11話 行商人と、酔客の依頼
ルーフの町を出て、平野を歩く。
所々に、小さな林が増え、森に変わっていき森と平原を挟んだ様な道を進む。
私は、そろそろ休憩しようと考えていると、分かれ道に当たる。
片方は森に、片方は平原になっておりどっちに行こうか迷う。
「……とりあえず、ここで休もうかしら」
私は、近くの岩に腰を下ろして休憩をする。
どっちに行くかは、休憩が終わってからでも良いだろう。
そして、私は周りの木々を見る。
「なんだか、いい森ね」
木は、私の住んでいた森より生き生きしている様に見える。 葉は、鮮やかで潤いのある緑色をしており、幹は太く樹皮もひび割れをおこしていない。
私が木を見ていると、来た道から馬車がやって来る。
そして、私の前で止まる。
「お嬢ちゃん。 1人か?」
男性が、声を掛けてくる。
「ええ。 そうね」
私は、質問に答える。
「1人でいたから、心配しちまったよ。 今から、どっちの方向に行くんだ? もし、向かう方向が一緒なら乗っていくか?」
「……え? 良いのかしら?」
「まぁ、途中までなら良いぜ?」
「それじ――」
私は、一瞬乗せてもらおうと考えたがまた、野党だったらと考えて押し黙る。
男性は、私を見て軽く笑う。
「ははっ。 別に、取って食いわせんよ。 もし、怪しい動きをしたらその担いでいる弓矢で撃ち抜きな」
「……分かったわ」
「それじゃ……確認だが、手持ちはあるか?」
男性が、そんな事を聞いてくる。
「? 何で、そんな事を聞くのかしら?」
「運賃だ」
「え? お金を取るの?」
「ああ、そうだ。 タダで乗せるほど、俺は善人ではないぜ? まぁ、俺はお金で運ぶ。 お嬢ちゃんは、お金で楽が出来る。 別に、悪い話じゃないだろ?」
彼はそう言いながら、笑みを浮かべる。
私は一瞬迷ったが、歩き続けるのも大変なのは事実だ。 幾ら、鍛えていても足が痛くなってくる。
「……分かったわ」
「決まりだな。 俺は、行商のコンラッドだ。 まぁ、安くしとくからな」
「私は、アリスよ」
お互いに自己紹介をして、私は荷台の隙間に座る。
コンラッドは、私が座ったのを確認する。
「平原を通って、森を迂回するが良いか?」
「構わないわ」
荷馬車は、平原方面に向かう。
荷台で座っていると、コンラッドが話しかけてくる。
「そいや、エルフが1人で旅か? 目的地は、どこなんだ?」
「……目的地は、ハイラムよ」
「ハイラム? 中々、遠い場所を目指すんだな。 それにしても、エルフがなんであの国に行くんだ?」
コンラッドが、質問をしてくる。
私は、少し考えた後に答える
「……興味、かしら」
「興味?」
「そう。 純粋に外の世界に興味が湧いたのよ。 私が何をしたいのか。 何者になれるのか。 それは、外の世界で経験をしたら答えが出るんじゃないかって思ったのよ」
実際はそんな理由で村を出ていないが、流石に《夢や漆黒について知るために、ハイラムの地下遺跡に行きたい》 何て、流石に言えない。
「自分探しの旅って事か。 なるほどね」
コンラッドは、頷く。
なんとか、理由は言えたし疑われないだろう。
その後、他愛もない会話をしながら進んでいく。
♢
平原を荷馬車で通行していく。 地面の小石や段差で、体が小刻みに揺れる。
「遠回りになる、平原方面で悪いな」
コンラッドが、謝る。
近道の、森を通らなかった事の謝罪だろう。
「別に、私は良いわ。 でも、何故森を避けるのかしら?」
私は、質問をする。 近いなら、森を抜ければ良い筈だ。 それを避けると言う事は、何かがあるのだろうと考えるのが自然だ。
「それはな、あの森には妖精がいるんだ」
「妖精が?」
妖精族。 見た目は身体は小さく、膝程の高さの身長と透き通った羽根を生やしている。
イタズラ好きで好奇心旺盛で、森に住む。
