はんぶティだんぷティたちの共謀とチェしゃ猫チャンのコン惑
「ミんな、オ疲れサマ。たのシイたノシイお茶カイはあシたにモチこしネ。アシタの第3カイ目のオチャかイはハンプティダンプティチームとチェシャ猫チームヨ。」
アリスの電子音ながら楽しんでることが伝わるキンキンとした声がハートのお城に響き渡り、空はピンク色のまま夜になる。
ハンプティダンプティチームの割り当てられた部屋の個室。岬は1人、机で紙に文字を綴っていた。そして最後の一文字を書き上げ、胸ポケットから小さな小瓶を出す。
明日のお茶会は自分たち、ハンプティダンプティチームとまだ少年と呼べそうな幼い子供もいたチェシャ猫チーム。だが、岬の心はもう決まっていた。
震える手で小瓶の蓋を開けて中身を飲み干す。胸焼けするほどあまい毒薬が喉をやき身体に力が入らなくなり机に倒れ込んだまま目を閉じる。
◆
そこは、超能力のさらなる進化そして強化を目指す製薬会社の極秘機関ーー超能力開発研究所。
大学を飛び級した僕は研究員として超能力の研究に携わっていた。憧れて入った研究所……。だけどそこは非人道的なことを繰り返す場所だった。劣悪な研究所の中で、一人だけ異彩を放つ青年がいた。
研究所の上層部の一族の末っ子でありながら、能力を何一つ持たない落ちこぼれの青年——クロエ。
「岬さんっ、ニコたちにおやつ持ってきたよー!」
雑用係として蔑まれ、家族からも邪険にされていたクロエ。だが彼は、誰よりも温かく優しい心を持っていた。被験体として連れてこられ、怯える子供を上層部からこっそり庇い、被験体ーーここでは番号で呼ばれて人間扱いはされないーーに名前をつけたりとこの研究所で唯一被験体を人間として扱う大人だった。
「僕、、この子たちを逃す計画立ててるんだ……岬さんにも手伝ってほしい……」
クロエが突然打ち上げた、無謀な脱出計画。
だが——計画は露呈した。
上層部は保身のため、そして我が子の失態を隠蔽するためにクロエを拘束。実の息子をあろうことか実験体として別の研究所へ送り込んだ。
それからクロエがどうなったのか僕は知らない。
クロエがいなくなり脱出計画は一旦中断した。もっと時期をみて隙が生まれたら決行しよう。しばらくして遺伝子の新しい研究が始まった。みんながそっちに夢中になっている今しかない。僕は特にクロエと仲がよかったーネオとニコをー彼が残した脱出ルートから連れ出し警察の代わりに台頭した街頭防衛隊そして警備連合に研究室を通報した。あの2つの組織ももう機能しているとは思えないだけど誰か正義感で動いてくれる人がいるかもしれない、、と期待をして。
研究所は大混乱に陥り、崩壊した。
だが……自分たちが犯した罪は消えない。ネオ、ニコ、本当にごめん。僕はこれ以上人を傷つけられない。
ここに来てからずっと調べていたアリスの正体を記します。ネオとニコがここから出れる手掛かりになりますように………。
あ、あとあのマシロって名乗った青年はきっとーー
◆
ニコとネオは、明日の決戦に向けて話し合うため、岬の部屋へと向かっていた。
「岬サン、起きてる……? 明日のこと、少し話したい…」
ニコがドアをノックする。だが、返事はない。
嫌な予感が胸をよぎり、ネオがドアノブを回すと、鍵はかかっていなかった。
「岬ーー?」
静まり返った部屋の中で、ふたりの動きが凍りついた。
デスクの前に倒れ伏している岬。その手から落ちた小さな空の薬品瓶。
そして、その横には一枚の紙があった。
【ニコ、ネオへ】
『今までのお茶会を見て僕には無理だと悟りました。実験でたくさんの人を傷つけて来ました。僕はもう人を傷つけることができません。君たちの足手纏いになりたくない。アリス。彼女はきっと超能力そのものだ。この情報がきみたちの役に立てばいいな。色んなことに巻き込んで本当にごめんなさい。』
「岬……? 嘘でしょ……? 岬ッ!!」
ネオが崩れ落ちるように岬の身体を抱き起こす。だが、その肌はすでに冷たく硬くなっていた。
ニコの目から溢れた涙が遺書の上におち、文字が滲む。
「あ、足手纏いなんて思わないっ…」
夜の静寂の中、ふたりの戦う意味は完全に潰えて消え去った。
◆
翌日。歪んだ地下闘技場。
『さアさアサン回めのお茶カいヨ!』
対峙するのはチェシャ猫チーム。
