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地方怪談集 ~短編・中編の怖い話~  作者: シシモヨウ
【第二十三話】青森県の団地の話
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青森県の団地の話

 これは、青森県に住んでいる谷岡さんという女性から聞いた話です。


 谷岡さんが三十代の前半だったころ、小学校低学年の息子さんと二人で、県内のある団地に暮らしていました。

 離婚してしばらくしてから入った部屋で、建物はかなり古かったものの、何か変わった噂があるわけでもなく、同じ棟には子供のいる家庭も何世帯か住んでいたそうです。


「普通の団地ですよ。古いなとは思ってましたけど、それくらいです。住み始めたころは、変なことなんて何もなかったですし」


 最初にその子らしいものを見たのは、引っ越して半年ほど経ったころでした。


 夜中に一度目を覚ました谷岡さんは、水を飲むために台所へ行き、その帰りに何となく息子さんの部屋を覗きました。

 部屋の明かりは消えていて、廊下から入るわずかな光で、布団の辺りがぼんやり見える程度だったといいます。


 その枕元に、頭が二つ並んでいるように見えました。


「でも、そのときは寝ぼけてたんだと思います。暗かったですし、朝になってから、そういえば昨日なんか変だったなって思い出したくらいで」


 夜中にはそれ以上気にせず、谷岡さんはそのまま寝室へ戻りました。

 ただ、翌朝になってから思い返すと、どうしても息子さんの隣にもう一人いたような気がしたため、朝食のときに、昨夜誰かと一緒に寝ていなかったかと聞いてみたそうです。


 すると息子さんは、何のことかすぐに分かったようでした。


 学校の友達でも近所の子でもなく、名前も知らない。ただ、以前からときどき来ているのだといいます。


「たまに寝に来るよ」


 息子さんはそう言ったそうです。


 谷岡さんが、どこの子なのかと聞いても知らない。名前も分からない。息子さんの方は、それを特におかしなことだとは思っていないようでした。


 まだ小学校の低学年でしたから、夢の中の出来事か何かと混ざっているのかもしれない。

 谷岡さん自身、前の晩に見たものがはっきりしていたわけではないので、そのときはそれ以上深く考えなかったといいます。


 それから二週間ほどして、今度は見間違いでは済まないことがありました。


 その晩、息子さんは部屋の明かりをつけたまま眠っていました。谷岡さんが電気を消そうと部屋へ入ると、布団の中に子供が二人並んでいました。


 一人は息子さんです。


 その隣に、同じくらいの年齢の男の子が寝ていました。


「本当に普通の男の子でした。顔色がおかしいとか、変な格好をしてるとか、そういうのは何もなかったです」


 もちろん、谷岡さんには見覚えがありません。


 息子さんを起こそうと思って布団へ近づいたところ、先に男の子の方が目を開けました。驚いて飛び起きるわけでもなく、声を出すでもなく、寝た姿勢のまま谷岡さんの顔を見ていたそうです。


