11話 雪河さんと関口くんはお出かけをするようです 中編
時は少しだけさかのぼり、お出かけ前日の夜。
「どうしようどうしよう!絵美里!もう明日だよぉ!」
『ちょっとは落ち着きなさいよ。それで?なんの服にするか決めたの?』
「それが全然決まんないの!!」
クローゼットを開けながら服を探す雪河。部屋全体に布瀬のため息が響き渡る。
二人は電話を繋ぎ、スピーカーにしながら話しているのだが……関口同様雪河も友人である布瀬に遊びに行くことを伝えていた。
「どういうのがいいかな?ワンピース?それともちょっとボーイッシュな感じで行ってみるとか?関口くんの好みが全然わかんないよ~!」
『そりゃあっちも一緒でしょうが』
「帽子も被っていこうかな……あ~もう!なんで私は事前に決めておかないの!」
学校から帰って来てすぐ、明日着ていく服を決める雪河。学校生活とは異なるその行動を布瀬は知っていた。その理由は関口と伊藤のように、二人も小さい頃からの幼馴染だったからだ。
『あんたのそういう所、昔っから変わらないわよね~……勉強も運動もできる完璧な雪河さん……か』
「この世に完璧な人なんかいないんだよ!しかも私は皆が言うような人でもないしね」
『話変わるんだけどさ……朱音って関口くんのことどう思ってるの?』
「……えっ!?」
急に女の子のような声を上げ、誰も見ていないのに自分の髪の毛をくるくると触りだす雪河。
布瀬は見ていないのにその行動をわかっていたかのように指摘する。
『どうせ今あんた、自分の髪の毛でも触ってんでしょ』
「ギクッ!」
『どんだけ一緒にいると思ってんのよ……で、どうなの?』
勉強会の時に言っていた、伊藤の記憶が蘇るも布瀬は幼馴染である雪河に聞いていた。
数秒の沈黙はあったが、次の瞬間ベッドに座ったような「ぼふっ」って音が聞こえ雪河は口を開く。
「どう思ってる……か。正直わからない。好きなのかも好きじゃないのかもわからない。でも……一緒にいて楽しい人だし、もっと知りたいって思える人なんだよね」
『そっか……まぁ未知な男に女は惹かれるっていうし?』
「そんなんじゃないよ!」
『わかってるってからかっただけ』
冗談と分かる声色で布瀬は話す。布瀬からしてみればそれが好きって事なんじゃないの?と思ってしまうのだが、変に刺激して明日のお出かけが空回りしても嫌だと考え変なことを言うことはしなかった。
雪河は自分の気持ちが分からないという本音を抱えているのは事実だが、黙りこくっているのを見抜いていた布瀬は声をかける。
『まぁ明日は変に考えずパーッと楽しんできなよ』
「うん!そうだね!そうするよ!」
『帰ってきたら色々と聞かせてね?』
「別にそんな面白いことはないと思うけど」
『あんたたちが遊んでるってだけで面白いから大丈夫だよ』
「そんなものなのかな~……あ、そうだ!伊藤くんとはどうな————」
ぶちっと電話が切られ、雪河は苦笑する。
そのやり取りをしたおかげなのか、気持ちは和らぎすっと服が決まった。
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ショッピングモールに着いた二人。目的地は増設された映画館なのだが、まず先にご飯を食べるか、映画を見終わった後にご飯を食べるかで話し合っていた。
「十一時かぁ……映画見ちゃうとお昼回っちゃうよねぇ、関口くんはどっちが先がいい?映画化ご飯か!」
その質問に声を唸りながら答える。
「ん~そうだねぇ、水族館行ったら何か食べれるものがあるかもしれないし映画の前にご飯食べてもいいんじゃないかな」
「……」
返答がないので横に視線を向けると、口をポカンとあけながらぼーっとしている?雪河の表情を見て困惑する。
(え?俺もしかして……なんか言っちゃまずかったこと言ったかな?)
