12話 雪河さんと関口くんはお出かけをするようです 後編
映画を見終わり、ショッピングモールを出る二人。
なんと嬉しいことに水族館までの距離はさほど離れておらず、歩いていける距離だ。
「ここからどれくらいで水族館に着くんだっけ?」
「えっと……多分十五分くらいかな?疲れたりしたら遠慮なく言ってくれ」
「へーきだよ!意外とこう見えて私、運動好きだから!」
(そういえばそうか……体育の成績もいいってみんな言ってたもんな)
学校での出来事を思い出し思わず苦笑する関口。
二人は並びながら歩き、視線を合わせず会話をしていた。
「運動といえば、関口くんって運動得意なんでしょ?」
「ん?何でそんなまた急に……」
関口は「もしや……」と小さく呟きながら軽く誤魔化すようにするが、雪河がにやりと笑みを浮かべてその進行を阻んだ。
「伊藤くんから聞いたんだよね」
「あいつ……また余計なことを……」
やはり、勘が当たってしまった。
頭の片隅に伊藤の顔がちらつきさらにイラっとしてしまう関口。
その様子を見て雪河は少し不思議そうに聞いた。
「関口くんってさ、なんでそんなに自分の事を知られたくないの?」
「え?」
「だって、この前の勉強会の時も伊藤くんの言葉に少しイラっとしてたでしょ?なんで口止めしてるのかなって気になっててさ」
「そ、それは……」
視線を逸らしながら頭を掻く関口……まさかそこまでお見通しとは思わなかった。
別に、言われて困ることではない。だが、率先して言う事でもない。
伊藤に口止めしている理由はあいつは余計なことを言いがちだからそうしているだけ……なのだが、どうも雪河は別の答えを聞きたそうだった。
関口は視線を空に向けながら話す。
「どうしてだろ……わかんないな。でも俺は自分に興味がないんだよ。そんな人間の話をしたって何も面白くないでしょ」
「そんなことないよ!」
「……ッ」
関口がそういうと、雪河は少し大き目な声で否定した。
声の大きさに驚いたというのも少しはあったかもしれないが、何よりも否定されたことに驚いてしまう。
今まで伊藤康彦という男意外に……そういう人間とは出会ったことがなかったからだ。
誰もいない、車も通っていない道で二人は立ち止まりながら向き合う。
雪河は視線を落としながらもその頬は赤くなっており、次の瞬間その顔を上げて話し始めていた。
「関口くんが昔、どういうことがあったのかは分からないし……それを無理やり聞き出そうとは思ってない。でも、少なくとも私は……関口くんのこともっともっと知りたいって思ってる!」
「……雪河、さん……」
「ダメ……かな?」
「ダメ、ってわけじゃないけど……どうして……」
「友達!だから!」
今までで一番顔を赤くしている二人。告白とも聞き取れるその言葉に関口は戸惑いながらも「友達」という言葉に反応をする。
(もっともっと知りたいって……どういうことだよ。意味わかんねぇよ。俺はつまらない人間だ。それは昔っからそうだ)
ずっと、ずっとそう考えてきたのにそれを真っ向から否定する人が目の前にいて、関口は言葉を返す余力なんてなかった。
数秒が経ち、少しの沈黙が続いた。雪河さんは我に返ったのか視線をパッと逸らしながら髪の毛を苦r来ると触る。
「ご……ごめん急に」
「……いや、全然大丈夫……」
「驚いたよね……でも、友達の事をもっと知りたいって思うのは普通だと思うけどな?」
「た、確かにそうかもしれない。友達……か」
「あ、もしかして関口くん……私の事友達って思ってなかったの?」
ぷくぅっと頬を膨らまし顔を少しだけ近づける雪河。そんな表情がとてもかわいく見えてしまい、関口は思わず赤面させてしまうのだが、視線を逸らすという事も、肩を竦めるという事もせず……その目をじっと見つめながら言った。
「いや、友達だよ。とても大切な……ね」
「……ッ……なら、いいんだけどね?」
近づいていた頬を離し、二人は歩みを進める。
水族館までの道のりの間、二人が会話をすることはなかった。いつもだったら気まずいとか話さなきゃと思ってしまう空気なのだが不思議と……二人は黙っていてもそう考えることはなく、むしろ安心したような感覚が走っていた。
(うぅ……咄嗟にあんなこと言ってしまったけど大丈夫だったよね!?でもなんで友達っていうだけでこんなにドキドキしたんだろう……)
(結局……運動が出来る云々の話できなかったけど、まぁいいのかな?)
