9話 助言とアドバイス
「はぁ!?雪河さんとデートすることになった!!??」
「バカ!声がでけぇよ!康彦」
「わりぃわりぃ……んで、まじなの?」
「マジ、大マジだよ」
雪河と今週末遊ぶ約束をした翌日の学校終わり、伊藤と関口の近くのジャンクフード店に足を運んでいた二人。
関口がわざわざ伊藤を誘い、告げられた言葉が信用できなかった伊藤。思わず大声で復唱してしまった。
頼んだポテトを口に頬張りながら伊藤は聞いた。
「で?何でそんなまた急に……」
伊藤の言葉に関口は少しだけ自信なさげに下を向く。その様子を見てここ一週間強の関口を振り返る。
(なるほど……最近躍起になって勉強してたのはこれが理由なのか)
腐っても二人は幼馴染だ。普段自分の力を発揮しようとせずのうのうと生きていただけの友達だったのに、ある日を境にそれが変わったのだ。
勉強会……もっと言うならその次の日から。
あの日二人で帰ったと関口本人から聞いていた伊藤。それが原因なのだとすぐにわかった。
そして伊藤はジュースを持ち、ストローで飲みながら話す。
「まぁ、さすがのお前も中学のようにはいかなかったわけだ?」
「……っせ」
「ハハハ!そりゃそうだろ!お前には勉強をしなかったというブランクがあんだからさ……ずっと努力してきた人間に勝てるわけねぇじゃん」
「……」
何も言い返せなかった。ただ黙りこくって幼馴染からの正論パンチを聞くことしかできなかった。
落としていた視線を上げ、伊藤の方へとむける。
小ばかにしていたような口ぶりだったのに、伊藤の顔はどこか安心したような……少しだけ優しい笑顔だった。
「んだよ」
「いーや別に?ただ純粋に疑問なんだけど……負けてどうだった?」
「負けて……どう思った……か」
あの勉強会以降……自分のできる限りの事はしてきたつもりだ。
特段好きという訳じゃない勉強にあんだけ時間を割いたのも初めて。
そして俺は負けた。しかも学年で二位ではなく……十位という大差をつけられて。
「完敗だな」
「そうか」
関口の潔い言葉に驚くこともせず、伊藤はそう言葉を返す。
「お前はブランクっつってたけど、きっと中学の時のような俺でも雪河さんには勝てなかっただろうな」
「どうして?」
「俺と雪河さんでは、熱意や覚悟が違う」
「熱意や覚悟?」
そう。関口はどうして負けたかはもう知っている。
他人からの期待。そしてそういうものを全てひっくるめたプレッシャー。彼女はそれらに打ち勝ったのだ。雪河は緊張をし、下から這い上がってくる無数の才能に怯えながらも。
「俺なんかの熱意が雪河さんに勝てるわけないだろ?」
「そうか?俺からしたらそんな風には見えないけどな」
微笑しながらいう伊藤。その瞳に映っていたのは紛れもない。
「悔しいに決まってるよな」
「ハッハッハ!それでこそ俺の幼馴染だ」
「んだよそれ」
「まぁいいんだよ。雪河さんの事だ……どうせお前と何かの教科で勝負してお前が負けたから今週末遊ぼうって雪河さんから言ってきたんだろ?」
「……そうだ」
すべて言い当てられてしまい関口は肩を竦めながら答える。
伊藤は「やぱっり」とにやりと笑みを浮かべながら言った。
「それで、女子と遊んだことないから俺にアドバイスを求めてきた……と」
「お前のそういうのはすごいってわかったからいちいち口に出すのやめてくんね?」
「え~?いいじゃん、お前を出し抜くって結構気持ちいぜ?」
日頃の鬱憤のように変な笑顔をする伊藤に関口は溜息を吐く。
(まじでそういうのを日常的にやってたらすごい人間になったと思うんだけどな)
バスケ部の陽キャとしてしられる伊藤康彦。しかし関口もまた、こいつの本当の人間性を知っている。
「んで、何かアドバイスないか?」
「ねぇな」
「は?」
関口の問いに即答する伊藤。
しかもそれが思いもよらぬ返答に関口はぽかんと口を開けた様子で伊藤を見つめていた。
伊藤はその様子を見て溜息を吐きながら言った。
「お前はすげぇ奴だけどこういう女の子に対するのはダメダメだよな」
「だから聞いてるんだろうが!」
「あのな、確かに俺は色んな女子と遊んできた。でも全員が全員同じじゃないんだよ」
「……?」
伊藤は真摯に告げるがその思いが関口には届かなかったようで首を傾げてしまう。
「女の子っていう素晴らしい生き物はな、俺ら野郎どもと違って繊細なんだよ。お前は雪河さんと布瀬を女子っていうくくりにしてるだろ?」
「そうだけど……何が違うんだよ?」
「違うんだなこりゃ」
両手を軽く上げながら首を振る伊藤を見て関口はジト目を向けながら何を偉そうにと心の中で思う。
が、次に飛び出してきた言葉を聞いて驚愕した。
「いいか?雪河さんは雪河さんなんだ。布瀬とは違う。だから俺に聞いても無駄なんだよ。」
「……ッ」
「確かにあると思うぜ?そういう女の子にモテるなんちゃら~とかはな。でもその人のことを知りたかったら、その人の事をきっちり見てあげないといけない。雪河さんの事をよく知って、よく見ているのはお前なんだからな。祐介」
すべてが理解できたわけじゃない。でも……関口の聞きたかったアドバイスを聞けたのは確かだった。
(雪河さんの事をよく知って……よく見る……か)
関口は顎に手を当て考えるような仕草をする。伊藤は残りのバーガーを口に頬張り、ジュースを飲み干す。
「俺にできるかな……雪河さんを楽しませること」
「はぁ?何言ってんだよ。お前はほんと変な所で自信なくすよなぁ~」
これまた何も言い返せず黙りこくっていると、伊藤は関口の方を見て言った。
「お前はお前のままでいいんだよ。きっと雪河さんもそれを望んでる。」
「そうか……そうだといいな」
「ったく、俺はお前と長くいるからな……何を考えてるのかとかすぐわかんだよ」
「嘘つけ」
関口も残りのバーガーとポテトを食べ終え、ジュースを飲み干す。
と、そこで素朴な疑問が頭をよぎり伊藤に質問をした。
「お前は布瀬さんとは付き合わないのか?」
「ぜってぇねぇから」
先程まで温厚で優しい表情をしていた友達が、布瀬という名前を聞いた途端苛立ちを覚え即答する。
二人はきっと何かあるのだろう。関口はそう思うしかなかったがそれ以上聞くことはなかった。というより……聞かない方がいいのだろうと思った。
首を傾げながらも関口はそう思い、ジャンクフード店を後にするのだった。
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