24話 夢の私と、怪しい部屋
「――は! ここは?」
私は、目覚める。
だが、全方位が暗く何も見えない。
私は、直感する。
これは、夢だ。 野宿で見て以降、見る事なかったあの夢だ。
そして、薄暗い世界から、何も見えない闇が広がっている。
「……」
私は、留まろうか移動しようか考えた末に、歩く事を選択する。
だが、歩いても闇が続くだけで何も無い。
まるで、永遠に続いているかの様だ。
私は立ち止まり、手を叩いてみる。
だが、反響は無く近くには壁は無いと確信する。
私は、溜め息を吐く。
「そういえば、あの時の夢は酷く寒かったわね」
私は、今回は寒さを感じない事に安堵を抱く。 寒さは夢だろうと辛い。
『こんばんわ』
「――!?」
突然、後ろから声をかけられ、私は驚きながらも振り返る。 だが、暗闇が広がるだけで何も見えない。
「……だれも……居ない?」
急な事もあり。鼓動の音が耳に響く。
『どこ見てるのよ。 こっちよ』
「……」
私は、周りを見渡すが誰も見つけられない。
『だから、こっちよ』
声は、上の方から聞こえてくる。 私は、恐る恐る上を見て驚く。
「――な!? え? な、どう言う事よ?」
1人の女性――否。 私が逆さまになって、浮いて立っていた。 逆さまの自分がいるのもあり得ないが、この暗闇の中なのに姿がハッキリと見える。
『あら? どうしたのかしら? そんなに固まって』
「……あ、貴女は……誰よ?」
私の質問に、彼女は一瞬固まるが、不適な笑みを浮かべる。
『変な事を言うのね。 私は、貴女よ? それ以外の答えは無いわ』
「貴女は、私?」
確かに、姿も声も一緒だし間違っては無いのかしら?
とりあえず、他の質問をしてみようかしら。
「仮に貴女が私だとして……じゃあ、この空間は何? 最初は海だったのに、今じゃ漆黒の闇じゃない。 あの怪物は何? 貴女なら知ってるんじゃないのかしら?」
私は、もう1人の私に沢山の質問を投げかける。
『質問が、多いわね。 まぁ、良いわ』
もう1人の私は、近づいてくる。 逆さまの顔が私を覗く。 良く見ると、目が真っ黒だ。
厳密には、黒白目部分と黒い眼の境界が白くなっている。
『この、空間は――貴女の夢であり、深層心理であり、そして……"魂"でもあるわ』
「は? 何を言ってるのか分からないわ」
『あら? 分かりやすく、説明したつもりだけどね』
ただ、説明した気になってるだけじゃ無いかしら?
相手に伝わらなければ、説明の意味が無い。
「じゃあ何? 私の心理や魂は、真っ黒って事かしら?」
『まぁ。 間違ってないわ』
「……」
何よそれ。
『もしかして、ショックだったかしら? でも、貴女は黒い霧……いえ、漆黒と密接に関係あるんだから、仕方がないわ』
「漆黒と……関係?」
『そうよ……今は分からなくても、いずれ分かるわ』
「……」
彼女は、笑っている。
『あっ。 そろそろかしら?』
「? 何が、そろそろな――!」
私は、彼女に質問した瞬間、落ちる感覚に襲われる。 そして、逆さの私が小さくなっていく。
「な!?」
私は暗闇に落ちていく。 まだ、怪物の話を聞けていないのに、何で?
『そろそろ、目が覚める見たいね』
声だけが、聞こえてくる。
『貴女が、怪物と呼ぶ奴の事が知りたいなら、今以上に漆黒を扱えば良いわ』
漆黒を使う? アレを使ったら、被害が出る恐れがあるじゃない。
それに、あの力は安易に使って良いのかも気になる。
そんな事を考えていると、暗闇に呑まれていく感覚を覚える。
もう、目が覚めるのね。
『まぁ、使わないならそれでも構わないけどね。 ただ、使えば良い訳でも無いし。 それじゃあ、また近い内に会いましょうか』
意識が薄れる中……それが、覚める前に聞こえた彼女の言葉だった。
♢
「――は! はぁ……はぁ……」
私は、目を覚ます。
今回の夢は、いつもとは明らかに違い蛇では無く、自分自身が現れた。
怪物を知りたければ漆黒を使えと言っていたが、本当にそれで分かるのだろうか?
ただ、使えば良い訳では無いって言葉も気になる。
それに、彼女の言葉を信じて良いのだろうか?
明らかに、あの力は暴走すれば必ず被害が出るだろう。
今の私が、まともに扱えるかも分からない。
「……漆黒…………か」
私は、窓に近づきの外を見る。 月明かりに照らされた都市が幻想的だ。
建物からは明かりはなく、もう深い夜なのだと感じる。
私は、部屋を見るとクラリーチェの姿が無い。
もう1つのベッドには寝た後がある。
いつから居ない? まさか、外に出た?
