ハコ庭のうサギさん達とめあリー・アん
『お待たセしまシた。一回メのオチャ会はタノしんでモラえたカしら??それデは2回メのお茶カイ、よーイすたーぁと!!♠️♥️♣️♦️』
雨の降りしきる廃聖堂から転送された先は、不気味に揺らめく鏡張りの回廊だった。
勝者となったしろうさぎチームの兄妹の前に立ち塞がったのは、メアリー・アンチーム——マシロと日和。
満身創痍の二兎は脚から血を流し、短剣を握る手すら震えている。
その姿を見下ろし、整った顔立ちに冷酷さを浮かべたマシロが、吐き捨てるように言い放った。
「ハッ、満身創痍の羽虫ですか。害虫の処理も楽で助かりますね」
「マシロ、そんな言い方するな。……ふたりとも、かなり怪我をしてる。降伏してくれるなら、無理に戦わなくても……」
日和がマシロを諫め制止しようとするが、マシロは聞く耳を持たない。
「お兄ちゃんは……さっきの戦いで満身創痍なんだから」
一馬の前にすっと立ち塞がったのは、瑠璃だった。
白いリボンを固く握りしめ、強い意志を持った瞳でマシロと日和を見つめた。
「私がやる。……まずは、あの嫌味を言うマシロから殺す!」
「瑠璃……駄目だ、危険だ。お兄ちゃん頑張るから…っ!」
一馬が止めようとするが、瑠璃は俯き、手に持ったリボンを握りしめた。
その時——
『ウフフふふ、ウフフふ……』
どこからともなく、耳が痛くなるような電子音ーーアリスの高笑いが回廊に響き渡った。
「え……?」
瑠璃がハッと顔を上げる。
鏡張りの空間がぐにゃりと歪み、視界がはっきりするとマシロや日和の姿が消え、瑠璃の目の前に立ち現れたのは——「3人の瑠璃」だった。
『お兄ちゃん、だぁいすき』
『あたしが本物の瑠璃だよ?』
『ううん、あたしが瑠璃だよ、お兄ちゃん』
「あ……あ……ぁ……ッ!?」
瑠璃は目を白黒させた。過去の記憶が暴烈にフラッシュバックする。病院の匂い、ピーという電子音、そして本物の妹・瑠璃の冷たくなっていった感触。どれが本物の瑠璃なのか、自分が誰なのかすら分からなくなり錯乱する。
「ちがう……ちがうちがう!! 俺が……あたしが瑠璃なんだからぁぁぁッ!!偽物共め!殺してやる殺してやるんだからっ!!」
パニックを起こした瑠璃は、叫びながら一番近くにいた「瑠璃」へ飛びかかった。
手元にあった白いリボンをその首へがむしゃらに巻きつけ、全体重をかけて狂ったように絞め上げる。
「死ね! 消えろ! この偽物ッ!!!私が瑠璃だ! あたしが瑠璃なんだぁぁぁッ!!」
力を込め、込め、極限まで引き絞る。
——ボキリ。
鈍く嫌な骨折音が、鏡の回廊に冷たく響いた。
手応えが消え、目の前の「瑠璃」がぐにゃりと力を失う。
冷たい風が吹き抜け、瑠璃の視界を覆っていた幻覚が潮が引くように消えていった。
「……あ……はぁ……はぁ……っ」
激しい息を吐きながら、瑠璃は正気に戻る。
しかし、瑠璃の手の中にあったのは——
「……え……?」
首に白いリボンが何重にもきつく巻きつき、首骨を折られて力無く項垂れる、一馬の姿だった。
兄を演じる相棒の瞳からは完全に光が消え、ピクリとも動かない。
自分を瑠璃と呼び守ろうとしてくれた兄を演じていた他人を、自分自身の手で首を折って殺していた。
「ぁ……え……に、と……? ニト……ッ!?」
瑠璃琥珀の顔から血の気が引いていく。
「嘘……嘘でしょ二兎……!? なんで……なんで二兎が……っ!?」
二兎の身体を抱きしめ、必死に揺さぶる。だが、折れた首が痛々しく傾くだけで、二兎が目を覚ますことは二度となかった。
自分の手で、大切な兄を殺してしまった。血のつながりもない年下の兄を。
「あああああッ……嫌だぁぁぁッ!! 二兎! ニトぉぉぉッ!!」
失意の瑠璃は血のついたリボンを自分の首に巻きつけ、一思いに引き絞ろうとする。
「もう、全部おしまいよ。もう嫌……」
だが、恐怖と震える手では十分な力が入らず、ただ苦しいだけだった。
「死ねない……っ、ころして、、誰でもいいからあたしをころしてぇっっ………!!」
