マモノ
ようやく完成しました。……繁忙期が悪いんや(言い訳)。
クルムが拾われ2ヵ月。会話ができるようになってから、クルムの様子も変わってきていた。マルタ曰く、「他人に懐くまでの時間がだんだん短くなっている」とのことである。
どういうことかというと、全く知らない他人がギルドに来たときに、アルスやマルタの後ろに隠れて様子を伺う癖は相変わらずだが、そこから隠れるのを止めるまでの間が短くなっていたのである。
ギルドに訪れる冒険者の間では、クルムに懐かれているかどうかが一種のステータス、つまり常連かどうかを示す指標となっていた。
さらに冒険者との関わりの中で、クルムの「懐き度」には上があることが分かった。その基準はずばり、「頭をなでさせてくれるかどうか」である。
このことが分かったのは、ある日クルムがグレイブと話をしていたときのことであった。
「おじさんたちは、いつもなにしてるの?」
クルムが舌足らずな調子で聞く。最近のギルドでは良く見かける光景である。
「ん?ああ、俺たちはいつも商人の護衛とか、魔物退治とか……」
「グレイブ、クルム君が首かしげてるわよ」
グレイブが指折り数えている横で、グレイブと同じパーティで活動している女性冒険者——ミラがツッコミを入れた。
「私たちはね、魔物っていうこわーい生き物をやっつけるのがお仕事なのよ」
ミラが微笑みながらクルムに語りかける。その時無意識にクルムの頭に手が伸びたが、
「んん……」
クルムは伸びた手をよけてしまった。
「え……?」
「あれ、どうした?俺は触れるんだが……」
グレイブの手が伸びたが、クルムはよけなかった。そのまま頭をなでられ、嬉しそうに目を細めていた。
「な、何で……?」
「ああ~、クルムはな、気を許した相手以外には触らせてくれないみたいなんだよ」
様子を見ていたアルスがやってきて、こちらもクルムをなでながらミラに言った。
「そ、そんな……!どうすれば触らせてくれるの!?」
「落ち着け、詰め寄るな。とりあえず色々話しかけてれば、そのうち慣れて、触らせてくれるようになるんじゃないか?」
「そ、そうね。見慣れないうちは警戒されちゃうものね……!」
ミラが何やら闘志を燃やし始めた横で、
「で、グレイブ、ちょっといいか?」
「どうした」
アルスはグレイブをギルドハウスの応接室に招いた。
「さっき本部から届いた。中を見てくれ」
「なんだこれ? 魔物の目撃情報? ……これは」
アルスから受け取った書類を見たグレイブの目が厳しくなった。
魔物。
それは人間の生活を脅かす存在である。
人間たちは魔物の脅威に怯え、時に抗いながら何とか繁栄を維持している。
この魔物がいつから存在しているかは定かではない。現在確認できる最古の古文書にも、魔物の存在に怯えるような描写があったからである。
ただ、ある時を境に魔物の描写が爆発的に増えていることから、この時に何かがあったのだろう、と歴史家たちは見ている。
「冒険者ギルド」では魔物を、「魔素を操ることができる人間以外の生物」と定義している。
例えば、どう見ても牛にしか見えない生物でも、草を食べている途中で火を吹けば、それは立派な魔物である。
反対に、顔が魔物そのものにしか見えなくても、魔素を操っている様子が無ければ、それは魔物ではなく、単なる動物という分類になる。
ちなみに前者は「牛もどき」という名の魔物で、その肉は大変美味である。後者は「竜もどき」という動物で、人懐こく、忠誠心が高いことから、番犬として広く飼われている。
魔物は最低限の知能を有していることが多く、中には人間の言語を解する種も存在している。そのためか、魔物は人間が多数いる所を襲うことは無い。
反対に、少数で出歩いている人間の集団を見つけた場合は、我先にと襲いかかってくる。そのため、都市間を移動する場合はそれなりの集団を組むか、腕に覚えのある者を護衛として雇うことが常識と化していた。そんな訳で、護衛の依頼は冒険者の飯の種となるのである。
魔物への対策は国家ぐるみでも行われており、代表的なものが通称「予報」と呼ばれる、魔物の動向予測である。
現在の魔物の分布、群れの移動などを逐一監視しており、動きがあった場合は直ちに伝達される。都市間を移動する人間たちはこの情報を元に、ルートの選定を行うのである。
さらに、冒険者が狩った魔物の解析、生態の研究なども行っており、魔物の買い取りをギルド経由で行っている。この対応は、冒険者が報酬目当てに進んで魔物を狩りに行き、結果安全な地帯が増えるという好循環を生み出していた。
また、研究の成果をいち早く取り入れたのが武具関係で、魔物から取れる素材を取り入れることにより、従来よりも性能の良いものを生み出した。その結果、冒険者の生存率が格段に上がったのである。
人間たちは皮肉にも、魔物によって魔物に抗う術を手に入れた。それでも魔物は強大であり、地上を、地下を、空を、我が物顔で闊歩している。魔物対策の先行きは未だ見えないままであった。
グレイブの手にある資料。そこには魔物の群れが中央都市の東側から移動している、ということが記されており、移動経路と時間が予測されていた。
「お前たち、確か次の仕事の場所は東のほうにあっただろ?だから知らせておいたほうがいいと思ってな」
「ああ……、助かる。これじゃあ、仕事はキャンセルだな。群れとかち合ったら目も当てられん事態になるな……」
グレイブは資料をアルスに返した。
「仕事はキャンセル。予定外の休暇になっちまった」
「たまにはいいんじゃないか?骨休めと、装備類の点検とかもいるだろ?」
「まあ、確かにな」
そんなことを話しながら戻ってみると、
「どうして……、どうしてなの……」
と真っ白になっているミラがいた。
「「……」」
2人が絶句しているとマルタがやってきて、
「あの手この手で頑張ってたんだけどねえ……、あの子、とうとう逃げちゃって」
と言った。その目には同情と呆れが浮かんでいた。
なお、ミラはあきらめずにアプローチし続け、数日たったあたりでようやくクルムに触ることができた。その瞬間、ミラは再び真っ白になったという……。
これでプロローグは終了です。時間をかけ過ぎですね……。
ここから話は動き始めます。あらしのよるにやってきた、小さな少年の活躍を、どうぞお楽しみに。
《今回のまとめ》
・魔素を操れる人間以外の生物を魔物と呼んでるよ!
・魔物がいつ現れたかは分かってないんだって。
・最近魔物の素材を使った武器防具を使い始めたそうだよ!