でもそれはきっと、二人が自分の心の中で必死に会話をしていたからなのかもしれない。
◇
「すみません、チケット二枚お願いできますか?」
「二枚ですね。料金2000円になります。」
「こちらからお願いします」
水族館につき受付にさらっと向かいお会計もする関口。
昼ごはん代も払ってもらっている雪河にとってはここは譲れなかったようで千円を握りながら無理やり関口に渡そうとする。
「どうぞ!」
「いいよ、あ……じゃあ水族館入ったら飲み物買おう。そこで奢ってもらおうかな?」
「う、わかった……ありがとう」
(なんか、手慣れてるっていうか……複雑な気持ち!)
うまく言いくるめられてしまった雪河は頬を膨らます。
その様子を見ていた関口は苦笑しながら心の中で呟いていた。
(小さい頃から姉さんに色々連れまわされてやってくれたことを見様見真似でやってるだけなんだけど……大丈夫かな)
そのままチケットを渡し、中に入ると雪河はそんな思いなどどこかに消えテンションが爆上げ状態になっていた。
「うわ~!すごい!入り口からこんなきれいでいいのかな!」
「ほんとだね……ここは初めて来たけどすごいや」
入り口から広がる青。ものすごくでかい水槽に数多くの魚が出迎えてくれこの先の期待も膨らんでいく……自然と写真が撮りたくなる場所だった。
「もう一個の水族館は行ったことあるけど、ここの雰囲気もすごく好きだな~!」
「ね!どうする?左右どっちからでも進めるっぽいけど……」
デカい水槽の真下には左右に矢印が引かれていた。説明書を読む限りどちらからでも全部回れて行きつく先、ゴールが同じというものだった。
おそらくは左右で順番が違うのだろう。こういう所でも楽しみを求めるその企業努力には頭があがらない。
雪河は説明書を軽く読み、子供のような笑顔で指をさす。
「それじゃ、こっちから行こうか!」
「右ね、わかった」
ここから水族館の旅がスタートした。
一言で表すなら綺麗……それが一番的確だろう。青く薄暗い水族館の中は涼しさを覚え、視界に映る魚がどれも綺麗で美しく、客を魅了していった。
中でもトップで人気なのはイルカショーと、クラゲコーナーだ。
「私達は右から行ったからイルカショーが最後だね」
「お、次はクラゲだよ」
中に入ると薄暗かった部屋から一変、足元がギリギリ見えるぐらいの暗さになり……明かりを照らしているのはクラゲが入っている水槽。赤や紫、様々な色が透明なクラゲを照らしておりどれも綺麗だった。
「見てみて!このクラゲ!小さいのにすごく足が長いよ!」
これには雪河もテンションが上がり、その様子を隣で見ていた関口は本当に目が離せなかった。
クラゲが綺麗だったのはもちろんだったが、関口の視界に映る雪河があまりにも綺麗だった。
(綺麗だ……ほんとに。こんなにも他人を見つめたのは初めてかもしれない)
当然ペンギンや古くからいたといわれた魚の化石など目にしている。が、水族館の中に入ってから雪河の横顔を見ている時間の方が少しだけ長く感じてしまう。
「ん?どうしたの?あ、このクラゲも可愛い~!」
「写真撮らなくていいの?」
「そうだね!一枚だけ撮っておこうかな」
雪河はそう言いながらポケットの中からスマホを取り出しクラゲの写真を撮る。
(あんまり写真とか撮ってないけど大丈夫かな?)
関口はそう思いながら周りのクラゲを見る。
こういう場所に来たら写真を撮りたくなるのが普通だと姉が言っていたのを思い出す。しかし水族館にきて関口が見ている間ではスマホを取り出す動作はなかった。
が……しかし————
(今のうちに関口くんの写真も撮っておこう)
シャッター音が鳴らないアプリで関口の後ろ姿とクラゲの綺麗な写真が撮れる。
もちろん、雪河は写真を撮るのが好きだし入り口は何枚か撮った。それでも……
(関口くんの横顔を見るのに夢中になりすぎて全然写真撮れてなかったなんて……絶対に言えない)
二人は互いの横顔を見ていたのだった。
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