10話 雪河さんと関口くんはお出かけをするようです 前編
雪河さんと関口が出かける当日……アラームが鳴り響き関口は起き上がる。
「んわ~……ねみぃ」
伸びをしながら日光に当たり、部屋を出る。
階段を降りリビングへと行くといつもはいない姉の姿があり、関口弟は眉をひそめる。
「おうおう祐介くんや、お姉ちゃんの姿を見るなり不機嫌になるのやめておくれよ……まずはおはようの一つや二つ言ってくれてもいいんじゃない?」
「おはよう姉さん……別に不機嫌にはなってないよ、ただ驚いただけ」
「まぁあんまりあんたとはタイミングもあって会う機会がほとんどないからね~」
基本姉の芽衣は家に帰ってくることが少ない。そしてプラスで帰ってきても祐介と顔を合わす機会がかなり減った。
こうして休日に話すのもいつぶりだろうか。
(って言っても……前にここで話したか)
そう考えながら冷蔵庫から水を取り出す。
姉の芽衣は弟がこうして朝早くに起きてくるのが珍しいと知っていたので悪戯半分でちょっかいをかけてみることにした。
「それで~?こんな早くに起きてどうしたのかな~?もしかして誰かとお出かけですか?」
「ん?そうだけど」
「あら、素直に認めちゃうんだ」
またあしらわれると思っていた芽衣は少し驚いた様子で弟の祐介を見ていた。
視線を感じた祐介はジト目を姉に向ける。
「何見てんだよ」
「そりゃ見るでしょうよ。何々?好きなこと遊びに行くの~?男友達にしては早いもんね~?」
「……ッ」
相変わらず姉の洞察力はすごい。これが女の勘ってやつなのか、単に祐介が分かりやすいだけなのか……そして今の反応で姉は全てわかったみたいで驚いた様子から一変、再度小悪魔のような悪戯表情に戻っていた。
「ふ~ん……それで?どこにいくのん?」
「別に姉さんには関係ないだろ?」
「関係なくはないよ、だって弟の晴れ舞台なんだもん」
「んな大袈裟な……」
ぐいぐいと迫ってくる姉に祐介は呆れながらも答える。
「普通に、映画に行って水族館行こうと思ってる」
「お~!青春だね~初心だね~!」
青い話を聞いてにやにやとする姉。また何か言われるのだろうと身構えていた祐介だったが……
「まぁ楽しんできなよ。これは私からの本の気持ちだよ」
「……ありがとう、姉さん」
そう言って渡されたのはなんとお金だった。祐介はそれを手に取り姉が自分の部屋に戻っていくのを見ていた。
祐介はその姉の行動に微笑しながら口にする。
「ふっ……いつもみたいにからかって来いよ」
◇
関口は準備を終え、約束の時間ほぼぴったりに目的地へと到着していた。
時間は朝の十時……最寄りの駅のホームに集合。
「さすが週末ってだけで人は結構いるなぁ」
あたりを見渡しながら呟く関口……すると後ろから黄色い歓声が聞こえ振り返る。
「……ッ!?」
見るとそれは……紫色の髪をなびかせ、可愛らしいワンピースを着ている一人の少女だった。
そしてその人物はゆっくりと関口の方へと近づく。
「ごめん関口くん……お待たせしちゃったかな?」
「あ……いや、俺も今来た所だから大丈夫」
(やべぇ……超かわいい……私服姿初めて見た……)
白色のワンピースが雪河の美しい髪をより引き立たせ、白のワンピースもその髪に負けない美しさを放っている。どちらも神というわけだ。緊張はもちろんしているが、こうして一緒に遊べるという出来事を設置してくれた神様には感謝しないといけない。
今まで学校の制服しか見てこなかったからか私服が一段と輝いて見えてしまう。
しかし、周りの人間がざわついているというのもあり、その輝きは偽りではなく本物なのだろう。
そしてそれは……雪河もそうだった。
(やばいどうしようどうしよう!すっごく可愛いくてかっこいいんですけど~!)
