フェリクスの隠れ家
「叶翔ぉぉぉぉ起きろぉぉぉぉ!!!」と元気な子供の声が聞こえる。眠すぎる目をこするとぼやっとした視界の先にレアが見えた。あ、子供じゃねぇ、大学生だったか。
「隊長、副隊長ともに確認が取れたってさ!」と彼は無邪気にいう。隊長と副隊長…?あ、リアちゃんが言ってた話か。あの一瞬のレアの戦闘だけでも素人でもわかる相当な技術力を感じたのに、そのさらに上となるともうイメージはつかない。
「レアも強いんだろ?」と聞くと、えへへ、まぁな、と得意そうにドヤ顔をしてきた。でもすぐに説明し直した。「インフェリクスは強さの階級分けがされている。それに合わせて、俺等フェリクスも階級分けがされている。1から6級部隊まである。昨日説明したように俺は2級、リアは3級だ。」
「で、俺もこの世界で生きていくには訓練しなければならない…と、」と俺がうなだれて言うと、レアは「まぁまぁ。訓練はきちぃしいつ死ぬかわからないこともあるけどな、面白い奴らやすげー人たちが集まってる。正直、そういう人たちの戦闘は言葉にならないくらいかっこいいんだ。」と真剣そうに語る。
どうやら、思っていたよりも、熱い世界のようだった。
「今日は地下室で銃と防御の仕方についてある程度教える。明日から軽い実践だから、頭に叩き込めよ」
「明日から?!」明日には死ねと…?そうなのか?
「まぁ落ち着け。隊長が俺に指導係を任せてくれた。絶対死なせないから安心しろ。」
「信用ならないな…」
「あ?」
「別に」
そうしてレアは外へ出た。あたりを見回すも、「今日は大丈夫」と言いながら俺を何処かに連れて行く。
そして先日とは違う裏路地に入った。そこは明らかに朝だというのに暗めで、大人の雰囲気を醸し出していた。そしてレアはそこにある「Cafe&Bar」の前にたった。
「昼から違法行為する気かよ」と突っ込むと、レアはいいから、といいながらドアを開けた。
「いらっしゃいませ、」と中から低音の落ち着くような男性の声が響いた。
「Mr.セル。俺っす。」とレアが挨拶をすると、
「おぉ、Mr.レア。お待ちしておりました。お久しぶりですね。お隣はお連れの方でしょうか‥?」と丁寧に返事を返してくれた。
「いや、新入部隊員だ。ちょっと理由あってさ、」
「隊長からバッチリ聞いてますよ」
「さすがマスター。じゃ、地下室借りるね」
「もちろん、お好きにどうぞ。」
マスターと呼ばれた人は丁寧にドアを指さした。
レアは扉を開けた。店に来た瞬間は全くわからなかった。隠されていたのだ。
地下への階段は意外と広かった。そしてテンポよく階段を降りながらレアがゆっくりと説明してくれた。
「Mr.セルリアン。ここの店のオーナー兼、地下室の管理者。」
そして地下室に着いた。レアが電気をつけた瞬間、その全貌に俺は驚いてしまった。
先程の小さい店舗の地下とは思えないほど広すぎる空間があった。よく見ると、右側には本棚がたくさんあった。図書室のようだった。
そして問題は左側。銃や武器がズラッと並んでいる光景は何ともおぞましいものだった。
「ここはフェリクスの隠れ家。戦闘準備のときに使ったりする。ここである程度の説明と武器の装備ができるからさ、」
そして俺は訓練の初期説明を受けた。
半端じゃない量の情報が頭に流れてくる。
「インフェリクスの段階分けも級となっている。
自分と同じ級のやつが同じぐらいの強さ。固まって攻撃してくるから、隊長、副隊長の指示で2、3人で戦闘に向かう。インフェリクスのトップは1人。異次元の強さらしいな。」
その他にも、銃の使い方、身の避け方、インフェリクスとの思想の違いについてまでも叩き込まれた。
「‥インフェリクスって俺らと同じ人間なんだよね?」
俺は情報処理をするのに疲れてしまい、きりが良くなったところで図書室の椅子に座り、つっぷしながらレアに聞いた。
「そうだよ。この前みたいに俺らを殺す気満々な人間だ。」
「和解はできないのか‥‥」
「無理だな。あいつらは第3人格と聞くと目の色変えて何もためらわなくなる。殺すのも同じだ。」
「ふーん‥‥」
俺はどうにも納得することができなかった。いい方法はそんなにないんだろうか、頬杖をついてそんなことをじりじりと考えていると、
「休憩、でございますか。」ふと先ほど降りた階段の方から声がした。よく見ると、先ほどのマスターと呼ばれていたMr.セルリアンが飲み物を持ってこちらに降りてきたのだ。
