8話 罰ゲーム
テスト返しも終わり、順位の発表もされた現在。
二人は忘れていたわけではなかったが、数学の勝負で勝った負けたというのが印象に残りすぎて少しだけ抜けていた。
後日、通常授業で関口がふとひらめくように罰ゲームの事を思い出した。
(うっ……確か罰ゲームの事、テスト返しの後何も話してなかったな)
このまま触れなければあわよくば見逃してもらえるかもしれない……そう思いながらゆっくりと雪河の方へと視線を向ける。
「……ッ」
「ふふ、目があったね」
相変わらず、すごく可愛らしい……ニコッとした表情で関口の事を見ていた雪河。
関口は心の中で授業ちゃんと聞いてるんだよな?と思いながら学年一位の成績を疑ってしまう。
その悪戯心も含まれているであろう表情に関口は肩を竦める。
「(罰ゲームの事、思い出した?)」
「(……もしかして俺が思い出すのずっと待ってたの?)」
「(いいや?気づいたのはさっきだよ。そういえば罰ゲームの事話してなかったな~って)」
(ってことはほとんど同時にじゃねーか)
視線を逸らし、軽く溜息を吐く関口。
むすっとしている表情を見て雪河は微笑する。
「(それで?罰ゲームの内容は決めたのか?)」
頬杖を突きながら聞く関口。ニコッと笑ってからシャーペンをもってノートの空いている場所に何かを書き始める。
「……?」
ササッと書き終え、人差し指で書いた場所をさす。
関口は怪訝な様子でノートを軽く覗き込む。
そこに書いてあった内容は『今日一緒に帰ろう』だった。
「(こんなんでいいのか?)」
「(うん!)」
これまたいい笑顔で言うのでこれ以上は何も言えず。関口は安堵した気持ちと本当にこのお願いでいいのかという気持ちが表れていた。
そして……二人の会話が先生の耳に聞こえてたみたいで注意の言葉が飛んでくる。
「お前らはまたこそこそ話して!ちゃんと授業聞いてるんだろうな?」
懐疑的な目を向けながらいう先生に対し、前に座っていた生徒が一言。
「学年一位と十位ですよ?」
「ぐっ……そうだった。とにかく!もう少し静かにしなさい!全く……最近のカップルは……」
「カッ……!?」
「カップルじゃないです!」
雪河が頬を赤らめながら否定し、先生は「そうなのか?」と少し驚いた様子で見ていた。
それを見ていたクラスの全員は笑い声をあげる。
「なんだ……お前達付き合ってないんだ」
「「違います!」」
そう言いながら先生は黒板に板書を始める。
関口と雪河はハモリながらも気まずそうにノートを書き始め、クラス全員は心の中で同じことを思っていた。
(((わかるよ。先生)))
◇
今日の授業が終わり、罰ゲーム(?)の時間がやってきました。
(正直、罰ゲームというより俺からしたらご褒美なんだけど)
下駄箱で靴に履き替え、校門で待っている雪河の元へと向かう。
「ごめん。少し遅くなった」
「ううん、全然私も今来た所だから大丈夫だよ!それじゃ行こうか」
校門をくぐり、紅い夕焼けが二人の背中を照らす。
少し歩き右に曲がる二人……まだ会話はしていなかった。
(……気まずい、ってわけじゃないけど……なんかすごい緊張感があるな)
(どうしよう……関口くんがかっこ可愛くて横を見れない!)
ちらっと視線を向け一瞬合う。雪河は少しドキッとさせながらも視線を逸らす。
(え?俺もしかしてなんかよくないことした?嫌われちゃった?)