関口の私服を見て雪河は表情に出さないように反応していた。
関口の私服は何の変哲もない白の服に黒いズボン……そして黒の羽織を羽織っている。
雪河はその私服姿を見て、とても歓喜していた。
(やっぱ関口くんはシンプル目な服が似合う!とてもいい!解釈通りね!)
合流したはいいものの、周りの視線が気になる関口は早くこの場から離れるよう提案をした。
「それじゃあそろそろ行こうか……ちょうど電車も来るみたいだし」
「そうだね!」
(これ以上ここにいると周りの視線で俺の体が貫通しそうだ……)
そうして二人のお出かけはスタートした。
◇
「わ~!綺麗!」
「そうだね、雪河さんはあんまり電車乗らないの?」
電車に乗った二人は目をキラキラさせながら景色を見ていた。
雪河さんは視線を軽く上に向けながら答える。
「う~ん……たまに出かけるけどこっち側に来ることはめったにないかな?」
「確かに、逆の方向いけば栄えてるしあんまこっち側に来ることもないか」
このお出かけのプランを考えたのは二人だが、二人はあえて栄えている方ではなくあまり人がいない映画館と水族館を選んだ。
(水族館に関してはもう一つの大きい方を選ぶと思ったけど……まぁ学校の人とかに出くわす可能性もあるしこっちの方がいいわな)
関口はそんなことを考えながら次々と移り変わる電車の景色を眺める。
一方その隣の雪河さんはというと……
(関口くん、水族館の話したときは少し不思議そうにしてたけど大丈夫だったかな?でもでも、学校の人たちと出くわすかもしれないっていう言い訳の裏側には、人気の少ない場所を選べば二人っきりの時間が増えるって事……!えへへ、嬉しいなぁ)
実際、電車に乗っている人間は最初と比べてかなり減っていた。
これも全て……雪河の思惑通り、ということなのか。
そうこうしているうちに目的地の駅に着き、二人は自販機で飲み物を買う。
「何がいい?」
「いいよいいよ!自分で買うから!」
「もうお金入れちゃったしいいよ。好きなの選んで?」
(何その言い方、メロい……)
少しドキッとなりながらも自販機の前に立ち、選び終えた雪河はお茶のボタンを押した。
雪河がボタンを押したすぐ、関口も自分の飲み物を買い自販機から落ちてきたお茶を手に取り雪河に渡す。
「はい、どうぞ」
「ありがとう!」
その優しい笑顔を見て関口も思わず胸をドキッとさせる。
自分のした行動を振り返り少しだけ不安になるも、次の瞬間には消えていた。
「わ~!見てみて!こんな所にマスコットキャラクターがいるよ!」
「来てくれてありがとうございます!この子はたーくんといって田圃をイメージしたキャラクターなんですよ!」
「お写真いいですか!?」
「どうぞどうぞ」
関口はなんて安直なキャラクターだと思いながらも嬉しそうに話す雪河を見て、微笑する。
「おーい!関口くんも早く来てよ!」
「今行くよ!」
電車を降り、広がっているのは田圃。
しかし、駅のすぐそばに少し大き目なショッピングモールがあり映画館も増設されたらしい。
比較的新しいらしいので人がいないわけではないが、栄えている方と比べればここは穴場ともいえる。
二人は事務員の人に写真を撮ってもらい、雪河はその写真を見てとても嬉しそうに笑う。
まるで……宝物が出来た子供みたいに。とても嬉しそうに……。関口はその顔を見て可愛らしいと思う反面、内心でドキドキと胸を高鳴らせていた。
(こんなに雪河さんが違和感なく笑うの初めて見た気がする……めちゃくちゃ可愛いじゃん)
「ん?どうしたの?」
「……ッいや、なんもないよ!早く行こ!」
「ん~?」
関口が誤魔化すように早歩きで歩いていくのを見て雪河は小首をかしげる。
しかし考えても分からないので雪河は追いかけるように走り出す。
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