14話 雨宿りと、村長夫婦
曇り空の下、荷台で揺られていると荷馬車が止まる。
私が、顔を向けると3方向の分かれ道の前で止まっている。
コンラッドが、私の方を向く。
「俺はこっちに向かうんだが、ハイラムに向かうなら向こうになる」
コンラッドは右側。 私は左側だ。
私の方に行く看板にはシュラウと書かれている。
「そうなのね。 なら、私はここから歩いていくわ。 助かったわ。 ありがとう」
私は、お礼を言うと歩き出す。
「あ、ちょっと待ちな」
コンラッドに言われて振り返る。
「コレを持っていきな」
コンラッドが、何かを私に投げる。
受け取ったのは、葡萄酒のガラス容器だ。
「ライハムに、1人向かうエルフへの餞別だ。 無事、到着する事を祈る」
「ありがとう。 後で頂くとするわ」
私とコンラッドは、別々の道を行く。
――シュラウ村付近――
空には黒い雲が広がり、水の粒が降り注いでいる。
生きとし生ける者達には命の水だが、旅をするものには厄介な状況でもある。
次第に雨が強くなって行く。
私は、天気が崩れ出す前に見えていた村へと急いで駆け出す。
村に入ると、近くの建物の軒下に入ると雨宿りをする。
流れる水が地面に叩きつけられ、小さく弾ける環境音が、私の耳奥になだれ込む。
私は空を見上げる。
見上げて目に映るのは、淀んだ雲からもたらされる寒く冷たい雨。
私は、濡れた服特有のあの不快感を覚える。
「服が、水を吸って張りつくわね」
私は自身の服を触る。
私は、ため息を吐く。
「雨が止むまで、ここで雨宿りね」
私は軒下から空を見る。 村に来た時よりは、雨足が弱くなり小雨になる。
雨音も、小さくなる。
私は、地面を見ている。
「……ハッ……クションッ‼︎」
思わず、くしゃみが出る。
このまま、濡れた状態でいたら体を壊してしまいそうだ。
私は、辺りを見渡す。
小さい村だからか、宿屋はなさそうだ。
「困ったわね。 ハッ……クシュ‼︎」
再び、くしゃみをする。
私は、葡萄酒を思い出す。
コレを飲んで、体を温めようかと考える。
「飲んじゃおうかしら」
私が、腰袋に手を伸ばそうとした時、雨宿りしている建物の扉が開く。
「外が、うるさいと思ったが……なんじゃ? こんな天気に」
扉の隙間から顔を出したのは、1人の老人だった。
「あ、ごめんなさい。 雨が降ってきたから、止むまでここで雨宿りをしても良いかしら?」
私は、老人に話しかける。 村長は私を見る。。
「…………アンタ、ずぶ濡れじゃないか」
老人は、ドアを開ける。
「風邪をひいたら大変じゃし、家に入って暖まりなさい」
予想外して無かった言葉に、私は驚いて固まる。
それを見た村長は、小さく咳をする。
「何をしておる。 家に、雨が入ってくるじゃろ? 早く、入らんか」
男性に言われて私は、家に上がらせてもらう。 私は、男性の後ろに着いていく形で、暖炉のある居間に通される。
居間で、お婆さんが椅子に座っている
「バァさん。 外で雨宿りをしてたんじゃ。 旅の者じゃろう。 とりあえず、拭く物を」
「わかりましたよ」
お爺さんに言われ、お婆さんは立ち上がると私を見る。
「小さなお客さんだこと。 それでは、案内しますので付いて来てくださいな」
私は、部屋に案内される。 長方形の箱のチェストが置いてあり、お婆さんはそこから布を取り出す。
「これで、頭を拭いてください」
私は、布を手渡される。
「ここまでして貰って良いのかしら? 流石に、悪いわ」
私がそう言うと、お婆さんは笑う。
「気にしないでくださいな。 雨の中、濡れながら遥々来てくれたのです。 これくらいはしないと、村長として示しがつきませんから」
「村長?」
「はい。 この家は、シュラウの村長が暮らしているんですよ」
話を聞くと、村長として旅人をもてなしているようだ。 人数が多いと教会を開けるようだが、私みたいに1人なら状況にもよるが村長の家に泊めたりもすると説明される。
「ありがとうございます」
私は改めてお礼を伝える。
「後、服も暖炉で乾かしたいし、こっちの服に着替えて貰っても良いかしら? 若い貴女からしたら、ババ臭いかもしれないけど、我慢してくださいな。 それと、お二人のお名前を聞いても宜しいかしら? 私はアイラ・ウィルソンよ。 村長を務めているのが、ハリー。 私の夫よ」
「私はアリス・ユニヴェール」
「良い、名前ね」
そんな会話をしながら私は服を脱ぎ、身体を拭いて着替える。
ふと、壁を見ると柄の長い斧が飾ってある。 だが、斧に似ているが、形が知っている斧と違う。
「あの斧って――」
彼女に、尋ねる。
