第8話 旅の途中、初の人間族 後編
「お頭。 こいつ……もう気付いてますぜ?」
そして、出入り口も開くと、小柄と大柄の男が出てくる。
「なんだよ。 せっかく捕まったとフリしてたのによ。 廃墟にはいらねぇのかよ」
「俺も、ドアの陰に隠れてたのによ。 やっぱ、お頭の演技はダメでしょ」
男はそう言いながら、髭男の方を見る。 彼らも、服は薄汚れており髪が乱れている。
大きな刃物を持った顔に傷のある男が、鼻で笑いながら口を開く。
「昨日、お頭の計画を聞いた時は騙される奴はいないと思ったけど、まさかエルフのガキが来るとは思わなかったぜ。 ただ、詰めが甘かったですがね」
お頭と呼ばれている髭男が、鼻で笑う。
「うるせぇよ。 だれが、この小娘を連れてきたと思ってるんだ? あ?」
髭男は、他の人間達に圧をかけている。
私は、髭男を見る。
「……どう言う事?」
「どう言う事だって? こう言う事だよ。 お前みたいな奴を、誘い出す嘘だよ」
「……嘘?」
周りの男達が笑い出す。 髭男は私を指差す。
その顔は、とても醜悪だった。
「もしかしたら、警戒して付いてこねぇと思ったが……本当に着いてきて驚いたぜ?」
小柄の男が、腰に手を当てて前屈みになる。
「そうだぜ? もっと相手を見てから動くこったな」
大柄の男が、私の前に出る。 服のサイズが合っていないのか、少し張っている。
「まぁ……とりあえず、武器を捨てて金目の物を置いてきな。 そうすりゃ命は取らねぇぜ?」
「……」
野党達は、この状況を楽しむかの様に笑う。 私は、そんな野党達を黙って見ている。 初めて出会った他種族が、こんな奴らと言うのがショックだった。
「おい。 何か言えよ。 黙っていてもつまらねぇじゃねえか」
小柄の男が、気持ちの悪い笑顔で言ってくる。
「良いじゃねぇか。 俺達にビビってるんだ。 おい、ガキ。 何も言わなくて良いから、さっき言った様にさっさと物を置きな。 コイツがキレて身に付けている物が傷ついて汚れちまったら、商品価値が落ちちまうからな」
大柄の野党は、私に指示をする。
だが、私は動かない。 動く気は全く無い。
行動に移さない私に苛立ったのか、顔に傷の有る男が、声を荒げる。
「聞こえなかったか? 身に付けてる物を脱げって言ってんだよ! それとも、俺達がガキには手をださねぇっと思ってんのか?」
そう言いながら、傷の男は、大きな刃物を私に向ける。
私は、野党達の出方を見る。 数で見れば私が不利だが、不思議と恐怖は湧かない。
「何だぁ? 本当に何も喋らなくなったな。 いっそのこと、裸にしちまうか?」
小柄の男は、私を上から下まで舐め回す様に見てくる。 それを、見ていた他の野盗達が反応する。
「出たよ、コイツの気持ち悪い行動が。 コイツは、相手が子供だろうと老人だろうと気にしねぇ奴だからな」
「本当に、気持の悪い奴だよ!」
そう言いながら、周りの野党達が笑う。
そんな中、大柄の男が溜息を吐く。
「話にならねぇ。 無理矢理にでもその装備、外させてもらうぜ」
私は、心の中で願った。 人間族全員が、こんな獣以下ではないと。
そして、呟く。
「――る」
「あ? 何だって?」
私は、もう一度今より大きな声で伝える。 正直、ショックと同時に怒りが込み上げている。
「畜生の汚い言葉に、耳が穢れるって言ったのよ」
「なんだと?」
大柄の男は、眉間に皺を寄せている。 これくらいで怒るなんて、体は大きくても、器は小さいみたいね。
「このガキ!」
男は、私の肩に手を置く。 このまま無抵抗なら、殺されるわね。 私が、無抵抗なら。
「……触らないでちょうだい」
「あ!? !?」
次の瞬間、私は男の腕を掴むと、そのまま地面に叩きつける。 叩き付けたと同時に、鈍い音が響く。
「がはぁ……!」
そして、素早くナイフを取り出し、柄の部分で男の顔面を殴打する。
「ぐがっ……!」
男は、体格に似合わない妙な声を発する。
突然の事に、周りの野党達は固まっている。
それは、当然だ。 彼らから見れば、大柄の男が小柄の少女に流れる様に、地面へと叩き付けられているのだから。
「私を、ただの無力な子供と考えたのなら、それは間違っているわよ?」
私は、掴んでいた大男の腕を放す。 私は、話したその腕を見て驚く。
「……え? なんで?」
私は、思わず声を漏らす。
なぜなら、大男の腕は骨が折れたのか、歪になっている。
私は、そんな力を出した覚えは無いし、そもそも腕を折る程の力は無い。
「……」
私の脳裏に、あの蛇が浮かんだ。 もしかして、黒霧の他にも私の体は、大きく変化しているのではないか?