雪河の顔の前で右手を軽く振り、フリーズしている雪河を起動させようとするのだが……
「関口くんって、決めるんだね」
「え?」
「てっきり私、どっちでもいいっていうのかと思ってた」
「……え、俺ってそんな嫌な人に見られてる?」
自分の事を指さし、しょんぼりしながらいう関口を見て雪河は必死に弁明するように両手を振る。
「あ、違う違う!その……なんか意外っていうか……ごめんね!不快にさせちゃったよね!」
肩を竦めながら視線を落とし、雪河は小さく呟く。
「(何言ってんだ……私、最低)」
関口は雪河が何を言っているのか聞き取れなかったが、なんとなく理解していたようで視線を逸らしながら口を開く。
「まぁ確かに基本的にはどっちでもいいっていう人間だとは思うけど、その、なんていうか……雪河さんには今日、楽しんでもらいたいし」
「……ッ」
落としていた視線を上げ、少し気恥ずかしそうに言っている関口を視界にいれる雪河。
雪河は関口が落ち込んでいると思っていたし、そのせいで変な空気にさせてしまっているという申し訳ない気持ちがいっぱいだった。でも、関口は違った。雪河に楽しんでもらいたい。自分の意志を持って言ってくれているんだろうと伝わった。
(ほんとに私……なにやってるんだろう)
雪河も関口に楽しんでもらいたいという思いは当然あった。
しかし、関口も同じことを思ってくれていたなんて思わなかった。
それが、とてもとても嬉しくてたまらなかった。
「私も、関口くんに楽しんでもらいたい!今日は私がリードするので!」
「それは違う!俺もリードする」
「じゃ、一緒にだね!」
もう、先程のような重い空気はなくなっていた。
二人は軽く笑いながら、フードコートに足を運びご飯を注文する。
「関口くんは何頼んだの?」
「俺はうどん頼んだよ、雪河さんは?」
「私はねぇ蕎麦頼んだよ!」
フードコートは色んな食べ物がある。その中で蕎麦とうどんは何気にすごいんじゃないのか?
しかもそれが同じ店ではなく、違う店で似ているものを注文するという軽い奇跡。
「意外とお互い好みにてるかもね!」
「そうだね」
そうこうしているうちに番号札のブザーが鳴り、二人は取りに行く。
「「いただきます!」」
二人は手を合わせ、頼んだご飯を食べ始める。
これまたすごいことに、互いにざる蕎麦とざるうどんだ。
少しだけ違うものがあるとすれば……雪河の方はバニラアイスを頼んでいるという点。
(互いに啜るものだからカップルのような「あ~ん」なんてことはさすがに起きないか……)
期待していたわけではない。でも……少しだけ、ほんの少しだけそういうのがあってもよかったんじゃないかと思ってしまう関口。
うどんをすすり終え、向かいに座っている雪河も残りはバニラアイスだけになった。
一口頬張り、美味しさをかみしめるように声を上げた。
「ん~!おいしい!牛乳の味もほのかに感じ取れるし何よりも甘い!」
美味しそうに食べる雪河を見て関口は優しい笑みを浮かべる。
次の瞬間、雪河はそのスプーンを関口の前にだしていた。
「ん?」
「ほら、関口くんも食べて見なよ!おいしいよ?」
「……~~~~~~~ッ」
首を傾げながら平気そうに言う雪河を見て関口は唸り声のような声を上げる。
スプーンに乗っているバニラアイスが若干溶けはじめ、垂れそうになっている。
雪河は「溶けちゃうよ?」といいながらさらに関口の口にスプーンを近づけた。
(いや、確かに少しは期待した自分がいたかもしれないよ?でも、まさか本当にあるとは思わないじゃんね?)
しかし、ここまでされて遠慮するのはできない。というより、もうほとんど完全に溶け始めており零れるのは時間の問題。
ここで断ってしまったら白いワンピースに汚れがつくかもしれない。それだけは絶対に避けなければならなかった。
そして、関口は口を開け……バニラアイスを口に入れる。
「う、うまい……」
「でしょ!?」
うまいのは確かだ。でも……それどころではなかった。
心臓がバクバクという音を上げ、向かいに座っている雪河に聞こえていたんじゃないかって思ってしまう程に……そしてそれは当然、雪河も同じだった。
(よ、よかった~~~~!食べてくれた!緊張で心臓が爆発しちゃいそうだけど……関口くんに聞こえてないよね?)
雪河は恥ずかしさを隠すようにアイスを食べ進め、二人の食事は終了した。
そして、映画鑑賞に入る。
◇
「すっごくおもしろかったね!やっぱホラー映画って演出もすごいけどキャストがいいよねぇ!」
「ほんとだよ……かなり怖かった映画だったな」
ホラー映画に苦手意識があったわけじゃなかったが、今回見た映画はかなり怖かったといえる。
映画デート特有の隣にいる相手の表情を見て楽しむとか、そういうことが出来なかったのは残念だ。
(映画に夢中になりすぎて関口くんの表情とか見れなかったのは悔やまれる……)
奇しくも互いに同じことを思考するのだった。
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