 谷岡さんは、そこでかなり動転したといいます。


 知らない子供が自宅の中にいるのなら、まず親を探すべきなのか、警察へ連絡するべきなのか。

 そもそも、いつ家へ入ったのかも分かりません。


 いったん部屋を出て、そのまま玄関まで行きました。


 靴を確認しても、息子さんのもの以外に子供用の靴はありません。玄関の鍵も掛かったままでした。


 谷岡さんは居間や台所の明かりもつけ、窓の鍵を確かめたり、電話を手に取ったりしながら、どうすればいいのか考えていたそうです。


「警察に電話するのも変じゃないですか。家に知らない子がいるって言えばいいのかもしれないですけど、それにしたって、何でいるのか全然分からなくて」


 結局、まずもう一度確認しようと息子さんの部屋へ戻りました。


 男の子はいなくなっていました。

 息子さんだけが、何事もなかったように眠っています。


 翌朝、またあの子が来ていたことを息子さんに話しても、特に驚きませんでした。むしろ、谷岡さんがそこまで気にしていることの方が不思議そうだったといいます。


 それからしばらく、あの子を見ることはありませんでした。


 息子さんにも特に異変はなく、学校へ通い、放課後には近所の友達と遊び、普段と変わらず過ごしていました。


 そんなある週末、息子さんが祖母の家へ遊びに行きました。


 初めは夜には帰ってくる予定だったものの、翌日も学校が休みだったため、そのまま泊まることになりました。

 泊まると決まったのが夕方になってからだったので、息子さんの部屋にはいつものように布団が敷かれたままになっていたそうです。


 その晩、谷岡さんは一人で夕食を済ませ、普段より少し遅い時間までテレビを見て過ごしました。

 日付が変わる少し前になり、そろそろ寝ようと廊下へ出たとき、いつもの癖で息子さんの部屋を覗きました。


 布団に、あの男の子が寝ていました。

 

 その晩、息子さんは祖母の家に泊まっています。


「そのときはもう、何でいるの、って。それしかなかったです。息子はいないし、私一人なのに、知らない子が家の中で寝てるわけですから」


 いつもの布団に、あの男の子が一人で横になっていました。


 谷岡さんはすぐには部屋へ入らず、まず玄関の鍵を確認したそうです。

 前と同じように、鍵は掛かったままでした。知らない靴もありません。


 スマートフォンを手に持ったまま、もう一度子供部屋の前へ戻りました。


 男の子はまだ寝ていました。

 谷岡さんが廊下から様子を見ていると、しばらくして、その子が目を開けました。


 前に見たときと同じように谷岡さんの方を見たあと、隣の空いた場所へ目をやり、


「今日、いないね」


 と言いました。


 男の子の声を聞いたのは、それが初めてだったそうです。


 谷岡さんは何も答えられませんでした。

 男の子は布団から起き上がると部屋を出て、谷岡さんのすぐ近くを通り、そのまま廊下を何歩か歩きました。


 ところが途中で立ち止まり、また息子さんの部屋へ戻っていきました。


 そして、押し入れを開けました。


 そこは普段から布団や衣装ケースなどをしまっている、ごく普通の押し入れでした。中を空けていたわけではなく、子供が入り込んで隠れられるような場所でもなかったといいます。


「でも、入っていったんです。普通に。私も、どうやって入るのって思いながら見てました」


 男の子は中の物をどかす様子もないまま、そのまま押し入れへ入っていきました。


 最後には、内側から襖を閉めました。

 それきり、物音はしなかったそうです。


 谷岡さんは押し入れの前まで行ったものの、すぐには襖に手をかけられませんでした。

 中にいるはずなのに何の音もしないことも気味が悪く、しばらく部屋の外で迷ったあと、ようやく襖を開けたといいます。


 中には、いつもの布団や荷物が入っていました。


 男の子はいませんでした。


 中を確かめても、子供が隠れていられるような場所は見つからず、どこか別の場所へ抜けられそうなところも見当たりませんでした。


 翌日、息子さんが祖母の家から帰ってきました。


 谷岡さんは、昨夜あの子が来ていたことと、最後には押し入れの中へ入っていったことを話しました。


 すると息子さんは、それを聞いても不思議そうな顔をしなかったそうです。


「いつもそこから帰るよ」


 谷岡さんは驚いて、今までもあの押し入れへ入っていたのかと聞き返しました。


 息子さんは、そうだと答えました。


 それから、


「来るときも、そこから出てくるよ」


 と言ったそうです。


 その日のうちに、谷岡さんは息子さんの布団を自分の寝室へ移しました。


 押し入れの中に入っていた物も、自分の母親に手伝ってもらってすべて出し、襖が開かないようにしたうえで、その前には重い家具を置いたそうです。


「意味があるかどうかなんて分からなかったです。でも、もう開けたくなかったんですよ」


 それ以降、息子さんをその部屋で一人で寝かせることもありませんでした。


 谷岡さんは何年かして、その団地を出たのですが、最後まで押し入れを使うことはなく、前に置いた家具も、一度も動かさなかったそうです。

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― 新着の感想 ―
守護霊か座敷童的な存在の友達なのか、子ども自身が座敷童なのかでだいぶ印象が変わるな……
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