同じ森で過ごすエルフよりは、余り深い場所で暮らさない事もあり、出会う事は余りない。
「ああ。 あいつらのイタズラで、荷物を取られた行商仲間を何人もいる。」
「それは、不運ね」
「まったくだ。 それに、笑えないイタズラをされた旅人も居るくらいだからな……全く。 妖精が居なかったの17年前は、交易路として便利だったんだがな」
「え? 17年前は、あの森に妖精は居なかったの?」
あの良い森に、妖精が居なかったなんて驚きだ。
昔から住んでいても、おかしくない。
コンラッドは、首を振る。
「あの森は、もともと枯れ木が多い森だったんた」
「枯れ木が? 信じられないわ」
私には、想像が出来なかった。 どう見ても、枯れ木が出来る森には見えない。
「しかも、17年前に枯れ木に葉が出たと思ったら、2年程で今の森にまで成長ってもんだ」
「2年で? それは本当?」
2年であの森になる。 自然の凄さを改めて思い知る。
「まぁ、もともと枯れ木の森になる前は、今の森みたいだったみたいだからな、元に戻ったって事だな」
彼の話を聞いて、森は再生を繰り返しているのだと思った。
そんな事を考えていると、コンラッドが前方を指差す。
「あの農園に寄ろうと思うが、構わないか?」
「良いわよ」
「あそこの葡萄酒が美味いんだ。 長旅には、酒だな」
コンラッドは、農園の脇に止める。
「アリスも降りな。 俺の人生で、初めて商いをしたエルフ族だ。 記念に、酒を奢ってやるよ」
商いとは、さっきのお金のやり取りの事だろう。
「そうね。 せっかくだし頂くわ」
そんな、話をしながら私達は建物に入る。
屋内は、宿屋の様にテーブルが置かれており、数人がお酒をのでいる。
「あら? コンラッドじゃない。 久しぶりね」
「ああ、丁度ここを通るついでに酒が欲しくてな。 葡萄酒はあるか?」
「ああ、あるよ。 中々の出来栄えだよ」
女性がそう言いながら、私に気づく。
「彼女は?」
「ああ、彼女はアリスだ。 代金と引き換えに、運んでいる所だ。 見ての通り、エルフ族だ」
「エルフの子なのね。 初めまして、ここで葡萄園兼酒屋をやっているチェルシーよ」
「アリスです。 宜しく」
私達が挨拶をすると、コンラッドが丸椅子に座る。
「まぁ、小さい葡萄園だがな」
「小さいは、余計よ」
2人が笑い合っている。 2人を見ていたら、自分とクロエを思い出す。
私が、2人を見ていたのに気付いたのか、チェルシーが私に向く。
「アリスさん。 どうされましたか?」
「あ、いや。 2人を見ていたら、故郷にいる友を思い出して」
「故郷の? そういえば、アリスさんは故郷を離れて1人で旅をされてるんですか?」
「まぁ、そうね」
私が答える。
「1人で、人間社会に飛び込むなんて、大した奴だな」
コンラッドは、感心した様子で話す。
確かに、あの事件がなければ今も村に居たと思うと、今の状況はすごい事なのかもしれない。
そんな会話をしていると、お酒を飲んでいた1人の男性が私の所に来る。
「なんだ? 兄ちゃんと嬢ちゃん。 面白い話をしてるじゃないの」
「面白い……ですかね」
コンラッドが答えると、男性が私に向く。
顔が赤く、お酒の匂いが鼻に入ってくる。
なぜか頬に、青痣が出来ている。
「カールさん。 また、他の人に絡むんですか?」
チェルシーが、男性に話しかける。
「ちょっと話すだけだ。 それで、お嬢ちゃん。 エルフなんだって?」
「ええ、そうね」
私が答える。 コンラッドは、会話に耳を傾けている様だ。
「エルフは弓矢の名手で、遠くの獲物も正確に撃ち抜くのは本当か?」
「まぁ、名手かは分からないけど、ある程度の距離なら打ち抜けると思うわ」
それを聞いたカールは、頷いている。
「エルフは、森での活動にも慣れているよな?」
「まぁ、そうね。 サバイバルから狩猟までこなせるわね」
