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地方怪談集 ~短編・中編の怖い話~  作者: シシモヨウ
【第二十八話】祭りの手伝い
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祭りの手伝い・前編

 俺の地元は東北の山沿いにある小さな町で、家が途切れるとそのまま杉林になるようなところなんだ。


 今は隣の市で働いていて、実家を出てからもう何年かになるんだけど、それでも車なら40分くらいだし、親に呼ばれれば帰ることもあるから、地元から完全に離れたという感じでもない、そんな感じ。


 地元には小さな神社がいくつかあって、その中でも比較的大きめな神社で、9月の終わりにやる祭りには子どものころから何度も参加してたんだよね。

 境内にテントを出して、焼き鳥とか焼きそばとか、そういうものを地元の人たちで売って、夜になると子どもが太鼓を叩く。俺も太鼓を叩いてたんだけど、観光客が来るようなものではなくて、昔からその辺に住んでいる人が集まる、そういうお祭り。


 太鼓とかも別に難しいものではなく特に変わったものでもないんじゃないかな。


 しいて変わってることといえば、大体秋祭りって収穫祭とかが多いんじゃない?よく知らないけどさ。


 ただ、そのお祭りは「鎮魂祭」って呼ばれていて、なにかそういう意味合いのお祭りっぽいんだよね。でも、これは両親とかも詳しく知らないみたいだったし、まあ、秋にお祭りをやって地域みんなで参加しているって感じかな。

 

         *


 今年は人手が足りないから手伝ってくれって母親に言われてさ、めんどくさいなとか思いつつ、当日の昼すぎくらいに神社へ行ったんだ。


 着いたときにはもうテントもだいたい立っていて、俺は母親に言われるまま長机を出したり、飲み物のケースを運んだりしていた。

 途中で反対側から机を抱えてきた菊池(こいつは同じ町内の同級生で今でも実家暮らし)が俺を見て、


「お前も手伝い?」

「うん。母親から人足りないって言われて」

「俺は、朝からいるよ」

「それは、ご苦労なことで」

「ほんとだよ」


 そんなことを言いながら、そのまま二人で机を並べたりしてた。


 夕方になると人も増えてきて、焼き台から炭の匂いが流れてくるし、子どもは境内を走り回っている。近所の吉田さんも小学生の娘を連れて来ていて、焼き台の前を通った俺に、皮の裂けたフランクフルトを一本差し出してきた。


「食う?」

「これ売り物じゃないんすか」

「割れたからいいよ。処分頼むわ」


 菊池が横から「あ、自分もいいすか?」と綺麗なフランクフルトに手を伸ばし、吉田さんに「お前は金払ってちゃんとしたの食え」と止められている。

 俺も菊池も笑って、その場で割れたフランクフルトを半分にして一緒に食べた。


 そんなこんなでいつも通りの祭りの準備等をしてたんだけど、今年は県内のローカルテレビ局が取材に来るという話もあって、朝から神社や地元の人たちはちょっとそわそわしてたんだよね。

 県内の秋祭りを何か所か回って紹介する短い番組らしく、本当なら18時すぎには着く予定だったみたいなんだけど、前の取材が長引いているとか交通規制とかで、いつまで経っても車が来ない。


 だからといって祭りの方が待つわけでもなく、いつも通り子どもたちの太鼓が始まり、ドン、ドン、ドン…と何度も聞いたリズムが鳴り響く。

 そんで、それが終わるころには小さい子どもを連れた家族とか年配の人たちがぽつぽつ帰りはじめる。

 毎年だいたい20時半くらいには太鼓も終わって、そこから少しずつ片づけに入るので、屋台も残ったものを売りながら炭を落としはじめ、俺と菊池も空いた机から順番に脚を畳んでいた。


 テレビ局のワゴン車が境内へ上がってきたのは、ほとんど祭りが終わりかけてからだった。


 降りてきたスタッフは4人くらいで、機材を下ろす前から神社の人たちに何度も謝っている。

 これから撮ったところで祭りらしい画がほとんど残っていないという話になって、責任者らしい男性が、もう帰ろうとしている子どもたちの方を見ながら困ったような顔をしていた。


