第9話 田舎町と、教会の神父
[小さな田舎町・ルーフ]
オルタネイトと呼ばれる王国内の北方にあり、アリスの村から1番近い場所にある。
入り口には木でできた看板が建ててあり、村の名前が書かれている。
すっかり暗くなった空の下、アリスは町に入る。
アリスが町を歩いていると、料理の匂いが鼻を刺激され立ち止まる。
「良い香り」
香りのする方を見ると、ある建物が目に入る。
入り口には、ベッドと思われるマークが描かれた看板が下げられている。
「泊まれるって事かしら?」
建物を見ていると、2人の人間が中に入っていき、その後に酔った様子の男性が建物から出て行く。
「とりあえず、私も入ってみようかしら」
私は、建物内に入る。
室内は、奥に暖炉があり火が揺れており、端には2階に繋がる階段が確認できる。
見渡すと、並んだ丸テーブルに座りパンや飲み物を口に運ぶ男。 お酒のせいなのか、赤い顔の青年達。
旅人の風貌をした数人の男女。
他にも、色んな服装や見た目の人間達が各テーブルで座っている。
「ここが、宿屋」
宿屋と言うよりは、食事を摂る場所に見える。
私は、周りを見渡す。
私の存在に気づいたのか、何人かは私を見ている。
入り口近くで、酒を片手に私を見て驚いている男性は、「なんだ? エルフ族じゃねぇか。 なんでまた、こんな田舎町に?」、と呟いている。
微かに、「エルフだ」
「この村で見るなんて珍しい」
「本物は初めて見る」
とも聞こえて来る。
「お客さん。 初めてだろ? こっちに来な」
「……」
奥から女性に声をかけられる。
私は、女性のいる机に向かうと軽くお辞儀をする。
女性は、私の顔を見て少し驚いた表情をする。
「おや、その耳……エルフのお客なんて珍しいね。 十数年切り盛りしてるけど、人間以外が来るなんて初めてだよ」
「……そうなのね。 周りが反応にも納得だわ」
「ここは田舎町だからね。 エルフどころか、都市では珍しくないドワーフですら、この村では珍しい種族になるからね。 まぁ、周りから珍しがられるだろうけど、悪意がある訳じゃないんだ。 申し訳ないね」
「いえ、気にしてないから大丈夫よ。 それより、ここで泊まる事は可能かしら?」
「……あ〜。 確かにウチは宿屋にはなるんだけど」
女性は、困った表情に変わる。
「でも、すまないね。 今、宿泊が出来ないんだよ」
「え? 部屋が満室なのかしら?」
女性は小さく首を振る。
「最近、ランプをテーブルから落とす事故が起きてボヤ騒ぎがあったのさ。 それで今は、床と壁を修繕中で隣の部屋も使えなくてねぇ。 残りの部屋も埋まっている状況さね」
「そうなのね。 それは災難ね」
私の言葉を聞いた、女性は笑う。
「まぁ、対応が早かった事もあって、全焼は免れたんだ。 不幸中の幸いってやつだよ」
女性は、申し訳なさそうに私に向く。
「だがら、せっかく来てくれたのに、今回は泊まらせる事が出来ないんだよ」
「そうなのね」
「この遅くにウチ以外で、泊まれる場所は……」
女性は、考える。
そして、私を見ながら何かを思い出した様に表情をする。
「――あ。 もしかしたら、あの人なら」
「? あの人!」
あの人とは、誰だろうか?
