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はじめてのまじゅつ

お待たせいたしました。とうとう"アレ" の登場です。

 クルムが拾われて1ヵ月。アルス、マルタ、ヴェリベルといったギルドハウスの面々と、グレイブをはじめとした冒険者たちの協力もあり、クルムはようやく言葉をしゃべれるようになった。

 はじめてしゃべったときはギルドハウス中が文字通りお祭り騒ぎとなったが、そのせいで初めてしゃべった言葉が何だったのか、誰も覚えていないという事態になってしまった。

 それでもアルスはマルタは大変に満足そうな表情を浮かべていたので、まあいいかという空気になり、やがて誰も気にしなくなった。


 さて、人とコミュニケーションを取れるようになったクルム少年が最近特に興味を持っているものが。


『揺れる火精(サラマンダー)

 ――マルタの詠唱でかまどに火が付き。


『滴る水精(ウンディーネ)

 ――次の詠唱でかまどの上にある鍋に水が満たされた。


 今マルタが使った、「魔術」という技術であった。クルムは魔術の気配がするとどこからともなく現れ、それはそれは熱心に魔術が使われる様子を観察しているのである。

 マルタも最初は驚いたものだが、最近は慣れた。というより、どんなに小さな魔術でも発現すると大層喜ぶので、のせられてしまうのである。

気づくと鍋でお湯を沸かすだけのはずが、風の魔術できれいにカットされた野菜が鍋に入ってスープになっているということもあった。

 この件はギルドハウス内では時々酒の肴として笑い話にされてしまっている。その度にマルタは物凄い形相を浮かべるのだが、酔っ払いどもに笑いのタネを提供するだけだった。



 この世界のすべてのモノには「魔素」という物質が含まれている。この魔素を操り任意の現象を発生させること。これが「魔術」であると定義されている。

 魔素が何なのか、ということについては魔術の研究組織である通称「魔術協会」が研究を重ねているのだが、正体はいまだ掴めていなかった。

 だが、魔素をコントロールする術は遥かな昔から伝わっており、人々は生活の一部に組み込んでいたのである。


 魔術を使うには次のように、いくつかのステップを踏む必要がある。


①:使いたい魔術をイメージする

(例:火を起こしたい!)


②:イメージを体内の魔素に伝え、活性化させる


③:活性化した体内の魔素が対外に放出される


④:放出された魔素が働きかけ、イメージを発現させる

(例:自分の前に炎が現れ、燃え始める)


 このステップの中で最も重要なのが①で、発現したい現象の詳細、規模を具体的に思い浮かべなければならない。

 イメージが曖昧なままだと発現自体が起こらないか、暴走などのような危険な事態を招くことになってしまうので、イメージの段階でしっかりと集中する必要がある。そのため、魔術の練習といえばひたすらイメージトレーニング、などと言われるくらいである。

 次の②以降については特別な練習は必要ない、とされている。強いて言えばイメージと魔素の結び付けに多少の慣れが必要だが、体内にある魔素の存在をしっかり認識できていれば、あとは魔素の方である程度自動的に動いてくれるのであまり気にしなくても良い、といった具合であった。


 ところで、魔術発現の手順では詠唱に関することは一切入っていない。実際詠唱をしなくても魔術は発現することは確認されているが、現実としては詠唱をする人が大多数だった。

 理由としては詠唱した方がイメージに具体性を持たせやすいこと、イメージを体内の魔素にのせるスイッチにできることが挙げられる。要するに詠唱があった方がやりやすいしスムーズだしということで取り入れられているのである。

 ちなみに詠唱する内容については本人がイメージしやすければ何でも良いので、人によってその文言は様々である。例えばマルタの場合は「効果の大きさ+発現させる魔術の属性」といった具合に、前半と後半を分けている。


 さて、魔素を扱う技術は魔術ともう一つ、「魔法」と呼ばれるものがある。原理などは魔術と同一だが、魔術とは決定的に異なる部分がいくつかあり、それは発現のプロセスにも現れている。


①:使いたい魔法をイメージする

(例:火を起こしたい!)


②:イメージを対外の魔素に伝え、活性化させる


③:活性化した魔素がイメージを発現させる

(例:辺り一面火の海となった)


 魔法の場合、発現するまでに体内の魔素を必要とせず、外の魔素を直接コントロールする。これが魔術との大きな違いである。

 外の魔素のコントロールは体内の魔素に働きかけるのと比べ桁外れに難しく、そのため使い手は魔術に比べ圧倒的に少ない。ほとんどいないと言っていいくらいであった。

 ただし、体内の魔素を介さないため、いわゆる「魔素切れ」の心配が無い。つまり撃ち放題なのが魔法の大きな利点である。

 もう一つ、手順の中に示した例で、④の発現した結果が魔術と魔法では違っているが、これは誇張でもなんでもない。

 魔法は外の魔素を直接コントロールするので、結果的に扱う魔素の量が膨大になる。ということは、それだけ発現する規模も巨大になる。これも利点として挙げられる。


 そういった訳で、魔法を使える人間を戦力として持った場合の利便性は計り知れないものがあったため、国や組織は全力で囲い込みを行ったりする。

 逆に言えば魔法を使うことができると、それだけで将来安泰なのであった。過去には国の王族と婚約し、そのまま国王になった例もあったりした。



『踊る風精(シルフ)

 ――詠唱とともに風が起こり、たちまち魚を3枚におろしていく。


 今日も今日とて相変わらず、マルタの魔術は好調であった。……のせられて使っているという意味でも。


「すごい、すごーい!」

 クルムは目を輝かせ、喜んでいる。

「次は何を使おっかな~♪」

 マルタはすっかり有頂天だった。


「ぼくもまじゅちゅ、つかいたい、なあ」

「う~ん、そうねえ……」

 クルムの頭をなでながらマルタは、自分がやっていた魔術の練習を思い出していた。


「とりあえず、必要なのはイメージトレーニングよねえ。最初は絵を描かせるといいって聞いたことあるから、そっちから始めてみようかしら。あとは魔素を感じ取るトレーニングとかも必要ね。あ、そういえばギルドの知り合いが魔術練習用のテキストを取り寄せたって言ってたわね。それも借りて……」


「おい、アレ、いいのか?止めなくて。段々エスカレートするんじゃないのか?」

 目を輝かせ始めたマルタを見たグレイブがアルスに忠告するが、

「ああなったら止まらん。というか止めたら排除される、物理的に。だから気が済むまでやらしておくしかない」

 アルスの目は死にかかっていた。

魔術と魔法のむずかしさを例えると?


・魔術

両手でスプーンをもってひん曲げる


・魔法

スプーンを持たずに、遠いところからトリックを使わずにスプーンを曲げる


簡単とか難しいとかいう以前に、できるもんならやってみろ、って感じです。



《今回のまとめ》

・魔素を使って色んな現象を起こすのが魔術、上位互換が魔法だよ。

・魔術と魔法の違いは体内の魔素を介すかどうか。威力だって全然違うよ。

・魔法が使えるだけで王様になった人がいるんだって。スゴイね!


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