「すみません。子どもたちの太鼓だけ、撮らせてもらえませんか。できれば、あと少しだけこのまま続けていただけると助かるんですが……」

「ちょっとでいいんで……」

「ええ……もう一回、お願いします……」


 テレビ局の人の必死な声が、聞こえてくる。


 神社の人や地元の関係者みたいな人たちも、「まあ、せっかく来てくれたんだし、少しくらいなら」という感じの話をして、帰りかけていた子どもたちを呼び戻したんだよね。

 

 消そうとしていた提灯とかもそのままにして、俺と菊池も片づけたばかりの椅子までいくつか出し直すのを手伝ったりした。

 一部の片づけはそのまま続けながら、舞台だけを準備する感じだったんだけど、まだ残っている人もせっかくだからテレビに映っていけと言われて境内へ戻り、太鼓を見ていくことにしたんだ。


 準備は結構すぐに終わって、子どもたちは太鼓の前へ座り直し、テレビ局の人がカメラを構える。

 さっき一度やり終えて気が緩んでいたり、カメラを向けられて恥ずかしいのか、叩いている途中で隣を見て笑う子もいて、見物してる人たちも微笑ましく見てる。

 

 吉田さんの娘も帰る直前まで眠そうにしていたくせに、テレビに映るかもしれないと分かってからは目が覚めたらしく、母親らしい人に髪を直してもらいながら前の方をうろうろしていた。


 俺と菊池は撮影の邪魔にならないところで片づけを続けていたんだけど、太鼓が半分くらいまで進んだころ、山の方から人の声が聞こえてきた気がしたんだ。


 最初は、帰ったと思っていた誰かがまだ裏手に残っているんだと思ったくらいで、男や女が何人か喋っているようなざわめきの中に、

 時々、「あはは」「うふふ」みたいな笑い声まで混じっている。


 ただ、神社の裏には物置があるくらいで、その先はすぐ山になるし、祭りに来ている人間ならほとんど境内にいる。近くにいた神社の関係者も山の方へ顔を向けて、「誰か上に行ってる?」と周りに聞いていたけど、思い当たる人はいないようだった。

 

 その間にも子どもたちは太鼓を叩いていて、一曲が終わると境内から拍手が起こった。

 少し遅れて、山の中からも拍手が返ってきた。

 

 誰か一人が叩いたような音じゃなくて、離れたところにいる何人もの人間が一緒に手を叩いているような音で、それまで喋っていた人たちまで手を止める。

 

 そのまま聞いていると、今度は杉林のかなり奥から太鼓が鳴り始めてきた。

 さっき子どもたちが叩いていたものと同じ調子なのに、どこか湿りっ気があるというか、粘りつくような音色なんだよね。


「え、どういうこと?どういう状況?」


 菊池がそう言ったころ、ざわめきの中から一つだけ、はっきりした声が聞こえた。


「もう一回、お願いします」


 テレビ局の人がさっき言ったのと、よく似た声だった。


 カメラを持っていたスタッフがそのまま杉林へレンズを向け、しばらく何も言わずに覗いていたけど、やがて画面を見たまま、


「……人が、います」


 と呟いた。


 言われた方を見ると杉の幹と幹の間に、人の顔らしいものがいくつか見えてきた。最初は数人くらいだと思ったけど、その後ろにも頭や肩のようなものがいくつも重なっていて、山の中から祭りへ下りてきているように見える。


「なんであんなに人がいるのよ」


 近くにいた女性がそう言うと、別の人が「あそこに、道なんてないよな」と返す。

 俺も菊池とか近くにいる人と、昔からあそこには道はない、新しい道なんかもできてない、そもそもあの人たちはなんなんだ、だれなんだ、みたいなことを話してた。

 でも、みんな答えを求めているわけではなくて、異常な状況でなにか言葉を発せずにはいられなかっただけだったと思うんだ。


 そうした中、杉林の中を下りてくる人たちは、懐中電灯も持っていないのに足を取られる様子がなく、木と木の狭い間を一つの集団みたいに進んでいる。

 暗いうちは何人かが肩を寄せ合っているくらいにしか思わなかったんだけど、裸電球の光が届くところまで近づいてくると、そのまとまり方がどうもおかしいんだ。


 人が密集している、としか言いようがなかった。

 前にいる人の肩のすぐ横から別の顔が出ていて、その後ろにも頭や背中が重なっている。


 人混みなら身体の間に少しくらい隙間ができるはずなのに、あれにはそれがほとんどなくて、大勢の人間を無理に一か所へ押し込めた塊のようなものが、その形を崩さないまま杉林を下りてきているように見えた。

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