「この町の奥に、教会があるんだけど。 そこの神父様なら何とかしてくれるかも」
「神父?」
「あぁ、そうだ。 まぁ、少し変わり者だけど」
「変わり者? どんな、人なの?」
私の質問に、彼女は答える。
「それは、私が説明するより、実際に会った方が良い」
「実際に――」
私は、今から会う人物がどんな人か不安になる。 だが、悪い人でさ無いだろう。
「分かったわ。 ありがとう」
私はお礼を言うと、教会を目指した。
♢
村の奥に進むと、ある建物が目に入る。
周りの建物と同じ木造ではあるが、屋根や玄関の見た目が違い、外観から宿屋で教えてもらった教会だろう。
私は、ドアの前に立つ。
「……こんな遅くに尋ねて、本当に大丈夫かしら」
宿屋では、大丈夫とは言っていたが少し不安だ。
「何か言われたら、謝りましょう」
私は、木造のドアを手で叩く。
静けさもあり、思ったより音が大きく聞こえる。
ドアを叩いて少しの間の後、奥から足音が聞こえてくる。
「おやおや、この夜に尋ね人なんて珍しいですね。 誰でしょうか?」
そんな、言葉と一緒にドアが静かに開く。
現れたのは、少々歳の入った男性だ。
穏和で穏やかそうな感じが、顔から溢れ出ている。
男性の服は、黒いローブの似ており、イヴの服に似ている。
「夜分遅くにごめんなさい。 私は、アリス・ユニヴェール。 ある事情で、宿で泊まれず紹介がありお邪魔しました。 ご迷惑だと思いますが、一晩こちらで泊まるのは大丈夫ですか?」
私は、頭を下げる。 相手からしたら突然の訪問であり、断られる可能性が高い。
しかし、男性の口からは優しい言葉が発せられる。
「いえいえ。 謝らないでください。 ここまでの旅路、お疲れ様です。 私は、モートン。 呼び方は、モートンでも神父でも構いません。 それでは改めまして、ミス・ユニヴェール。 外は冷えますよ。 中に入ってください」
神父は、嫌な顔一つもせず招いてくれた。
「ありがとうございます」
建物に入ろうとした私を見て、神父は驚いた表情を見せる。 だけど、すぐに表情が戻る。
「ミス・ユニヴェール……貴女は、エルフ族ですね?」
「え? あ、ええっ。 そう……ですね」
私は、村長の言葉を思い出した。
信仰の違う、エルフが教会に来たのだ。
もしかしたら、あまり良い感情はないかも知れないわ。
もしかしたら、追い出されるかも知れない。
「ごめんなさい。 やっぱり、泊まるのは――」
私が言い終わる前に神父は、待ったのジェスチャーをする。
「貴女の、言いたい事は分かります」
モートンは、私を見る。
「大丈夫ですよ。 貴女との出会い、この教会を訪れたのも神の思し召しです。 遠慮は、要りません」
「はい、ありがとうございます」
私は、教会内に入る。 中は、人が座る長い椅子が並んでおり、奥に女性の像が立っている。
「それでは、こちらに」
モートンに案内される。 途中、時間も遅い事もあり夕食は出ないと説明される。
私は、問題無いと答える。
そして、モートンはあるドアの前に来る。
「こちらが、ミス・ユニヴェールの泊まる部屋になります」
室内は、私みたいな突然の来訪者が来ても大丈夫にしているのか、綺麗に掃除されており、真ん中のテーブルにランプが置いてある。
「ありがとうございます。 今晩は、お世話になります」
私はお礼を述べると、モートンは小さく首を振る。
「いえいえ。 エルフの方を泊めるのは初めての事で、お部屋が気に入って貰えたなら、日頃から綺麗にした甲斐があります。 それに――」
彼は、笑顔になる。
「実は……私は教会の者でありながら、他種族の信仰にも興味がありまして、是非ともミス・ユニヴェールから話を聞きたいのです。 出来る事なら、今晩は朝まで語り合いたい」
「……え?」
突然の言葉に、私は一瞬固まる。 私の反応を見たモートンは、小さく咳ばらいをする。
「すいません。 最後のは、冗談です」
「……」
私には、冗談に聞こえなかった。 それくらい、言葉に熱が籠っていた。
「人間社会に、生きる者も多いドワーフ族の信仰については、ある程度は知っているのですが……エルフ、その他の種族はまだ勉強不足でして」
更に、モートンは続ける。
「同じ、自然信仰でもやっぱり違うのですか? ドワーフに聞いた事があるのですが、エルフの信仰を知る者はいなかったので。 私のこの耳に、貴女の言葉を刻み込みたい」
私の中で、神父のイメージが変わった。 宿屋の店主が言っていた、変わり者って言葉はこう言う事なのかもしれない。
信仰については、何て答えようか考える。 私も、他の信仰は無知だ。 それを正直に答えて良いのだろうか?
「あ、すいません。 エルフ族を見て、思わず取り乱してしまいました」
神父は、私が困っていると思ったのか、話が終わり部屋を通されるり
その後、神父と別れた私は、明日に備えてベッドで横になる。
明日も、神父の熱い語りが聞けるのだろうか。
そう思いながらも、窓から月光が差し込む暗い部屋の中、私は疲れもあり意識が遠のいていく。




