18話 王都と、真っ赤な果実
―王都アクセラ―
王国・オルタメイトの首都であり、遠くからでも確認できる立派な城を中心に街並みが広がっている。
都市は城壁に囲まれており、出入りには大きな門を通る必要がある。
首都だけあって、多くの国民が暮らしているが、国の大半を占める人間族以外にも、ドワーフの姿を見る事ができる。
壁の外にも郊外都市が広がり、一般的な王都民や産業の要である裁縫師や鍛治師が暮らしている。
この国では、布細工や金属加工が有名であり、職人達は日々精進している。
他にも、王都が国の中心にある事から、行商人たちが国内の都市や街に向かう際の中継地点にもなっており、産業・貿易共に活気で溢れている。
だが、活気の裏では事件も起きている。
正体も分からない、怪しき者が潜む都市に入都していく。
「ここが、王都。 想像以上の、大きさね」
郊外都市の入り口を通りながら私は呟く。
田舎街も大きいと思ったけど、それ以上で息を飲むほどだ。
クラリーチェが、私を見ながら小さく笑う。
「確かに、大きいけど余りキョロキョロしないでくれよ?」
「別に良いじゃない。 こんな、都市を前にキョロキョロしない方が無理よ」
「まぁ、そうなんだが……もう少し、抑えてくれよ」
クラリーチェが、横山に視線を送り、私もそっちに向く。 人間達が、私達を見ている。
そんなに、目立つ動きをしていたかしら?
私は、声量を抑えて彼女に聞く。
「……これって、私の動きが原因?」
「まぁ、エルフと妖精ってだけでも目立つのに、キョロキョロしてたら更に……だと思う」
「そう言う事ね」
そんな会話をしながら、周囲を見ていると、金属を叩く音が耳に入る。
私は、ある建物に顔を向ける。
扉が開けられた屋内では、立派な髭を生やした屈強な男性が、赤く熱せられた鉄を叩いている。
私の住んでた村でも、矢尻やナイフを作る鍛治師は居たけど、体格の差なのか雰囲気が違う。
「凄い迫力ね。 あの、立派な筋肉と髭せいかエルフの鍛治とは別物に見えるわ」
クラリーチェも、彼を見る。
「見た感じ……ドワーフ族かな? 人間より、筋肉の発達が凄いな。 私も、実際に見るのは初めてだな。 まぁ、エルフは細い筋肉だし別物に見えるのは当たり前だな」
「確かに、そうね」
「それに、ドワーフ製の武器や防具を所持する人は。見る人によっては地位が高いと思われたりするらしい」
「え? 地位まで? 本当?」
普通は、良質な道具を持っていても一時は注目されるだけで、それ以上は無い。
ドワーフ製だと、地位にまで発展するのは流石に嘘みたいな話だ。
「以前、森で会話をする人間達から盗み聞きしたんだ。 全くの、嘘ではなかな」
本当なら、それ程までにドワーフ製への信頼性が高いって事だろうか。
「…………」
私達が、ずっと鍛冶屋の前で話しているのが気になったのか、ドワーフの鍛治師は私達に視線を向けている。
「……もしかして、仕事の邪魔になってたかしら」
「さぁ。 でも、自身の工房前で立ち話なんかされて、嬉しい人は居ないわな」
私達は、その場を後にする。
鍛治師は、不思議そうな表情を浮かべながらも、再び仕事を始める。
♢
「変な2人って、思われたかしら?」
「変な、良く分からないエルフって思われたかもな」
クラリーチェは、イタズラな笑顔を向ける。
私も、言い返す。
「……貴女が、小さすぎて私しか見えなかったって事? 確かに、私と比べたら小粒だしね」
「馬鹿に、してる?」
「貴女から、言ってきたんでしょ?」
実際は分からないが、鍛治師からしたら外でエルフと妖精がこっちを見ながら会話している。
気が散るのは、間違いない。
「とりあえず、他の場所に行きましょうか」
私はそう言いながら、大通りを進む。
