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26/28

26話 強化される、敵

 

 私は、距離を空けてグールの出方を見る。

 動きは速く、集中しなければ反応が難しい。

 静寂の中、グールは笑顔で私を見ている。


「どうしましたか? 怖くて、身動きが出来ませんか?」

「……別に、怖がっていないわ」


 私は、投げナイフを取り出すと彼女に投擲する。

 避けられる可能性も考えたが、ナイフは彼女の首元に深く刺さる。

 グールは、口から血を流しながらよろめいている。


「余裕ぶってるから、当たるのよ」


 だが、これで終わったとは思っていない。

 この攻撃も、効果は薄いだろう。

 案の定、グールは笑みを浮かべる。


「余裕しかないのですから、仕方がないです」


 グールは、ナイフを引き抜くと地面に捨てる。


「面倒ね。 でも、いつまでその表情でいられるかしら?」


 私は、クロエから譲ってもらった大型ナイフを取り出す。


「また、ナイフですか? 好きですね」


 グールの言葉など気にせずナイフを順手で持つと、余裕な態度を見せている彼女に対して突き攻撃をする。

 だが、グールは体を反らし突きを躱す。

 ナイフは、グールを掠める。


「ふふふ――バカですね。 腕を伸ばしたその状態では、隙だらけですよ?」


 グールは、右手に力を入れて反撃に出ようとする。

 私は、ナイフを逆手に持ち変える。


「バカは、貴女よ」

「!」


 私は、思いっ切りナイフをグールの胸に打ち込む。 身体を逸らしていたグールは、そのまま勢いで身体ごと地面に叩き付けられる。


「――ぐはぁ……!」


 背中を地面にぶつけ、その衝撃で後頭部もそう強打する。

 更に、ナイフも深く刺さるおまけ付きだ。

 グールは、顔を歪ませる。


「……」


 グールは、倒れている。 

 胸と、後頭部から血が流れ出し血溜まりが出来ていく。

 普通の生き物なら、これで絶命しているだろう。

 私は、ナイフを引き抜くとグールを見下ろす。

 もう、血が流れていないのか小さな血溜まりで止まっている。


「……いつまで、寝ているのかしら? 再生が終わっているのは分かっているわ。 それとも、夜だから眠い?」


 私に言われ、眼を開けたグールは立ち上がる。

 彼女の顔は、怒りが露わになっている。


「ふざけていますね。 幽鬼族の私に対して、そんな軽口を叩くなんて」

「ふざけていないわ。 私は、真面目に戦っているわよ」

「何が、真面目に戦っているだ」


 怒りは、力に変わるが動きが単調にもなりやすい。

 彼女の、身体能力や再生能力は、脅威であり冷静に来られたら私が最終的には狩られる恐れがある。

 だから、少しでも煽っておきたい。


「それに、軽口もなにも。 貴女、余裕そうに見えて普通に攻撃を喰らっているじゃない? 舐められて、当然ね」

「……」


 グールは、牙を出して噛み締めている。 歯軋りが微かに耳に入ってくる。


「私は、幽鬼族のグール。 どこの、馬の骨か知らない奴が……」


 グールは、一瞬で距離を詰める。

 彼女の爪が、私の眼前に迫る。


「誰を、舐めているって?」

「――分かりやすいわ」


 やっぱり、頭が熱くなった相手の動きは単純になる。

 こうなると、幾ら力があり速い攻撃でも予測できる。

 私は、体を捻り攻撃を交わす。 グールは、勢い余って腕が伸びる。

 私は、彼女の伸びた腕を左手で掴むと後ろに周りこむ。

 そして、体を引き寄せて右手の側面と逆手ナイフの峰が、首に密着する様に当てる。


「いい加減、終わってほしいわ」


 私は、右腕を思いっ切り後ろに引いて、そのままの勢いでグールを頭から叩きつける。


「! がっ!」


 私は、引いた勢いで回転をつけて、追い討ちにナイフの柄を眉間に向けて、力の限り殴りつける。


「っがはぁあ!」


 叫んだグールは、動かなくなる。

