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地方怪談集 ~短編・中編の怖い話~  作者: シシモヨウ
【第二十七話】ずっと見える町
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ずっと見える町・後編

「一回、車に戻ろう。ここにいてもしょうがない」


 増子の言葉で4人はワンボックスまで引き返した。

 河端は来た道を戻ろうと、ワンボックスを走らせた。


 ところが、しばらく進むと見覚えのない分かれ道が現れ、広い方へ入っても、その先でまた同じような家並みが続いている。


「……ここ、さっき通ったよな」


 河端が速度を落とした。

 少し先には、最初に車を停めた場所が見えていた。


「なんで戻ってくるんだよ。来た道どこだよ……」


 増子もナビを覗き込んだが、現在地は相変わらず道路から外れた場所を動いており、もう一度違う道へ入ってみても、先ほど見た家の前へ戻ってくる。


「道じゃないところから抜けてみません?」


 大木戸が窓の外を指した先では建物が途切れ、その向こうに草の生えた広い土地が続いていた。


「あそこから抜けれそうだな。行ってみるか」


 河端はすぐにハンドルを切り、舗装を外れた。

 車体が上下に揺れ、ヘッドライトの中を草と凹凸のある地面が流れていく。


 しかし、町を背にしたまま出来るだけ真っ直ぐ進んでいるはずなのに、植松が振り返るたび、後方の家々は思ったほど小さくならなかった。


「全然町から離れてないじゃねえか、もっと遠くに走らせろ」


 増子の苛立った声に押されるように、河端がアクセルを踏み込み、暗い土地をさらに走らせる。


 窓のすぐ外を流れるものを見れば確かに前へ進んでいるが、それでも遠ざかるはずの町との距離は一定のように感じる……。


 そして、しばらくするとむしろ近づいてきた。

 前方にも黒い影が並び始め、ヘッドライトがその一つを照らす。二階建ての家だった。その隣にも、その先にも、家並みが続いている。


 また町へ戻っていた。


「ふざけんなよ……どうすればいいんだよ」


 河端はブレーキを踏んだまま前を見ていた。


           *


 そのあとも方向を変えて走ったが、道路へ戻っても、舗装を外れても、結局はまた家並みの近くへ戻ってくる。

 河端は家がまばらになったところで車を停めた。

 4人が外へ出て周囲を見ていると、植松の視界の端で、遠くの木々の間を白っぽい光が横へ動いた。


「……今、何か光らなかった?」


 増子も同じ方向へ目を凝らした。


「どこだ?」


「向こう。木の間」


 しばらく待っていると、少し離れた場所でも白い光が一瞬だけ見え、そのまま木立の陰へ消えた。

 屋根の向こうには道路らしい細い線も見えていたが、地上からでは建物や木々に遮られ、よく見えない。


「もう少し高いところからなら、もっと見えるかも」


 増子が周囲を見回した。

 近くには、平たい屋根の低い建物があった。

 

 外から見れば小さな事務所か商店のようで、正面だけでなく側面や裏側まで普通の壁に囲まれている。

 しかし、中へ入ってみると案の定、部屋らしい造りはなく、薄い壁板の内側を木材や金属の骨組みが支え、屋根の裏にも同じような横材が通っていた。


「これ外したら、上に足場作れないか」

「そうですね、車に簡単な工具類は積んでるはずです」


 増子のつぶやきに河端が同調する。


 平たい屋根を土台にすれば、外した板と支柱を使って、さらに高い足場を作れそうだった。


 4人はいったんワンボックスへ戻り、荷室から使えそうな工具をまとめて持ってきた。


 壁板の裏側を見ると、薄い板が木枠へ何か所か固定されているだけで、留め具を外していくにつれて、少しずつ骨組みから浮き始めた。

 外れかけた板を4人で支え、そのまま骨組みから取り外して動かしていく。

 

 途中で金具の一つが弾け、薄い金属を強く叩いたような響きが暗い町の中へ広がる。


「うわ、びっくりした」


 植松が声をあげ、4人の手が一瞬止まった。


「急ぐぞ。さっきの光、また見えるかもしれない」


 細かな震えのような音がまだ残る中、増子の声で作業を続け、板を引きずると、その下から重いものを地面へ押しつけたまま動かすような擦れ音が続いた。


 外した板を平たい屋根の上へ運び、支柱を組み合わせて、その上に一段高い足場を作った。3人で支えれば、一人が上へ乗ることはできそうだった。


「俺、上がりますよ」


 植松が骨組みに足を掛けると、増子が下からそれを見上げた。


「無理そうだったら下りろよ」


 植松は頷き、屋根へ上がると、その上に組んだ足場へ慎重に身体を移した。

 足場に立つと、周囲の低い屋根の向こうまで視界が開けた。


 暗い畑が広がり、その先には木立が続いていて、その切れ目をつなぐように一本の道路が左右へ延びている。


「何か見えるか?」


 増子の声が下から届いた。


「道路あります。かなり先まで見える」


 地上から見えていたのはほんの一部だったらしく、ここからなら木立に隠れながらも、道路がかなり先まで続いているのが分かった。


 植松が左へ視線を送ったところで、その切れ目の一つから白い車体が現れた。


「車いる!」


 思わず声が大きくなる。


「ほんとか?」


 河端もすぐに反応した。


「走ってます。白い車です」

「こっち気づかねえかな」


 下から聞こえた増子の声にも、それまでとは違う勢いがあった。


 植松は次に道路が見える場所へ目を移した。

 少し待つと、白い車体がもう一度現れ、その先の木立の影へ消えていく。


 何度か姿を追ううちに、細長い車体や屋根の高さ、横に並ぶ窓の形に見覚えがあるように思えてきた。


「……あれ」


 下にいた大木戸が聞き返す。


「どうしました?」


 植松はすぐには答えず、次の切れ目を見た。


 白いワンボックスがまた現れる。

 見ればみるほど、自分たちが乗ってきた白いワンボックスと似ているという感覚が強くなる。


 こちらへ近づいてくるようにも、遠ざかっていくようにも見えない。


 植松はそれを追っていた視線を、ふと足元へ落とした。


 組み上げた平たい板。

 その下で足場を支えている3人。


 遠くから町を見ていたとき、大きな平たいものを動かす小さな人影を見て、櫓でも作っているのではないかと言っていた。


 その後、金属音が聞こえた。

 そして、「誰か」「助けて」という声が聞こえた。


「植松、どうしたんだ?」


 下から呼びかける増子の声が聞こえる。

 車内で遠くから聞こえた声……はっきりと聞こえなかったあの声と重なる。


 植松はもう一度、道路へ目を戻す。

 また白いワンボックスが現れ、そのまま先へ走っていった。


 「植松、大丈夫か」

 「なにか分かったんですか」

 「助けに来てくれたりしそうなんですか」


 増子、大木戸、河端が植松を心配しつつ、期待交じりに声をかける。


「たぶん、あの車、この町に来ますよ」


 植松はそう答えるしかなかった。

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― 新着の感想 ―
見えた段階で詰んでるんだ……。どうしようもない怪異だけど攻略法とかあったのかな。
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