そんな事を考えていると、周りの野党は状況を理解したのか各々が武器を取り出す。
「てめぇ! 自分でやっといて、え? なんで? は無いだろうが!」
「ふざけやがって! ぶっ殺してやる!」
小柄と傷の野党2人は、私に斬りかかろうする。
傷の野党の斬撃を躱すと、すかさず顔を掴む。 そして、廃墟の壁に叩き付ける。
「うがぁあ……‼︎」
傷の男の顔が、壁にめり込んだ。
壁に当てる位の強さだったけど、まさかぶち抜くなんて。
もうすこし、加減をしなければ。 今後に生活に、影響が出てしまう。
「糞が! ぶっ殺す!」
もう1人が、両手に小型ナイフを持って接近する。 私は、手に持つナイフで攻撃を受け流す。
野党は、次の攻撃に移るが、私は手首を掴んで止めると、そのまま顔面に蹴りを入れる。
「ぶっ!」
蹴られた小柄の野党は、体を半回転させながら地面に倒れる。 体を痙攣させて動かなくなる。
「後は、貴方だけよ?」
私は、髭男にナイフを向ける。
髭男は、倒れた仲間を見る。
「お前を相手にするのは、少々厄介だ。 お前の動きを見た所、ただのガキじゃねぇな」
そう言いながら、髭男は片手を上げる。
一瞬、降参のポーズかと思ったが、その顔はどこか余裕を感じる。
そして、上げた手を振り下ろした。
「? 何、しているのかし……!?」
私が言い終わる前に、何かが顔横を横切った。
地面を見ると、それは一本の矢だ。
「これは?」
「オメェの力量を、見誤ってやり合う程……俺は、馬鹿じゃねぇ」
髭男は、不適な笑みを浮かべる。
「実はな、もう1人仲間がいるんだよ」
「もう、1人?」
私は、刺さっている矢を見る。
「ソイツは弓術士でな。 今、見えない位置から、オメェを狙っているぜ?」
「……」
「絶望で、声が出ねぇか? なら、そのまま死ねよ」
髭男は、手を上げて振り下ろす。
私は、男の合図と同時に地面を蹴って、身をひるがえす。 この時、矢が頬を掠るが、私は空中で弓矢を構える。
私は、地面に刺さった矢の角度から、弓術士が居るであろう方向に向く。
遠くの枝に、人影を見つけると、矢を放つ。
矢は、狙った通りに影を射抜く。 そして、影は木から落下していく。
それが、確認できたと同時に、地面に着地する。 私が、跳んでから着地までの出来事に、頭が追い付いていないのか髭男は固まっている。
そんな状況の中で、私は矢を構えて髭男に向ける。
「まだ、続ける?」
髭男は、抵抗の意志があるのか私に向かって走り出す。
「舐めるな!」
髭男は、隠し持っていたナイフを取り出すと、襲いかかる。
私は、男のナイフを矢で撃ち抜く。
「ぐっ!」
髭男は、弾かれた右手を押さえている。
「力量を、見誤ってやり合う程馬鹿じゃないと言ったそばから、挑んで来るなんてね」
追い詰められて、自暴自棄になった感じね。 狩でもそう、冷静さを失えば誰でも陥るのよ。
髭男は、後退りする。
「――ゆ……許してくれ! この通りだ!」
さっきの威勢が嘘のように、左手を出して、命乞いをする髭男。
どうやら、戦意喪失したみたいね。
「……私も、降参する奴を痛めつける趣味は無いわ」
「なら、見逃してくれるのか?」
「ええ。 仲間を連れて、私の前から消えなさい」
髭男は、私の言葉を聞いて安心したような表情になる。
「そりゃ、助かるぜ。 本当に良かった。 本当に……な!」
「⁉︎」
髭男は、右腕を大きく振る。
すると、私の顔に砂が飛んでくる。
「‼︎」
私は、目を瞑る。 目に砂が入れば、開けるのが困難になる。
奴は、地面に付いていた右手で砂を握って目潰しを計ったようだ。
奴の、走る足音が聞こえる。 どいやら、私が目を瞑って隙を見せたと思って接近している様だ。
「俺は、勝つ為ならどんな手も使うぜ! ガキが!」
髭男の、声が響く。 どうやら、勝ちを確信しているみたいだ。
私は、その方向に矢を放つ。
「‼︎ な、何だぁ!?」
髭男の、悲鳴ともとれる叫び声が耳に入る。
私は、眼を開けて男の姿を確認する。
「は? あぁ! あぁああぁぁ……‼︎」
髭男は、何が起こったか解らず呆気に取られていたが、矢を撃ち込まれた痛みに叫びを上げている。
矢が、男の伸ばした手のひらを貫き、肩まで貫通していた。
曲げる事も出来ず、腕を伸ばしたまま両膝をついて、男は唸り声を上げながら私を睨む。
「うが……ぁ。 く……て、テメェ」
私は、片目を開けて髭男を見る。
「足音と声で、位置が丸分かりよ」
音は、重要な情報だ。 森で上手く隠れようが、暗い洞窟に居ようが、音を立ててしまっては相手に居場所がバレてしまう。
この男も、声を出しながら私に近づいていた。
そうなれば、相手がいるであろう場所を射れば良いだけ。
私は、男に近づくと首を掴んでそのまま小屋に投げつける。
髭男は、小屋の壁にメリ込む。
「全てにおいて、獣にも劣る奴らだったわ。 まぁ、あの状態でも攻撃の意思を崩さない根性だけは、認めるけど」
そう言いながら、私は当たりを見渡す。 動ける、野党は居ない。 私は、服の埃を払う。
想像以上に、時間を食ったわ。 早く道に戻って、町に行かなければ。
私は、来た道を戻ろうとする。




