25話 彼女の、正体
私達が身構える中、受付嬢のスピードが高くなり一瞬で目の前まで来る。
「⁉︎」
「な⁉︎」
私に、急接近すると私の首目掛けて手を伸ばしてくる。
私の、首に触れる距離の所で何とか反応することができ、彼女の腕を掴む。
もし、身構えていなければ止めれなかっただろう。
「いきなり……何のつもり?」
相手は、腕を掴まれているにも関わらず、焦るどころか口が裂けた様に笑顔になる。
昼間の、物静かなイメージとは正反対だ。
「……貴女、何のつもり?」
受付嬢の力は強く、私と拮抗状態になる。
相手は、笑顔になる。
「聖職者でも無い貴女達に、恨みは無いんだけど……色々と面倒だから今夜のディナーにしてあげる」
「お腹を壊すだけよ?」
私は、体を捻って蹴りを入れる。 本来なら、そこまで力は入らないが、今の力なら話は別だ。
私の足が、彼女の横腹に当たり壁に吹き飛ぶ。
「大丈夫か?」
クラリーチェが、側に寄る。
「ええ。 でも、まだ終わってないわ」
受付嬢が、何事も無かったかの様に立ち上がる。
手応えはあったし、普通なら起き上がれない。
受付嬢は、ゆっくりと私達に歩み寄る。
「私が、一気に終わらせてやる」
クラリーチェが、手をかざすと風が生まれる。
そして、風の刃が受付嬢を襲う。
刃が、体を切り裂き血が流れる。
だが、クラリーチェは浮かない顔をしている。
「……変だな。 腕の一本でも宙に舞うと思ったんだけど」
確かに、相手は血が出ているが原型を留めている。
風の刃なら、両断されそうなモノだ。
「何? 今の風?」
受付嬢は、クラリーチェを見る。
そして、広角が上がったと思った瞬間、彼女は急接近をし私の横に立っており、右手はクラリーチェを掴んでいる。
「!! は、速……‼︎」
クラリーチェが言葉を言い終える前に床に叩き付けられる。
クラリーチェは、転がっていき私達の部屋で止まる。
受付嬢は、明らかに速さが増している。
「あら? 体が軽いわ。 普通に接近しただけなんだけど」
受付嬢がそう言いながら、私を見ると
「――くっ!!」
私は、距離を距離を取ろうとするが、彼女の手が私の胸ぐらを掴む。
「……‼︎」
私は、両腕で彼女の手首を握る。
彼女の手首が軋んでいる。
「……凄い力ですね。 あなた……本当にエルフ族ですか?」
「ええ、エルフ族で間違いないわ」
私は、渾身の力で彼女の手首を握り潰そうとするが、彼女の左手が私の首を掴む。
「両手が使えなかったら、防げないわよね」
受付嬢は、そう言いながら私の首を絞めていく。
「‼︎」
息が出来ない。
このままだと、窒息するより先に首を折られる。
私は、両手の力が弱まっていく。
不味いと考えた瞬間、物凄い音と共に胸ぐらと首の苦しみが解放される。
「?」
私が、目を開けると目の前には、クラリーチェがいた。
頭から血を流しながら、受付嬢を睨んでいる。
「どうだ? 妖精の蹴りは? 見た目に反して、強烈だったろ?」
クラリーチェは、私を見る。
「大丈夫か?」
「ゴホッ‼︎ ゴホッ‼︎ え……ええ、大丈夫よ」
受付嬢は、廊下の奥まで吹き飛んだのか姿は分からない。
そして、このこの騒動にも関わらず部屋から誰も出てこない。
元から、私達以外は居ないのだろう。
「……クラリーチェ。 部屋に戻るわよ」
「何だ? 逃げるのか?」
「装備を、整えなきゃ。 ヤツとは、まともに戦えないわ」
「……わかったよ」
私達は、部屋まで走る。
「私を吹き飛ばしておいて、逃げるんですか?」
戻っている途中で後ろから声が聞こえ、私は確認の為に顔を向ける。
「⁉︎ あの、姿は?」
廊下のランプで照らされた、彼女の姿が変わっていた。
ランプの灯りでも分かる白い髪に、赤く光る瞳が私達を見ている。
私は、彼女が人間では無いと確信する。
♢
部屋に戻った私達は、無意味と分かっていながらもドアに鍵を掛ける。
「どうする? この部屋で向かえ撃つか?」
「流石に、ここは狭すぎるわ」
私は、弓矢やナイフ等を手に取りると窓を見る。
そして、軽く息を吐く。
「はぁ、面倒になってきたわね」
私は、窓を開けるとクラリーチェを見る。
「とりあえず、外に出ましょうか。 広場で、反撃よ」
「そうだな。 私達の本当の強さを見せてやるか」
月明かりが差し込む室内から、私達は飛び出す。
それと、同時に部屋のドアが破壊される。
私達は、夜の誰もいない広場に着地すると、窓を見る。
「……」
私達が飛び降りた窓から受付嬢が立っている。
彼女は、月明かりに照らされる中、口が裂ける程に笑っている。
そして、彼女も窓から飛び降りるとゆっくりと私達に近付いてくる。
「悪いけど、1発で仕留めるわ」
私は、素早く矢を放つ。
矢は彼女の眉間を撃ち抜く。
「やったか?」
クラリーチェが呟くが、受付嬢の歩みは止まらない。
「こんなモノ。 私には効きませんよ?」
彼女は、矢をゆっくり引き抜くと地面に投げ捨てる。
月に照らされた眉間の傷は、綺麗に治っていく。
魔獣じゃ有るまいし、あの攻撃で無事なのはありえない。
「貴女、何者かしら? 姿が変わり、傷も治るなんて」