 私は、彼女から数歩下がる。

 もし、再生能力にも限界がきたのなら、それで良い。

 しかし、少しでも不安の種を取り除く為に、念には念を入れた方が得策だろう。


「首を切り落とせば、完全に死ぬのかしら?」


 いくら、再生力があっても生物である以上、首を落とせば死ぬだろう。

 私は、ナイフを振り上げる。 

 そして、一気に振り下ろした。 

 だが、広場には金属音が響き渡る。


「……!? え?」


 口から言葉が漏れ、思わず目を見開いた。

 なぜなら、さっきまで倒れていたグールは居らず、血痕だけが残っていたからだ。


「⁉︎」


 前方に、グールが立っていた。

 目が、一段と赤く輝いており先程と雰囲気が変わっている。

 その表情からは、先程の激しい怒りは感じられなかった。


「エルフが。 楽に死ねると思うなよ? 後で、生きたまま挽き肉に変えてやる」


 余裕のあった喋り方も変化しており、まるで別人だ。 

 グールは、私の方に歩いてくる。

 私は、ナイフを構えて後退りをする。

 だが、瞬きをした瞬間に彼女の姿は無かった。


「!?」


 私は、本能的に振り向く。 振り向いた瞬間、鋭い爪が胸元に迫っていた。


「――くっ!」


 私は、彼女の腕を掴んで止めようとしたが、掴んでも勢いで止める事はできず、胸元に刺さる。


「‼︎ ぐぅ……!」


 なんとか止める事はができたが、奴の指が第二関節まで刺さる。


「どうした? 苦しそうだな?」


 グールは、指を引き抜く。 私は彼女の腕を離さない。 今の状態で高速移動されたら、対処しきれない。

 私は、彼女の腕を可能な限り力を込める。


「……無駄な事を」


 グールは、左腕を振り上げて攻撃を行おうとした瞬間、私はナイフを順手に持ち替えると攻撃が来る前にナイフの柄を彼女の左手首に押し付ける。

 これによって、攻撃がくる前に、勢いを止めて相殺させる事ができる。


「攻撃なんか、させないわ」


 私は、そのままグールの体を斬りつけ、追い討ちで突く。

 そのまま、体重をかけて深くまで挿し込む。


「!?」


 だが、グールは岩の様にその場から動かない。 それどころか、私の胸ぐらを掴むと持ち上げる。


「――ぐっ!」

「お前が、私相手に有利に立ち回っていた時と、今の私を一緒にするな」


 そのまま、私は地面に叩きつけられる。 自分の骨が折れる感覚を覚える。 多分、肩周りの骨が砕けたのだろう。


「――! あぁ!」

「まだ、終わってないぞ?」


 グールは、胸ぐらを掴んだまま走り出し、私は地面を擦られる。


「‼︎ ぐぅぅ……!」


 痛みに声が出る。

 グールは、建物の壁に私を叩きつけそのまま押し付ける。

 痛みが全身に駆け巡る。

 胸ぐらを解放されて、私は崩れ落ちそうになった所で首を掴まれる。


「生かして、挽き肉はやめだ。 このまま、首をへし折ってやるよ」

「――あっ……は! ぐっ!」


 私は、解こうとするが胸元の怪我の痛みと、彼女の力で振り解けない。

 ここまで追い詰められたのは、魔獣以来だ。


「……」


 振り解く力が抜ける中、魔獣戦の記憶が鮮明に蘇る。 

 あの時も、苦しかった覚えがある。

 朦朧とする中、私の視線がグールから外れる。


「!?」


 現実か幻か、グールの後ろには、夢で出会ったもう1人の私が立っていた。 

 あの、漆黒の眼が私を見つめている。

 幻かもしれない彼女は、こちらに近づいてくる。  そして、私に手を伸ばしてくる。

 黒い目が見つめる中、私も腕を上げてもう1人の私の手に合わせようとする。 しうしないとダメな気がする。


「? 何、手を前に出してるんだ? 苦しくておかしくなったか?」


 グールの声を無視して、手を前にだしお互いの手が重なり合う。

 すると、体の中で力が溢れる感覚を覚える。

 

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