↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地方怪談集 ~短編・中編の怖い話~  作者: シシモヨウ
【第八話】 クラスLINEに1人多い
13/43

クラスLINEに1人多い 〜エピローグ〜

 〜それから1年半あまりが過ぎた〜


 4月、県立北瀬高校のある卒業クラスが、地元テレビのニュースで取り上げられた。


 北瀬高校は、この地域ではごく普通の県立高校だった。大学へ進む生徒もいれば専門学校へ行く生徒もおり、地元企業へ就職する卒業生も少なくない。


 ところがその年、卒業した3年2組からは国公立大学や首都圏の難関私立、県外の有名大学への進学者が例年になく相次いだ。


 そのクラスを受け持っていた担任も取材を受けていた。


「何か特別な受験指導をされたんですか?」


 記者に聞かれ、担任は苦笑した。


「いや、それが、私は本当に何もしてないんですよ」


「何も?」


「学校として普通にやることはやりましたけどね。2年の夏休みが終わったころから、急にあの子たちが自分たちで勉強するようになって」


「クラス全体で?」


「最初は何人かだったと思います。放課後、西側の空いてる教室を使ってました。それがいつの間にか増えて」


 担任は少し笑った。


「冬休みもやってましたね。3年の夏休みも。こちらから言うことが、どんどん減っていきました」


「かなりまとまりのあるクラスだったんですね」


「そうですね。誰かだけ置いていく、みたいなのがなかったんですよ」


 少し考えてから、担任は続けた。


「本当に、手のかからないクラスでした」


 ニュースでは、地元の国立大学へ進学した卒業生にも話を聞いていた。


 入学したばかりの男子学生が、大学構内でマイクを向けられて笑った。


「みんなで頑張れたのが大きかったと思います」

「高校時代はLINEでも連絡を取っていたそうですね」


「はい。分からないこと聞いたり、声かけたりしてました」

「最初からそういうクラスだったんですか?」


「いや、最初は全然」


 男子学生は少し考えた。


「一人が始めて、そのうちみんなやるようになった感じです」


 画面には北瀬高校の校舎と、卒業前に撮影された3年2組の集合写真が映った。


 ニュースは、クラスの団結が生んだ異例の進学実績として紹介された。


            *


 同じ4月。

 及川圭司は、東京都内の大学で菅原直樹を見つけた。


 第二外国語の最初の授業が始まる少し前だった。


 教室へ入って座る場所を探していると、窓側の席に見覚えのある顔があった。


「……菅原?」


 声をかけると、男が振り向いた。


「ああ」


 やっぱり菅原だった。


「マジか。同じ大学だったんだ」


「うん」


 及川と菅原は、峰丘町にある同じ中学の出身だった。住んでいた集落は違い、同じ学年なので授業や行事で普通に話したことはあったものの、特別に仲が良かったわけではなく、高校も別だった。


 及川は中学卒業後、県庁所在地にある進学校へ進み、下宿生活を始めた。


 中学ではそれなりに成績が良かったつもりだったが、進学校へ行けば上にはいくらでもいた。朝から勉強し、授業後も学校に残り、下宿へ帰ってからも机に向かった。盆や年末年始には峰丘町へ帰ったが、その間も参考書を手放さず、周囲に負けまいと3年間やり続けて、ようやくこの大学へ届いた。


 だから、北瀬高校へ進んだ菅原が同じ場所にいることには素直に驚いた。


「お前、ここ受かったんだな」

「ああ」


「すごいな。中学のころから考えたら」


 悪意があったわけではなく、本当にそう思っただけだった。


 菅原は、

「まあな」

 と答えた。


 昔ならもう少し何か返してきた気もしたが、高校3年間ほとんど会っていない。人なんて変わる。


 菅原の隣には、知らない男子が座っていた。


「こいつ田中。高校で同じクラスだった」

「田中です」


「あ、及川です。同じ中学で」

「どうも」


 田中も同じ大学へ進学していた。


「北瀬って、そんな進学良かったっけ」


 及川が言うと、菅原は、


「去年はよかったみたいだよ」


 と答えた。

 少し他人事のような言い方だった。


 三人とも第二外国語は中国語だった。


「お前も中国語選んだんだな」

「ああ」

「何で選んだん?やっぱ、単位とりやすいって先輩とかから聞いたからか?」

 

 菅原は少し考えた。


「人口多いし、しゃべる人数も多いから」


「……ああ。まあ、そうだな」


 理屈としては分かるが、少しだけ変な言い方だと思った。


 もっとも、それも3年ぶりに話した相手へ抱くほどの違和感ではなかった。

 教室にはまだ半分ほどしか学生が集まっておらず、先生も来ていない。


 及川はスマホを取り出した。入学前からSNSで同じ学部の新入生何人かとつながっていて、そのうち数人は中国語を選んだと聞いている。


 菅原が言った。


「LINE作っとく?」

「何の?」

「このクラスの」


 田中が、

「その方が楽だな」

 と言った。


「まあ、確かに」


 菅原はその場で新しいグループを作った。


「このクラスで知ってるやついる?」

「何人か。入学前からSNSで話してた」

「じゃあ、入れといて」

「俺から?」


「うん。みんな誘って」


 及川は少しだけ引っかかった。


「みんなって、このクラス全員?」


「ああ」


 田中も隣で、

「その方がいいだろ」

 と言った。


 別におかしな話ではない。授業の連絡を取るなら、人数が多い方が便利だ。


 及川は、入学前からSNSでつながっていた学生を何人か招待した。


 そのうちの一人が別の学生を誘い、さらにその学生が知り合いを入れた。授業も始まっていないのに、参加者は少しずつ増えていった。


 菅原はそれを見ながら、特に何も言わなかった。

 やがて教師が教室へ入り、学生たちがそれぞれの席へ戻った。


 教科書を開く音が重なり、前の席では、まだ名前も知らない学生同士が小声で話していた。


 授業が始まる直前、及川のスマホが一度震えた。

 さっき作ったばかりのグループだった。

 最初のメッセージを送ったのは、菅原だった。


《みんなで頑張ろう》

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。