「私ですか? 私は、幽鬼族ですよ」
「ゆ……幽鬼族?」
「アンデッド……て言えば伝わりますか?」
「! アンデッド」
昔、聞いたことがある。 世界に住む、種族を。
エルフ族や全種族で1番数が多い人間族以外にも数多な種族は存在するが、アンデッドは火山地帯やその周辺に住み、エルフと同じ又はそれ以上に外部との関係が希薄な種族だと。
他の種族も、気味悪がって余り分かっていない部分も多いと言っていた。
そんな、アンデッド族が目の前にいる。
「まぁ、アンデッド以外の幽鬼族もいますがね。 そして、私は幽鬼族のグールです」
「……グール?」
アンデッドは、詳しくは知らないので、なんとも言えない。 だが、目の前のグールは敵なのは間違いない。
グールは、微笑む。
「グールを、知らない? まぁ、知らなくて結構。 どうせ、私の血肉となりますから」
グールの口が、吊り上がっていくのが分かる。 月が雲に隠れ、暗闇に染まる中で赤い瞳が輝いている。
“暗闇の中で、目だけが光っていたんだ”
私は、男達の会話を思い出す。
「行方不明の事件は、お前が起こしていたのか?」
クラリーチェが、グールに質問をする。
「そうだとして、死にゆく貴女にはどうでもいい事」
グールの指が、僅かながらに動く。
瞬間、グールは素早く距離をつめて鋭い爪で攻撃してくる。
「! くっ!」
私は何とか避ける……が、肩が熱く感じ確認すると血が流れている。
「心臓を狙ったのですが……よく避けましたね」
グールは、右手に付着した血を舐めながら、私を見ている。
「それにしても、エルフの血は初めてだが、中々美味いですね。 肉は、どれ程の美味さでしょうか」
「お褒めの言葉と、取っておくわ」
私は軽口を言っているが、内心はそこまで余裕があるわけでは無い。 グールの攻撃速度は、気を抜いたら私が狩られる程だわ。
今の私は、狩られる側に立っている。
そもそも、こう言う傷が再生する相手には矢は余り効果は薄い。
魔獣も、そうだった。
「接近戦ね」
私は、弓と矢筒を地面に置くとナイフを構える。
「それで、私と戦うの? まぁ、良いけど簡単に狩ってもつまらない……少し、遊んであげる」
グールは、ジャンプして飛びかかる。
遊ぶ宣言通り、わかりやすい動きをしてくる。
速さも、先程よりも無い。
私は、迫るグールの方に駆ける。
グールは、驚いた表情をする。
「回避行動しないで、前に出た!? 私に、殺されたいの?」
グールは、接近しながらの爪で突いて来るが、私は重心を下げて滑り込むようにして、攻撃を避けると同時に体を捻りグールの横腹に回し蹴りを喰らわせた。
「――っがは!」
蹴られたグールは、煉瓦の壁に方に突っ込んでいく。
「……そんなに喰らいたいなら、蹴りでも喰らっときなさい」
私はそう吐き捨てると、ナイフを構える。
「凄いな。 やっぱり、戦闘慣れてるな」
「そりゃあ、鍛えてるからね」
「私の出番は、無さそうだな」
「……それは、どうかしら」
私達が会話していると、吹き飛んだ方向から物音が聞こえる。
「舐めた事、するじゃぁないですか」
立ち上がったグールは、頭や体の節々から血が流れ出しているが、傷が治っていく。
あの攻撃でも、余り効いていない様子。
「……化け物め」
「化け物ですか。 それより、部屋で掴まれた時も思いましたが……貴女、エルフにしては力が異常ですね」
グールは、一歩歩く。
「しかし、いくら力が強くても幽鬼族の力には及ばない」
グールは、笑顔になる。
「さぁて。 終わりにしましょうか?」
グールは、ゆっくり近づいてくる。 距離はあるが、安心はできない。
私は、構えながら奴の動きを注視する。
「その前に……」
グールは、クラリーチェの方に視線を送る。
「! クラリーチェ! 危ない!」
「え? ‼︎」
私が、クラリーチェの方を向くとグールが彼女に攻撃をする。
グールの掌底が、クラリーチェの顔を穿とうとするが、クラリーチェは彼女の腕を掴み防ぐ。
お互い力により、彼女達から軋み音がしている。
「残念……当たるか、そんな攻撃」
クラリーチェは、残りの腕をグールに向ける。
そして、人差し指をグールの顔に向ける。
「風の弾は、いるか?」
次の瞬間、緑の弾が指から放たれグールを撃ち抜く。
矢以上の威力のソレは、グールの眉間に風穴を開ける。
グールは、数歩後ずさる。
「ふふ。 いい気味だ」
クラリーチェは、勝ち誇った顔をする。
だが、グールは立ち止まると、顔をクラリーチェに向ける。
「とても美味しかったですよ。 私からお返しです」
グールの眉間の傷が塞がる。
「‼︎ こ、コイツ‼︎」
クラリーチェは、追撃しようと手をかざすが、突然クラリーチェが爆炎に飲まれる。
瞬時に、グールの仕業だと分かった。
「あ! あぁがぁあぁぁぁぁ……‼︎」
クラリーチェは、叫び声を上げる。
「炎に包まれたからって、大袈裟ですね」
グールは、クラリーチェを背後に投げ捨てる。
「あの妖精も、強いみたいですが……幽鬼の操る、火魔法には無力です」
グールは、余裕のある態度だ。
グールは、私の方を見る。
「……‼︎」
私は、ナイフを構える。