可愛らしい顔を消し去り、涙と血でぐちゃぐちゃになった顔に狂気を浮かべ叫ぶ瑠璃は、ふと視線を感じた。視線を辿るとマシロに行きつく。
一部始終を無感情に見ていた青年は、自滅していく兄妹の姿に眉ひとつ動かさなかった。
「不快です。惨劇は終わりですか」
瑠璃は震える足でマシロの元に駆け寄り、一馬二兎を殺したリボンを差し出した。
「おねがい……殺して……っ。このリボンで……!」
マシロは感情の欠片もない赤い瞳で瑠璃を見下ろし、迷うことなくそのリボンを受け取った。
「醜くて無様な姿ですね。望み通りにしてあげます」
「マシロッ、、やめろっっ!!」
日和の制止の声も届かない。
マシロは表情一つ変えず、瑠璃の首にリボンを巻きつけると、容赦なくそれを引き絞った。
「カハっ……つ……ぁ……っ」
首を絞められながら、涎と吐瀉物が溢れ出る口を歪めた。その姿は可愛らしさなどないはずなのになぜか美しく可愛く見えた。
「あ……りが……とう……」
ゴトン、と瑠璃の頭部が倒れ、手の力が抜ける。
完全に息絶えた瑠璃の身体が、一馬の隣へと横たわった。
◆
私、、否、俺は元々兄妹の兄だった。名前は琥珀。妹の瑠璃が大好きだった。瑠璃は子供の頃から体が弱くて遂に20歳になる直前に死んでしまった。俺はどうしても瑠璃の死を受け入れることができなかった。瑠璃の死から数ヶ月。ある日鏡を見ると瑠璃が写っていた。ーー正確にはこの数ヶ月で髪が伸びた俺ーー
瑠璃はここにいた。髪をハーフアップにして瑠璃のお気に入りだった白いリボンをつける。俺は瑠璃になることにした。だって鏡を見れば瑠璃に会えるから。俺が瑠璃になってしばらくしたころ買い物先で柄の悪い男に声をかけられた。振り払いたかったけど瑠璃はそんなことしない……どうしようと困っているところに一馬が助けに入ってくれた。二兎もまた死んだ兄の面影をなぞっているらしい。そこで私たちは兄妹になることにした。年下を大切にする兄と兄に甘えて守られる弟。歪だったけど幸せだった。なのに自分の手で全て壊してしまった。一馬、こんな茶番に付き合わせてごめんなさい。
◆
一馬。それは僕の兄の名前だ。僕の名前は二兎。僕は優秀な兄一馬と比べられる日々を送っていた。一馬のことは大好きだっただけど同じくらい憎らしくて大嫌いだった。ある日一馬は超能力を暴走させ死んだ。親も親戚もすごくすごく悲しんでいた。そして聞いてしまった「なんで、なんで一馬が、、二兎が死ねばよかったのよ」そうか。僕はそう思われていたんだ。なら僕が一馬になってやる。僕の超能力は相手に好意を抱かせることができるというものだ。しかも意志の弱いもの限定。この能力で親族を洗脳し僕は一馬と名乗り一馬として生きるようになった。ある日街をふらついてると女の子が柄の悪そうな男に絡まれていた。一馬なら、、兄ならきっと助ける。そう思い、俺はその女の子と男の間に体を滑り込ませた。
助けた女の子ーー瑠璃は男だった。正確に言うと死んだ妹のフリをし続けるイかれた男。だけどなんだか自分にそっくりだとシンパシーを感じてしまった。一馬を演じるには守る対象が必要だ。そう考え瑠璃と手を組んだ。だけど、気づいたら瑠璃のこと本当に心から大切になってた。瑠璃に首を絞められ遠のく意識の中でも瑠璃のことを考える。きっと瑠璃は自分を責めるだろう。だけど自分を責める必要はない。この関係は歪だから……こんな結末がお似合いだね。
◆
「アラ??しろうさぎチーム全員シ亡!??」
『第2カイ目のオチャ会はメアリー・アンチームの勝チネ………』
アリスのわざとらしい残念そうな甲高い声が響き渡る。
マシロは血と脂のついたリボンを、床に投げ捨て靴で踏み躙った。
「行きましょう、日和。時間の無駄でした」
「……マシロくん…そんなことしちゃダメだ。このリボン瑠璃ちゃんにつけてあげよう」
日和はそっと瑠璃の髪にリボンを結い、息絶えたふたりの遺体に手を合わせて悲痛と怒りの溜息をつきながら、冷酷な相棒の後を追った。