先程、見せに来た時には暗めであまり見えなかったその姿が階段の照明に照らされ初めてよく見えた。たしかに、その低く落ち着いた声に似合う男性だった。何より、イケメンなのだ。年は35か36とそれくらいの見た目だった。
カフェ用のきちっとしたスーツがその丁寧な所作によく似合っている。
「Mr.叶翔。ご挨拶が申し遅れました。私はセルリアンと申します。以後お見知り置きを、」そういうとまた丁寧に礼をする。
「あ、よろしくお願いします」俺もつられてカチコチになってしまった。
「この人何歳‥?30すぎくらいに見えるけど‥」と気になってレアに静かに聞くと、レアが答える前に彼本人が「28でございます。」と答えた。
「よく年齢を上に見られがちなのですが、なるべくポジティブに捉えるようにしてるのです。」
Mr.セルはニコっと笑った。
「あ、いや、その‥‥年をとっていると言うより、落ち着いた雰囲気なので上かと思ってしまいました‥‥」
と俺が思わず言うと、彼は一瞬驚いたような顔をしたものの「そう言っていただけて光栄です。」とまた控えめに笑った。
そして彼はカフェオレを置いてくれた。カフェオレは冷えてて少し甘く、疲れた頭に効いて美味しかった。
午後は銃の実践も兼ねて練習を行った。
狙う場所、玉をこめる作業、銃の種類など。
「俺らは大体使いやすい常時装備型と完全戦闘用型を使ってる。常時装備型はこの前俺が使った緊急用の2丁の小さい銃だ。玉は込められない分、うまく使いこなせれば最短時間で撃つことができる。」
すげぇ‥‥
「そしてあれが、戦闘用だ。」
そう言ってレアが指差したのは、銃の棚だった。
「あれか‥‥?」とかっこいい大きいものを指差すと、
「違うな、あれは隊長とかが使いこなせるやつだ」とレアは首を横に振りながら、別の棚を指さした。
「あれが叶翔の戦闘用」
そう言ったれあの手の先に見えたものは、常時装備型の小さい銃より一回り大きく、重厚な黒をまとった銃だった。
「あれ…小さいな」
「銃に大事なのは、大きさじゃない。ましてや素人なら大きいことによって狙いがぶれてしまうこともあるから逆効果だ。だから小さめだけど威力があるものがいいよ。ちなみにS3っていう機種だ。」
「へぇ…S3ね…」俺はオウム返しをした。
そしてレアはS3を手に取ると、俺に渡してくれた。
「あそこに向かって、一発撃ってみて。やり方はさっき教えただろ」
「え、でも…」
初めて、銃を撃つのか。戸惑っていると、レアが俺の持っている銃に手を添え、その銃口を遥か遠くの壁へと向けた。
「大丈夫だ。ここは地下だし音も響かねぇ。落ち着いて打てばどっかしらには当たる」
たいして参考にもならないアドバイスを最後にされても…と思いながらも、レアが手を添えた銃は自然とブレずにまっすぐ壁に向いている。そしてレアの視線もまっすぐ先へと向いていた。
「撃て」
レアの静かな声に反応するように俺の指はその引き金を引いた。
「バンッッッ」
大きな音とともに手に振動が伝わる。レアが手を添えてくれてなければあやうく反動で銃が吹っ飛んでいたところだった。
「うん、良い飛びなんじゃねぇか」
レアは満足そうな声を出してくれた。俺はそれにホッと胸を撫で下ろす。
「初めてでここまで丁寧に撃てたこと、誇ってください。ちなみにですが、余裕がある際は左手を使って銃を持っている右手の手首を支えると、より安定感が出ますよ。」
俺達の飲み終わったカフェオレのコップを片付けながらマスターが穏やかに、静かに言った。
そして「厚かましくて申し訳ありません」とまた丁寧に礼をすると、地下室の階段を上がっていった。
「マスターもああ見えて1級隊員なんだよな。この地下室はフェリクスにとって基地みたいなもんだかさ。マスターに守ってもらってるってわけだよ」
あの人、結構すごいんだな、と思うとよりかっこよく思えてきてしまった。
それから俺は何発か撃ち、少しずつだがその音や感覚に慣れていった。達成感を覚えたその時、階段の上の方からMr.セルリアンの声が大きく響いた。
「Mr.レア、!そろそろ夜のお店が開店の時間となりますが」
するとレアは驚いたように言った。
「やっべもうそんな時間?!叶翔!!早く帰るぞ!」
そう言うと、レアは困惑する俺の手を引っ張り始めた。




