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地方怪談集 ~短編・中編の怖い話~  作者: シシモヨウ
【第二十八話】祭りの手伝い
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祭りの手伝い・後編

 境内にいるみんなも、山から下りてきたのが普通の人の集団じゃないことには気づいたようで、親たちは子どもを自分のそばへ呼び、さっきまでテレビの撮影を見ていた人たちも山の方へ身体を向けたまま、少しずつ後ろへ下がっていた。


 そんな中で、町内会の小野寺さんが急に声を出した。


「……邦夫?」


 小野寺さんが見ているところを俺も探した。

 山から下りてきた人たち――というより、人の身体が重なったものの左側に、五十代くらいの男の顔が出ている。


 周りにいた年配の人たちも気づいたらしく、「畠山じゃないか」「邦夫だよな」と名前が広がって、それを聞いた別の人が、畠山邦夫さんなら十年近く前から行方不明のままだと言った。


 俺も名前だけは聞いたことがあった。

 地元の人で、ある日いなくなって、その後かなり探したけど見つからなかった人。

 

 小野寺さんとは昔からの知り合いだったらしく、捜索にも参加していたという話は、あとで母親から聞いた。


「鎮魂祭って、こういう人のためなんじゃないのか」


 小野寺さんが誰に聞かせるでもなくそう言った。


 そうこうしているうちに、小野寺さんは境内の山側まで出ていっていた。山から下りてきたものとはまだ少し距離のあるところで立ち止まり、畠山さんの顔が見える位置で両手を合わせた。

 

「邦夫。見つけてやれなくて悪かったな」


 小野寺さんが頭を下げている間にも、それは止まらず、少しずつ境内との距離を詰めていた。


 顔を上げた小野寺さんが畠山さんの方を見ると、それまで横を向いていた顔がこちらへ向いていて、周りからも「小野寺、戻ってこい」と声が掛かり始めた。


 小野寺さんは最後にもう一度手を合わせ、こちらへ戻ろうとした。


 振り返ったときにはもう、何人もの頭や肩が目の前まで来ていて、そのまま小野寺さんの身体に重なった。


「小野寺!」


 周りから名前を呼ぶ声が続く中で、小野寺さんの頭が見えなくなり、背中も人の間へ埋もれて、そのまま姿が消えた。


 みんな茫然としながら、その場でそれを見てたんだよね。俺も見ることしかできなかったんだけど、しばらくすると、何人もの頭の間から小野寺さんの顔が見えてきた。


 肩から下はほかの人の身体に隠れていて、名前を呼ばれても返事はなく、あの密集した人の中に混じってたんだ。


 境内では子どもを連れた人たちから坂の方へ下がり始め、テレビ局のスタッフもカメラを向けたまま少しずつ後ろへ移動していた。


 俺と菊池も一緒に逃げ出したんだけど、気づいたら山の奥で鳴っていた太鼓は聞こえなくなっていて、拍手や人の声も途切れていた。


 境内へ向かっていたものも、それ以上こっちへ進むことはなく、あの密集した形のまま少しずつ向きを変えて、杉林の方へ戻り始めたんだよね。


 何人もの頭や肩の間には、まだ小野寺さんの顔が見えていて、このまま山へ連れていかれるんだと思ったんだけど、杉林へ入る少し手前で、重なっていた身体の端から小野寺さんの身体が押し出され、吐き出されるみたいにそのまま地面へ倒れた。


 周りから名前を呼ぶ声が上がったけど、それはまだすぐ近くにいて、そのままゆっくり山へ戻っていたから、誰もすぐには小野寺さんのところまで近づけなかった。



 そんな中で、近くにいた誰かが、


「あれ……」


 って言って、俺もその人が見ている方へ目を向けた。


 小野寺さんの顔が、まだ人の身体の間にあったんだ。


 本人は俺たちの目の前に倒れているのに、何人もの頭や肩の間から、さっきと同じ顔が見えている。


 周りにいた人たちもそれに気づいて、小野寺さん本人と、その中に残っている顔を見比べていた。


 そのまま密集した形を崩さず杉林へ入っていき、小野寺さんの顔もほかの人たちと一緒に木の間へ運ばれていって、やがて見えなくなった。


 完全に姿が消えてから、何人かが地面に倒れている小野寺さんのところへ駆け寄った。


          *


 その後は、もうなにがなんだかよく分からなくて、境内にいた人たちもかなり混乱してたよ。町内会規模のお祭りっていっても、それなりには人が集まってたし、テレビ局の人たちまでいたからね。


 小野寺さんは意識がなかったけど息はしていて、誰かが救急を呼び、警察にも連絡していた。

 そのうち救急車や消防車、警察の車が境内へ上がってきて、小野寺さんは病院へ運ばれた。


 俺もそのまま境内に残って、警察から話を聞かれることになった。


 俺は、山から人の声や拍手、太鼓が返ってきたことから、小野寺さんが人の身体の間へ消えて、戻っていく途中で外へ出てきたところまで、覚えている順番で話した。


「大勢の人が一緒に山から下りてきた、ということですか」

「いや、普通に集まって歩いてた感じじゃないです。人と人の間にほとんど隙間がなくて、肩の横から別の人の顔が出てたりして、それが全部一緒に動いてたんですよ」


「それぞれが歩いているところは見えましたか」

「そこまでは分からないです。とにかく、普通の人混みとは違いました」


 畠山邦夫さんについても聞かれたけど、俺は顔を知らなかったので、その場にいた人たちが名前を出していたことしか答えられなかった。


 小野寺さんは幸い大きな怪我もなく、その日のうちに意識は戻ったそうだけど、畠山さんに手を合わせたあたりから先は、ほとんど覚えていなかったという。


 あとから聞いた話では、警察はテレビ局が撮っていた映像も確認したらしい。


 暗いうえに途中からカメラがかなり動いていて、俺たちが見たものが全部はっきり映っていたわけではなかったみたいだけど、杉林の中を人のようなものがまとまって動く様子や、山から返ってきた拍手や太鼓の音は残っていたという。


 まあ、あと当然っちゃ当然だけど、お祭りは放送されなかったよね。


 このお祭りについては神社側にも確認したらしいんだけど、毎年の手順や申し送りを調べると、かなり古くから同じ時期に祭りをやっていて、太鼓を終える時間もほとんど変わっていなかったんだって。


 社務所に残っていた古い祭礼帳や由来書、昔の手順を書いた控えまで確認したところ、そこに「祭りは決められた刻までに納め、一度納めた太鼓はその夜もう一度打たない」とか書かれていたらしい。


 古い記録にも、そうした決まりの由来を説明するようなことは残っていなかったらしいけど、祭りについて書かれたものの中に、今とは違う字で祭りの名前を記したものがあったんだって。

 

 「鎮魂祭」

 魂じゃなくて、塊。

 それで、鎮塊祭。


 その話を聞いたとき、あの日、境内の近くまで下りてきたものを思い出したんだよね。


 顔や肩が隙間なく重なったまま、一つになったように動いていた姿を思い返して、そういえば、塊に見えたなって。

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― 新着の感想 ―
地元の夏祭り(盆祭り)は熱中症対策で秋祭りに変わったけど、人の意思やらで変えてはいけないコトって案外身近にあるのかもしれないな……。 この話の神社は他の神事も鎮塊祭に関係するか調べないといけないだろう…
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