21話 白いパンと、真偽不明な話
武器屋を出た後、私は広場から通りを歩く。
野菜や薬草を売る店や、金物を売っている店が目に入る。
そして、歩いていると香ばしくも甘い匂いが鼻をくすぐる。
「良い匂い」
匂いのする方を見ると、焼きたてであろうパンが売られている。
エルフでも、ライ麦畑で収穫して作った黒いパンを食べていたが、目の前のパンは白い。
私は、自然とパン屋に足を運ぶ。
パンの、甘く香ばしい匂いにお腹が鳴る。
「可愛い、お客さん。 出来立ての、パンはいかが?」
頭巾を付けた女性は、笑顔で聞いてくる。
「……そうね。 1つ……貰おうかしら」
私は、パンを1つ頼むと、代金を払い受け取る。
近くに腰掛ける場所があり、私はそこでパンを食べることにする。
「いただきます」
私は、出来立てのパンを頬張る。 ふっくらしており、硬い食感の黒パンとは違う。 酸味も無く、口の中が甘く芳醇な味と香りが広がる。
私は、パンを食べる。
「あの夜…………姿……人間じゃない」
「……?」
パンを食べている時、近くの都民同士の会話が聞こえてくる。 私は、耳を傾ける。
「それは、本当か?」
「ああ、俺は見たんだ。 酒を飲んでいた夜、風に当たりに出たんだ。 そしたら、暗闇の中で目だけが光っていたんだ」
「外にでたのかよ? よく、無事だったな」
「ああ、酔いでの判断力低下の恐ろしさを身に染みたよ。 何もなかったのは、運が良かったのかもしれないな」
2人の会話は、事件の犯人を見たって話ね。 そして、彼は運良く無事だったと。
「じゃあ、兵士に伝えたのか?」
「伝えたが、当時は酷く酔っ払っていた事もあって半信半疑だったよ。 俺も、あそこからどうやって帰ったのか覚えてねぇからな」
「なぁ、それって夢だったんじゃないか? それか、酔いからの見間違いか」
目が光なんて、確かに見間違いの可能性は高いけど、否定も出来ない。
「かもなぁ。 とりあえず、アレが現実なら絶対に人間じゃねぇよ」
「まぁ、目が光る奴なんて見た事はないな」
その目撃が本当なら、確かに人間族の可能性は低くなる。 もし、そうならどこの種族なのだろうか。
世界には数多の種族がいるが、種族名や表面上の情報は知っていても、深く詳しい特性などは知らない。
私は、地面を見る。
「難しい顔をして、どうした?」
「――え?」
声をかけられて、顔を上げるとクレアが立っていた。
「あの、妖精とは一緒しゃないのか?」
「えぇ。 彼女とは、別行動をしているわ」
「そうか。 だが、この王都も行方不明の犯人以外にも、変な奴はいるから気をつけるんだぞ。 特に、エルフと妖精なら尚更だ」
「分かったわ」
どうやら、心配をしてくれている様だ。
「それで、えっと……クレア……だったわね? 今は、巡回中かしら?」
「巡回中と言うか……近くで、酔った都民どうしの喧嘩があってな、対応に向かった後の帰りだ」
「そうなのね。 それは、大変だったわね」
「まったく。 今夜の都市巡回の当番だから、不要な体力の消耗は避けたいんだがな」
「夜も、見回りなんて大変ね。 眠くならないのかしら?」
「まぁ、順番に回すから、私の番が来るまで仮眠も取るから大丈夫だ」
いくら、仮眠でも大変だと思うわ。
治安維持の兵士は、凄いわね。
「ところで、先程は浮かない顔をしていた様だが?」
どうやら、表情に出ていた見たいだ。
「ちょっと、騒動の犯人が何者なのか考えていたのよ」
私は、先程聞いた会話をクレアに話す。 クレアは顎に指を当てる。
「目が光るか。 その話は、初めて聞いたな。 担当した奴も、酔っ払いの証言として片付けてしまい、情報を共有しないまま時間が経って忘れられたのだろうな。 まったく」
クレアは、小さく溜め息を吐く。
「まぁ、過ぎた事は仕方がないが……目が光っていたか。 もし、それが本当なら人間ではない者だな。 仮に居ても、そいつが犯人と決めつけるのもアレだが」
「目が光る種族って、何かしら?」
私は、クレアに質問をする。 王都に住む彼女なら、自分よりは詳しいと思った。
「目が光るか。 私も、ドワーフ族位としか接点はなく。 その他の種族に対しては、無学だな。 貴女の前で言うのもアレだが、エルフ族も弓術に優れ、長い耳を持つ程度の知識だ」
確かに、他の種族に詳しくなろうとするには、知りたいと思わなければ、自ら率先して調べはしない。
こう言う時に、あの神父がいたら分かったかもしれない。
「分かったわ。 とりあえず、目の光る人物には注意ね」
「そうだな。 私も、仲間達にこの話は共有しておこう。 それじゃあ、私は戻るとするよ」
クレアは、立ち去ろうとして立ち止まった。 そして、私に向く。
「……貴女の、名を聞いても良いか?」
「え? 私の? アリス・ユニヴェールだけど」
「アリスか」
武器屋では、自己紹介は無用と言っていたのに、心変わりが早いわね。
私の心情を汲み取ったのか、クレアは首を振る。
「勘違いするな。 もし、何か会った時に名前を知っておいた方が良いと思っただけだ。 この都市にいるエルフは貴女だけだから、何かしでかせば名が知れ渡るからな」
「何かって……何もしないわよ」
「……そう願うよ。 あの、妖精……」
「妖精の名前は、クラリーチェよ」
「その、クラリーチェにも言っといてくれ」
それだけ言うと、人混みに紛れ見えなくなる。
1人になった 私は、通り過ぎる人達を眺めながら、パンを食べる。