アイラは、斧を見る。
「ああ、アレはね。 お爺さんが若い頃に使っていた、斧槍ね」
「……斧槍」
名前と型からして、突く槍と叩き斬る斧の特性を合わせた武器なのだろう。
「お爺さんは、昔は兵士をしていたのよ。 あの頃のお爺さんは、それは逞しかったわ。 私も、居酒屋の看板娘だったんだけどね、声をかけられたのが私とあの人との馴れ初めだったわ」
アイラは、斧槍を見つめながら昔の話をする。
そして、話が終わって私は暖炉の部屋へと向かった。
私の服は、スタンドにかけられて暖炉付近に置かれる。 装備品も近くに置かれる。
私達も、暖炉を囲う様に座る。 暖炉の優しく暖かな光と対処的に、窓の外は今だに雨が降っている。
遠くが明るくなっており、もう少し待てば止むだろう。
外の様子を見ているとらアイラと村長が木製カップを手に持っており、テーブルに置く。
カップからは、微かに湯気が出ている。
「とりあえず、冷えた身体を温めることじゃ」
「自家製のハーブティーだよ。 お口に合えばいいけど」
「ありがとうございます。 頂きます」
私、ハーブティーを手に取ると、一口飲む。
匂いは芳醇で仄かに甘い香りがし、味もスッキリしている。
村長は飲み終わったのか、カップをテーブルに置く。
「……見たところ、お前さんはエルフ族じゃが、何か理由があって旅をしておられるのかね?」
「……え?」
村長の突然の質問に、私は聞き返す。
「ちょっと、お爺さん。 いきなり、失礼ですよ。 アリス……本当にごめんなさい」
アイラは、怒った表情を村長に向けるする。 村長は、困った表情をする。
「う、うむ。 気を悪くしてしまったのなら、申し訳ない。 ただ、気になってしまってな」
「いきなり質問が来たから驚いただけよ。 私が旅をする理由は、自分探しの旅よ。 その、最終目的地がハイラムね」
私が説明すると、村長が小さく頷く。
「そうじゃったか。 それでは、方向的には王都へ寄る事になるのぅ」
「王都」
私は聞き返す。
王都という事は、オルタネイト王国の中心部だ。
「しかしのぉ………今の、王都はのぉ」
「?」
村長は、何か難しい顔をする。
「実はな。 ここ最近、王都では奇怪な事件が起きとる様なんじゃ」
「事件? 何かしら?」
村長は、話を続ける。
「王都で暮らす孫娘の話では、人が行方不明になると言うのじゃよ」
「行方不明に? なんだか物騒な話ね」
私がそう言うと、村長も頷く。
「なんでも、昨日まで居た人が忽然と姿を消してしまうらしい」
昨日までいた人が居なくなる。 周りからしたら、恐怖でしかない。
「その、行方不明が事件として扱っているって事は、決定付ける何かがあったって事よね?」
私が村長に質問をする。 村長は頷く。
「そうじゃな。 襲われたと思われる現場に、血が見つかったからじゃな。 事件と事故の両方で見ていたらしいが、血が出た事で事件として扱う事になったんじゃな」
「……血が」
私が、呟く。
「とまぁ、話はこんな所だ。 王都に着いたら、気をつけた方が良い。 行方不明は、夜にいなくなっておるみたいじゃからな」
「夜に?」
村長は、頷く。
「暗く人が寝てる時なら、犯行に及びやすいのは確かじゃ」
「……」
私は、カップを見ながら考える。
犯人は、なぜそんな事をするのだろうか。
部屋の空気が重くなっているのを感じ、私は切り上げる事にする。
「ありがとう。 王都の話が聞けて助かったわ」
「……ふん!」
私がお礼を言うと、村長はそっぽを向いて鼻で笑う。
「あら? お爺さんったら、素直じゃ無いねぇ。 今のは、照れ隠しかねぇ?」
アイラの言葉を聞いた村長が、立ち上がる。
「誰が、照れ隠しじゃ!」
さっきの空気ぐウソのように、部屋内に静かな笑い声が溢れた。
その後、ハーブティーを飲み干す頃には雨が止み、村長と別れる事にする。。
村長達は、玄関まで見送りをしてくれる。
「もう、お別れね」
「ハイラムは長旅になるじゃろうが、気をつけて行きなさい」
村長夫妻に、私は頭を下げる。
「はい。 ありがとうございました」
私は、お礼を言う。
「気をつけるんじゃぞ!」
「また、村によってくださいな!」
村長夫妻は手を振り、私も手を振替して前を向いて歩く。 ハイラムに行くなら、通る事になる王都。 何も起きなければ良いけど。
♢
村長夫妻side。
「行ってしまったね。 何だか、孫娘が増えた感じだったのに寂しいねぇ」
「……そうじゃな」
村長夫妻は家に戻る。 村長は、扉を閉める前に晴れた空を見上げる。
「王都か。 本当に、何も起きなければ良いがな」
村長の呟くと、扉を閉める。