雪河が視線を逸らした瞬間、関口は自身の心のガラスにヒビが入った音が聞こえたような気がした。
声にならない声を上げながら歩き、雪河はそんなことを気にも留めない様子で歩を進める。
(関口くんと帰れるのはすごく嬉しいけど……関口くんは嫌じゃないかな……)
テストの点数で勝負をし、罰ゲームと評して一緒に下校をする。
雪河はものすごく嬉しい気持ちでいたのだが、関口自身はどうなのだろうと少し気になっていた。
そこで、下駄箱から会話をしなかった二人だったのだが雪河が先に口を開く。
「ねぇ……関口くん」
「……?どうしたの?」
雪河は視線を落としながら、口ごもりながら言った。
「関口くんはさ……私と一緒に帰るこの時間が、罰ゲームだと思ってる?」
「……どういうこと?」
「ほら!テストで私が勝手、お願いを聞いてもらう形で一緒に帰ってるじゃん?その……一応罰ゲームっていう程で話しを進めてたから……」
雪河にそう言われ、関口が最初に思った事はなんとも的外れなものだった。
(もしかして……帰りにこんなに黙ってるから変な誤解をさせてしまったのか!?)
確かにテストで負けて罰ゲームとは言ったが、当然この帰りを罰ゲームだなんて思っていない。むしろご褒美だと思っていた。
罰ゲームだなんて言葉はただの建前だ。
関口は雪河の方に視線を向けるわけでもなく、前を向きながら言った。
「俺は雪河さんと帰れて嬉しいよ」
「……ッ」
「黙りながら一緒に歩いているだけでなんか安心するっていうか……その、なんていうんだろうね」
関口は頭を軽く掻きながら肩を竦め、苦笑する。
「でも、雪河さんと一緒に帰ることが嫌だなんて一回も考えたことないよ」
「関口くん……」
思ったよりも素直に言うので雪河の頬と耳は赤く火照っていた。もちろん関口がそれに気づけるはずもなく、追い打ちをかけるように言葉を綴る。
「まぁ俺からしてみれば?こんなのお願いの内に入らないから何か一つ別の事を聞いてもいいですけどね?」
変な緊張を隠しながらも、声が少し震えているのが雪河にバレて落としていた視線を上げてはにかんだ笑顔で笑った。
「ふふっ……何それ、私がテストで勝ったんですけど~?」
その笑顔に……関口はただ見惚れていた。
夕日のせいなのか、それとも雪河も照れているのか……赤くなった頬を隠すという事をせず、なんとも可愛らしい笑顔で笑う雪河朱音という女の子に見惚れていた。
(な……んだこれ)
胸の鼓動がいつもより早く感じる。
きっとこれは気のせいじゃない。でも……今の関口がこの変な気持ちを説明できることはないだろう。
そしてそれは……雪河も同じだった。
(いつもより心臓が早く動いてる……そっか、私……関口くんに言ってもらった言葉が嬉しかったんだ)
そう心で呟きながら、隣で歩いていた雪河は少し駆け足して関口の前に立つ。
次に彼女は振り返りながらこう口にした。
「それじゃあ……今度の土曜日、二人でお出かけしませんか?」
「……おでかけ?」
「そう!だってもう一つ別のお願いを聞いてくれるんでしょ?」
まさかのお誘いだった。
関口はてっきり明日の購買で奢ってね、とかそういうお願いかと思っていた。
でも……あのクラスで……学校で人気者の雪河さんと二人きりで出かけるという程案を向こうが出すとは思っていなかった。
(二人……二人?マジで?)
これには関口も脳内で処理しきれていなかった様子。
関口は女の子と付き合ったことがないのはもちろん、異性と二人きりで遊ぶなんてことは一度もなかった。
振り返って聞いてる雪河は関口の反応がよくなかったのと、静寂が続き恥ずかしくなってきたのかもじもじと体をさせたり髪をくるくると触ったりしていた。
「……どう、かな?」
雪河の声に関口はハッとし、視線を逸らしながら答えた。
「まぁ……俺でよかったら、その……よろしくお願いします」
どう返答するか悩んだ結果、なんか意味が分からない返し方になってしまったが雪河はそんなの覇気にも留めず喜んでいた。
「ほんと!?やったやった!それじゃ今週の土曜日楽しみにしてるね!それじゃ、また明日ね~!」
「あ、うん……また明日」
雪河はウキウキさせながら曲がり角をまがり、解散をした二人。
ちょこんと残された関口は思わず言葉をこぼしてしまう。
「ま……じか」
◇
曲がり角を曲がり、関口の姿が見えないのを確認した雪河は壁に背を預け大きく深呼吸をする。
「よ……よかったぁ……断られるかと思った」
雪河はそう小さく呟くのだった。
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