さらさら金髪を靡かせる真世を筆頭に、男装のレイカ、暗器を構えるサユリ、そして3人の後ろにいるミコト。
「……マヨさん、相手は3人…あれ?? 2人しかいない?」
レイカが超能力『危険察知』を使い、首を傾げる。
真世たちの前に現れたのは、ニコとネオの2人だけだった。
ふたりの瞳には戦意など欠片もなく、ただ深い疲弊と悲しみが宿っている。
「……あれ??岬くんは…?」
真世が不思議そうに尋ねる。
ニコは俯き消えそうな声を出した。
「岬サンは……死んじゃいました。僕たちにアリスについて書き残して……」
「え……!?」
サユリが息を呑む。
ネオが真世たちを真っ直ぐ見つめ口を開く。
「おれたち………チェシャ猫チームと戦えない…」
ふたりの手には、武器も構えられていなかった。
ニコが泣きながら笑う。
「脱落でもいい……辞退する。僕たちの負けでいい…僕たちはもう戦えない」
「ちょ……ちょっと待てよっ!! 辞退って、そんなの……!」
ミコトが思わず声を上げる。
But、ふたりはすでに自分たちの超能力『生体細胞の過剰励起』を自らの生命活動を終わらせるために過剰発動させていた。
「あ、そうだ伝えておく。アリスの正体は超能力そのもの……」
ネオがそう言い残す。
◆
ネオ。それはクロエがおれにつけてくれた名前。おれは記憶がないくらい小さい頃から実験を受けていた。人間みたいに扱われたことなんてなかった。あそこでおれを人間として扱ってくれたのはクロエと岬だけだった。クロエはただ番号で呼ばれてたおれにネオって名前をくれてお菓子とかたくさんの物をくれた。岬はクロエみたいにわかりやすくはなかったけどずっとおれたちの扱いを変えるよう上層部に訴えてくれていた。あるときからクロエはいきなり姿を消した。岬は教えてくれなかったけどきっと上層部に消されたんだ。だからあの広場でクロエとそっくりの青年ーマシロを見つけ声をかけてしまった。マシローー彼は一体何者なのだろう。クロエに姿も声も似ているのに性格は真反対。クロエ本人なのか別人なのか。ーー
クロエが消えてしばらくしてから真夜中突然岬が部屋に現れて一緒に研究所から逃げた。その後岬が通報したことによりあそこは崩壊したらしい。岬はずっと俺たちに罪悪感を持っていた。だけどおれは岬を恨んだことなんてない。岬のおかげでおれは生き残れた。だから岬とニコそしておれの3人じゃないと意味がない。
◆
ニコ。クロエが僕につけてくれた。僕たちはあの研究所では番号で管理され名前なんてなかった。岬とクロエだけが僕たちに優しかった。僕は薄々勘付いていたクロエの計画に。そしてそれがバレてしまったからクロエは消されてしまったことに。クロエがいなくなってきっと僕たちはこのまま飼い殺されるんだと思っていた時、岬が研究所から逃してくれた。岬は僕たちを連れて脱出を成功させ、あそこも崩壊させた。僕は岬に期待してなかったことが少しだけ気まずかった。脱出して3人で生活している中で岬が僕たちに罪悪感を持っていることに気づいた。岬が僕たちに罪悪感を持つ必要ない。岬は僕たちを助けてくれた。岬が欠けて生き残っても意味がない。
そういえばあの広場で出会ったクロエにそっくりの青年ーマシロは一体何者なんだろう。まあ今さら知っても僕には関係ないか。
◆
ーーバァアンーー
大きな爆発音が響き渡り赤い何かが飛び散る。
あとに残されたのは、血の海に埋もれる二人がつけていたお揃いのチョーカーだけだった。
「あラあラ、トテもすテきな赤イロだワ。ハンプティダンプティみたいにコワれちゃっタ。チェシャ猫チームの勝利ヨ。」
アリスの無感情な声が響く。
「っ……!! ミコト、見ちゃダメだ!」
誰よりも早く正気に戻ったレイカが大きな声で叫び、咄嗟にミコトの頭を抱き寄せた。ミコトは体を小刻みに震わせながらレイカの背に手を回した。
「……マヨ?…」
「………っっ……」
レイカはミコトを抱いたまま振り返り真世に呼びかける。大人として先頭に立っていたはずの真世は、気づいたら一番後ろで膝をついていて、ミコトに駆け寄ることも声をかけることもできなかった。ただ呆然とし、頬についた赤色を拭うことしかできなかった。
そんな真世たちを見ていたサユリは血溜まりの方へと進んでいき、真っ赤に染まったチョーカーを拾い上げた。
「これだけでも残ってよかった。洗ってあげて、岬さんと一緒に埋めてあげましょう。」