私は、ベッドに手を当てる。
もし、冷たかったら長い間居なかった事になる。
「……暖かいわね」
さっきまで、寝ていたのだろう。 まだ、温もりがある。
なら、彼女はどこに行ったのだろうか。
私が、ベッドを見ていると部屋のドアが開くと、クラリーチェが入ってくる。
そして、私を怪訝な表情で見る。
「……何してる? 手なんか置いて」
「‼︎」
私は、咄嗟に手を離す。
この動きが、更に怪しさを募らせたようで彼女は黙って私を見てくる。
「勘違いしないでほしいわね。 貴女が、いつから居なかったかのかを、ベッドの温度で確認していたのよ」
「……へぇ」
クラリーチェは、それだけ言うと椅子に座る。
顔が、笑っている。
「何よ?」
「何でもない。 それより、さっきまでトイレに言ってたんだがな――」
月光が、照らす中で彼女は少し間をおいてから話出す。
「帰る途中、唸り声が聞こえる部屋があったんだよ」
「唸り声?」
クラリーチェは、頷く。
「ああ。 ドアに耳を近づけたら、唸り声と話し声の中には、水の滴る音が聞こえてきたんだ」
その話を聞いた私は、初めて宿屋に来た時を思い出す。
確か、あの時は物音が聞こえていた。
「私も、廊下を歩いていたら物音が聞こえたわね その時は、特に何もしてないけど。 もしかして、同じ部屋かしら」
「アリスも、何か聞いてたんだな。 こんな夜に、何してるんだろうな」
「さぁ、何かしら? まぁ、酷い人なら受付が注意するか追い出すがするでしょ」
こんな夜中なのに、部屋の主人は何をしているのか気になるが。
「なぁ、ちょっと様子見に行かないか?」
「え? 様子?」
「絶対、何かあると思うんだ。 こんな、薄気味悪い宿屋なら尚更だ」
「……」
確かに、話を聞く限りは何か怪しさを感じる。 だけど、それだけで様子を見に行くのは如何なものか。
「とりあえず、部屋の前に行ってみよう」
「まぁ、様子を見に行くなら」
私は立ち上がると、クラリーチェも飛翔する。
私は、ゆっくりとドアを開ける。
部屋から覗く廊下は、ランプが灯っているが暗く殆ど見えない。
「それじゃ、行くわよ?」
「なんか、楽しくなってきたな」
私達は、廊下を歩く。
クラリーチェは、指をさす。
「あの、部屋だ」
言われた部屋は、私が物音を聞いた部屋だった。
私達は、部屋に近づいていくと部屋のドアノブが動いた。
「!?」
私は、反射で近くの椅子に身を隠す。 クラリーチェも、私の後ろにくる。
「別に、悪い事する訳じゃないだろ? 何で、隠れるんだ?」
「つい、勢いよ」
流石に、今から出ても怪しいしこのまま、やり過ごす事にする。
この暗さなら、見つからないだろう。
「……」
私達が息を潜めていると、部屋から誰かが出てくる。
「⁉︎ 」
だが、出てきたのは客ではなく、受付をしてくれた女性だった。
そして、彼女は廊下を見渡す。
この時、目が合った気がしたが、彼女はゆっくりと階段を降りていく。
彼女が、居なくなりクラリーチェが話しかけてくる。
「部屋の住人か?」
「……この宿屋で、受付をしてる女性よ」
「受付? 受付が、こんな夜中に、何してたんだ?」
「分からないわ。 あの、部屋の前に行ってみましょうか」
私達は、部屋の前に立つ。
部屋からは、物音が微かながら聞こえる。
「誰か、居るみたいね」
私は、ドアを叩く。
だが、反応はない。
「誰も出ないわね」
私は、ノブを回す。
「……やっぱり、開かないか」
ドアには鍵が掛かっており開ける事は出来ない。
「なら、力任せに開けるか?」
クラリーチェは、そう言うと手をドアにかざす。
「何するつもり?」
「このドアを、ぶち破ってやるよ」
クラリーチェは、強引に破ろうとしている。
私は、声をかける。
「流石に、それは不味いんじゃない? 何もなかったら、怒られるわよ?」
ただ、怪しいや何かがあるって理由だけで、破壊するのは、もし考えすぎだった場合は後で問題になる。
「……めんどくさいな」
「確認の為に、その鍵穴から覗いたら方が良いわよ」
クラリーチェが、鍵穴を覗く。
「薄暗くて、よく見えないな」
「何か、気になるモノとかない?」
彼女が覗いているのを見ていると、階段から気配を感じ顔を向ける。
「……」
だが、誰も居ない。
私は、顔を彼女に戻す。
「何だか、嫌な予感がするし部屋に戻らない?」
「今、月明かりに照らされて何か見えそう。 なねん?」
クラリーチェは、動きが止まる。
「? 何か、見えた?」
「誰か、椅子に座ってるのが見えるな。 動かないし、寝てるのか?」
この夜中なら、寝ても変では無いが椅子に座ったままが気になる。
さっきまで、受付の人が部屋から出てまだ時間は経っていないし起きている可能性だってある。
「私も、見て良い?」
「ああ、見てみな」
私は、鍵穴を覗く。
椅子に座った影が角にできる。
そして、正面を向いているようだ。
だご、月光が逆光で細部までは見えない。
「……」
私が、目を凝らしていると椅子に座っている人影がゆっくりと静かに動く。
「⁉︎」
だが、それは誰が見ても不自然だ。
椅子に座ったまま、顔だけが項垂れる様に動き止まる。
明らかに、寝ている感じでは無い。
「……様子が変だわ」
私は、鍵穴から顔を離すとドアをノックする。
だが、中から反応は無い。
「……大丈夫ですか?」
私は、声を掛けて再びノックをする。
だが、返事は返ってこない。
「無理やり、開けるか?」
「……」
私は、一瞬考えるがドアに手を当ててそのまま力を入れる。
勘違いなら、後で謝れば良い。
更に力を加えると、軋む音が大きくなりドアが開いていく。
「……!」
ドアが開く直前、階段の方から微かに床が軋む音がする。
明らかに、ドアの軋み音では無い。
クラリーチェも、聞こえたのか階段の方を向いており、私も向く。
「‼︎」
廊下から、受付の女性がこっちに歩いてくる。
表情からは、何も読み取れない。
私は、無意識に身構える。