大通りを歩くと、色々なお店が立ち並んでおり、村では見た事ない物が目に入る。
「本当に凄いわね。 はぐれてしまいそうね」
「王都で迷子になったら、色々と大変だな」
「そうね。 注意しなきゃね……ん?」
あるお店の前で、私は立ち止まる。
そのお店は果物を売っており、森で採った果実以外にも、見た事がない色とりどりの物が陳列されている。
その中でも、1つだけの真っ赤な果実が、目に入る。
私は、お店に近づくと、風に乗ってほんのり甘い香りが鼻をくすぐる。
「凄く、真っ赤な果物ね。 まるで、獣の血を浴びたみたいだわ」
「確かに、凄い色だな」
クラリーチェが、苦笑いしている。
そんな果実を見ていると、店主と思われるふくよかな人間の女性が私達を見ている。 顔は少し笑っている。
「レッドアイを獣の血と言う人は、お嬢ちゃんが初めてだよ」
「えっと……レッドアイ? これが?」
私は、獣の血と表現した真っ赤な果物を見る。
「そうさ。 赤い瞳の様な感じだから、レッドアイさ」
店主の話を聞いたクラリーチェは、頭を少し傾げる。
「レッドアイ。 それも、中々の名前だなら」
「そうかしら? 分かりやすいし、私は悪くないと思うけど」
「そう……か? まぁ、人それぞれ……だな」
クラリーチェは、私を見てくる。
店主は、私達の会話を聞いて笑い出す。
「はは! お嬢ちゃん達、面白いじゃないか!」
「別に、私は面白い事なんて言ってないわよ?」
「おや? それは、失礼したねぇ」
店主は、不敵な笑みを浮かべている。 これ以上、何か言ったらまた何か言われそうだ。
私は、話題を変える。
「それより。 この、レッドアイが気になるんだけど」
なんだかんだで、この果物の味が気になった私は、店主にたずねた。
「おや? 購入希望かい?」
「そうね。 味が、気になるし」
「この果物は、珍しいから入荷数が限られていてね、結構な値段だよ?」
店主は、レッドアイを見ている。
「値段は、そうだねぇ。 金貨1枚だね」
「え、金貨1枚? ちょっと、待って」
「――ん?」
声を出したクラリーチェを横に、私は袋を取り出す。
袋の中には、確認できる限りでは大小の銀貨各1枚と銅貨が沢山入っているが、金貨は見当たらない。
「……金貨は.無いみたい」
「ふふ。 冗談よ」
「……え?」
店主の言葉に、私は呆気に取られている
「王都でも、珍しいお客さん達だったから、お嬢ちゃんの反応が見たくて思わず冗談を言ったんだけど、まさか本気にすると思ってなくて本当にごめんなさい」
私は、店主が1番期待した行動をしていたみたいで、満足そうな笑みを浮かべる。
クラリーチェも、困った様な笑みを浮かべている。
「流石の私も、果物に金貨はおかしいと思ったんだけどな。 まさか、果物に金貨を出す奴が居たなんてな」
2人は、満足そうに笑っている。
「酷いわね。 この果物は、買わないわ」
私は、そっぽを向く。 2人は、それでも笑顔になっている。
「ごめんなさい。 安くしとくから、許してちょうだい」
店主は、嬉しそうにしながら私に伝える。
「そ、それなら。 買おうかしら」
「――くくく」
クラリーチェが、微かに笑った気がするけど、きっと気のせいだろう。
その後、果物を安く買うと、入れるところが無いので、フード部分に入れておく。
「ありがとう。 後で美味しくいただくわね」
「毎度、ありがとうね。 ソイツは、皮ごと食べられるからね」
「そうなのね。 助かるわ」
この果物は、皮を剥かなくて良いらしく、皮を剥く手間が省けて良いわ。
「もし、また寄る事が会ったら顔を出してね」
店主はそう言いながら、手を振る。
「ええ、考えとくわ」
「ははは! それは、絶対来ない時の言葉だね!」
私達はお互いに笑顔で別れると、再び通りを歩き出す。




