまり事務所を汚くしすぎても良くないが、同じくらい何もないのも良くない。

ここは、どうすべきか。

蓮香さんが懇願する目でこちらを見てくる。

もうめんどくさくなってきたので後で考えよう。

「めんどいことは後で考えましょう。とりあえずこの棚を片付けてバーにでも行きましょう。呑みたい気分なんで」

「しょうがないなぁ。相棒がそこまで言うなら付き合ってあげるよ」

蓮香さんが完全に勝ったといった表情をしている。うざい。


店の片付けが終わった頃、外は日がすっかり落ちて、良い子はねる時間となった。

大人は今からが本番の時間である。

「へー、ボトルズフォレストっていうんだ。なかなかおしゃれな名前してるじゃん」

蓮香さんが顔を上げて店名を読み上げる。

「おしゃれですよね。僕も初めてきたんで楽しみです」

カランカラン

店に入るとマスターに近いカウンターの席に座る。

「いっぱい種類ありますね。棚にもたくさんある。あれってボトルキープなんですか?マスター」

マスターは寡黙な人に見えたが、意外に優しく答えてくれる。

「そうですね。ここの一面の棚はボトルキープ専用になっております」

そうなのか。ウィスキーから日本酒まで幅広い種類がある。

「今日は飲み明かしましょう。蓮香さん」

「言われなくてもそのつもりだよ」

ドヤ顔でそう言ってくる蓮香さん。

この人とは十年前後の付き合いだが、お酒にめっちゃ弱いんだよな。飲み明かせるかな?

「マスター、ゴッドマザーをロックで」

「あ、ちょっと待ってよ相棒。先に頼まないで。えっと…マティーニで」

マスターはコクリと頷くと、カウンターの下で作業に入っていった。

「そういえば蓮香さん。僕らも長い付き合いですけど、相棒以外で呼ばれたことないですよね、僕。名前覚えてます?」

そう聞くと途端にせわしなくなる。絶対に忘れてる。

「もちろん覚えてるよ。十年前後一緒にいるんだよ。覚えてないほうがおかしいって」

「じゃあ教えてくださいよ」

僕が問い詰めようとすると、マスターがカウンターにお酒を置いてくれる。

美しい琥珀色の液体には一輪の花が刺さっていた。

四葉のクローバー。幸運の花だ。こういう事ができるから人気なんだろうと分かる。

蓮香さんの半透明の透き通ったマティーニにはオレンジのガーベラ。

「オシャレだね。飲むのがもったいないくらい」

そう言いながら蓮香さんは一口、口をつける。

それにつられて僕も一口。アマレットの甘さが、ウォッカの鋭さを包んでくれる。

そこから色々なカクテルを楽しみながら、夜は更に更けていった。

「ちょっと、蓮香さん。酔った勢いで秘密を暴露しないでください!」

「そんぁことんぁいけど」

まだ、二、三杯しか飲んでいないはずなのにかなり酔っ払っている。

「すいませんマスター。タクシーを呼んでいただけますか?あと、今聞いたことは秘密でお願いします」

マスターは上品に笑うと、コップを拭きながら言った。

「もちろんですとも。私、口の硬さには自信がありますので」



タクシーに乗り込むと、蓮香さんはすぐに僕の肩に寄りかかってきた。行き先を告げる前に、もう目を閉じていた。

「カードでお願いします」

タクシーで事務所に着いたはいいが、蓮香さんが少し重くて動きづらい。

長い時間をかけてどうにか事務所のソファーに寝転がす。

「はぁあああ。重かった」

それにしても、まだやることがあるなんて。思いたくもない。

けれども、明日の依頼者の資料を作らなくては。

僕は目を覚ますために冷蔵庫からエナジードリンクを取り出し、一気に飲み干す。

「さて、もうひと頑張りするか」




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