私の言葉を聞いたカールの口角が上がる。
「なら、頼みたい事があるんだが、良いか?」
「頼みたい事?」
私が、そう言うとカールは椅子に座る。
「ちょっと、カールさん」
チェルシーがそう言うと、コンラッドが制止する。
「まぁ、聞いて見ようじゃないか」
「コンラッド!」
チェルシーは、コンラッドを睨む。
私は、2人をよそにカールを見る。
カールは、窓の外を指差す。
窓からは、草原と森が見える。
「あの、森には妖精達が住んでいるのはしっているな?」
「ええ。 彼から聞いたわ」
「なら、話は早いな」
カールは、手に持った葡萄酒を飲む。 そして、テーブルに置く。
「ある物を、妖精から返して貰いたいんだ」
「あるもの?」
「ああ。 実は、奴らに俺の商売道具が盗まれちまってな。 それを、取り返して欲しいんだ」
「え? それだけ?」
私は、もっととんでもない依頼かと思っていたのだが、ただ妖精から道具を取り返すの内容で驚いた。
「それだけって。 流石エルフだ。 頼もしいねぇ。 因みに、取り返して欲しいのは工具箱だ。 見ればすぐに分かるだろうさ」
カールがそう言うと、立ち上がる。
すると、コンラッドがカールを見る。
そして、カールに話しかける。
「因みに、報酬は出るのかな?」
「ん? まぁ、礼に酒の一杯は奢ろうと思うが」
「いや、代金で頂こう。 しかも、それなりの額で」
コンラッドがそう言うと、カールが驚いた顔をする。
「それなりの、額だと? ただ、あの小さい妖精から工具箱を取り戻すだけだぜ? 力も、子供くらい弱い妖精が相手だぞ?」
確かに、カールの言葉はごもっともだ。 妖精は、見た目通り力が弱いと聞いたことがある。
私なら、負ける事は無いだろう。
だが、コンラッドは首を振る。
「なら、貴方が直接取り返しに行かないのは何故だ?」
「そりゃあ……」
「それに、チェルシーが また 絡むと言っていたが、それは他の人にも同じ話をしているんじゃないのか?」
「……」
カールは黙る。 コンラッドはチェルシーを見ると、チェルシーは小さく頷いている。
コンラッドは、カールを再び見る。
「他人に頼む前は、自分で奪い返そうとした。 そして、妖精は想像より強かった。 貴方の頬の痣は、取り戻そうとして妖精にやられたのでは無いですか?」
カールは、コンラッドの言葉を黙って聞いている。
反論がないって事は、事実なのだろう。
「依頼を受けた他の人も、妖精に返り討ちか……断られた続けられたか。 そして、今に至りエルフの彼女なら依頼を遂行出来ると思い頼んだ」
コンラッドは、更に言葉を発する。
「そんな依頼に、報酬が酒の一杯なんて割に合わないだろ? 適正な金額を、払うべきじゃないのか?」
コンラッドの言葉に、カールは小さく頷く。
「……あぁ、そうだ。 アンタの……言う通りだ」
カールは、答える。
そして、カールは私に向く。
「すまねぇな、嬢ちゃん。 騙す様な、恥ずかしい真似しちまった」
カールは、頭を下げる。
私は、首を振る。
「気にしないで。 それに、取り返して欲しいのは事実なんでしょ?」
私の言葉に、カールが頷く。
確かに、彼の最初の頼み方は褒められる事じゃ無いかもしれない。 だけど、野党の時と比べたら可愛い物だ。
「なら、私が大事な工具箱を取り返しにいくわ。 報酬額は、彼と相談しといて」
私がそう言うと、カールが頭を掻いている。
私は立ち上がる。
「本当にいくの? 嫌なら断っても良いのよ?」
チェルシーが心配そうにしてくる。
「大丈夫よ。 今回より、大変な状況は体験してるし。 こんな依頼なら楽勝よ。 それじゃ、ちょっと森に行ってくるわね」
「もしアレなら、手伝うぞ?」
コンラッドが言うが、私は小さく首を振る。
「1人で、大丈夫よ」
私はそう言うと、森に向かう。




